我が名はテレパシー④
屋上を季節外れの生ぬるい風が吹いているような気がした。 相手の言っていることがどこまで本当かは分からないが、穏やかにお話ししようという雰囲気では全くない。
マインドコントロールというのがどんなものなのか詳しく分からないが、精神を操るというのだから穏やかではなかった。
―――・・・ここは逃げるが勝ちか。
久遠は何も言わずに屋上から立ち去ろうとする。 元々テレパシーは喧嘩には向いていない。 それを操が知っているのかは知らないが、勝負なんて端から無理なのだ。
「ッ、どこへ行くんだ!」
だが操に行く手を阻まれてしまう。 大きく手を広げて、まるでゴールキーパーのようにドアの前に立っている。
まるで何もなかったかのようにゆっくり歩いて行こうとした久遠が悪いが、なかなかに素早い動きだと思った。
―――テレパシーVSマインドコントロールだって?
―――そんなもの、俺が勝てるわけがないじゃないか。
睨んでいるとそれに気付いたのか操は言う。
「ん? あぁ、安心しろ。 超能力者には何故かマインドコントロールが使えないんだ。 だから君は自ら命を絶つなんてことはしなくて済むぞ」
―――へぇ、そうなのか。
―――それは知らなかったな。
―――それなら俺にも勝つ可能性が・・・。
おそらく彼が言っていることは本当なのだろう。 しかし超能力者でなければ、自ら命を絶たせることまでできるのかもしれない。 先程超能力者を皆殺したといったのだ。
どう考えても危険人物に決まっている。
―――って、あるわけがないだろう。
―――俺はごめんだ、戦いたくない。
―――それにしてもどうしよう。
―――コイツが邪魔で屋上から出られない。
困っていると突然屋上の扉が開いた。 そこから強ノ助が現れる。
「おぉ! 久遠、ここにいたのか。 捜したぜー」
教室では上手く撒いたため、探し回っていたようだ。
―――屋上で誰かが俺のことを呼んでいると聞いたから、俺はここへ来たんだろうが。
―――本当に何も聞いていなかったんだな。
強ノ助の言葉を聞いた操が言う。
「ん、君は・・・。 それよりも、へぇ? 君は久遠というのか」
―――名前がバレるのはどうでもいい。
―――それにしても丁度いいな。
―――馬鹿の奴、珍しくいいタイミングで来た。
久遠ならテレパシーを使い、今の状況を強ノ助に伝えることができる。 だがそう思ったところで止めた。 強ノ助に事情を言っても、いいことが起きそうになかったのだ。
そうなれば伝えるべきはこれに決まる。
『おい。 不審者が屋上にいると先生に伝えてきてくれ』
制服が違うのだからどう見ても不審者だ。 超能力者相手に大人とはいえ一般人がどこまで対抗できるのかは分からないが、頭数を揃えれば勝ちの芽も出てくるだろう。
おそらく自分を呼びに来たのもマインドコントロールで操られた生徒たちなのだ。 久遠がテレパシーを使い他に助けを求めても文句は言えないはず。
だが誤算だったのは、屋上に来たのが強ノ助だったということだった。
「んー? 不審者ってコイツのことか?」
そう言って操を指差す。 折角テレパシーを使ったのに全く意味がない。
―――どうして言うんだよ!
そして操はその言葉から久遠の能力が何か察してしまったのだ。
「不審者・・・。 あ! もしかして君はテレパシーを使えるのか!?」
―――おいおい、早速バレてしまったじゃないか。
操は嬉しそうに言う。
「人に命令できるなんて! 俺と一緒じゃないか!」
―――喜ぶところはそこなのかよ。
―――勘弁してくれ。
―――どうしてそんなに笑顔なんだ。
―――俺とお前を一緒にするな。
久遠は大きく溜め息をつく。 強ノ助を使いこっそり緊急事態を教師に伝える作戦が既にご破算。 テレパシーしか使えない自分は操に何かすることが難しい。
―――こうなったら仕方がないな。
―――強行突破でもするか。
隙を見て屋上から逃げた。 背後から操の叫ぶ声が聞こえるが無視だ。 もちろん強ノ助の叫ぶ声も無視だ。
『ソイツを止めておいてくれ』
強ノ助にテレパシーで伝え階段を下りる。 あまり期待していなかったが時間を稼ぐくらいは望めるかもしれない。 だが一階を降りたところで足が止まった。 たくさんの生徒で道が塞がれていたのだ。
―――ここで何かあるのか?
―――・・・いや、これもアイツの仕業か。
―――追い付かれる前に逃げないとな。
生徒の中へ紛れ込むようにし無事人ごみの中から脱出した。
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