第二話 PART1 『第1異世界・炎の王国』
楽園を目指そうとした結果、人々は死を選んだ。
死後は楽園と誰もが思った。
だがしかし、現実はそう甘くは無かった。
灰色に染まった空、ボロボロのビルや街並み、歩くのもままならない道路、電車も到底走ることの出来ない線路、赤黒く染まった川、非日常の塊のような世界。
静かで平和な世界などは存在せず、銃声の音が鳴り響く地獄の世界。
楽園と思いここに来たはずなのに実際は真逆の世界だった。
期待に満ちた人々を裏切った世界、そこには恨みやいらつきが頂点に達し、怒りだけが人々に残った。
炎の王国の誕生だ。
第二話 『第1異世界・炎の王国・・・と?』
はっ!
目が覚めた感覚。視界も寝起きのようにぼやけている。
(ここが死後の世界?俺は…来る事ができたのか…?)
あたりを見渡す。
楽園というと花畑が広がり、空が青く輝き、優しい気持ちで充満している世界を想像するが、この世界はあまりにも楽園とは程遠いものだった。
『何だこれは・・・?』
あまりの衝撃に声が出ない。今自分の状況を必死に整理する。今にも崩れそうなビルや折れた信号など、周りの情報を一つ一つゆっくりと確実に整理していった。
すると少し離れたところから銃声音がビルの間を潜り抜け聞こえた。重みのあるリアルな音。銃声音は初めて聞いたけど瞬時に本物だとわかった。
『お前!突っ立ってないではやく隠れろ!!』
武装した人が数人いて、こっちだ!と案内している。
俺は訳もわからずついて行った。
ひとけのない草木が生茂る小さなトンネルにひとまず隠れた。
『ありがとうございます…』
とりあえず感謝をした。
『へっ!お前度胸あるな!あんなところでぼったちってすげぇな!』
『そうっすよ!』『オメェヤベェぜ!』
数人がぺちゃくちゃ喋る。
俺はやっぱり現状を把握する事で頭がいっぱい。
『あ、あの、ここって楽園何ですか?どうしてじゅ、銃を、持ってるの…?』
『楽園?どう見ても楽園ではないなー』『そうっすよ!そうっすよ!』
『お前、もしかして最近こっちにきたのか?』 『きたのか?きたのか?』
『は、はい…』
『そうか!ガハハ!それなら教えてやる!この世界は楽園なんてたいそうなもんじゃねぇー!地獄の世界、炎の王国さ!がっはっはぁー!』『そうだ!そうだ!』
楽園じゃないのか…
『それじゃ…みんな争い合ってて、戦争のような、んっ!』
とっさに口を塞がれる。
するとみんなの目が瞬時に豹変した。殺意の目だ。
『忠告しておく、この世界で生きるには争いが不可欠だ。わかるな…殺し殺されの世界に優しさなんていらない。怒り以外の感情を殺し、明日に向かってもがいて生きて行くんだ。わかるだろ…?』
耳と数センチの距離、怒りの混じった激しい声をささやくように言った。
『うん…』
首を動かし返事をした。
『実はな…このトンネルは隠れるときに使うものじゃないんだ、隠れて人を殺すときに使うもんなんだ。この意味がわかるな…』
(やばい、殺される…)
ここに至るまでまともに息を吸う事ができていない。わからないと恐怖、その他の感情が暴れに暴れていて理解が追いつかない。
『お、俺は殺されるのか?なんで、何をし、した?』
『何もしていない。ただこれから何かをしでかすかもしれないだろ?殺すなんてそれだけの理由で十分だ。』
『俺は、な、何もしない!殺しもしない!そもそもなんで殺し合うんだ?』
『なぜ殺し合う?俺がこの世界にくる前からそうなっていたからだ!それだけだ!』
と言いながら銃口をこっちに向けた。はっきり言って無茶苦茶だ。理解が追いつかないのも当たり前だ。
こんどこそほんとに殺される。俺は唾を飲み覚悟を決めつつあった。
(まぁ別にこの世界にずっと居つづけるよりかはましか…)
するといきなり銃をしまいだし何を思ったか一目散に都心に向かって走りだした。
(は・・・?)
やっぱりわからない。何ひとつわかることがない。しいて言えばわからない事がわかるくらいか。
明らかに変な行動、標的を急に変更したNPCみたいだった。
『なんだったんだ…ほんと』
俺の始まりは正直最悪だった。
何もかもがうまくいかなかった。うまくいかなきゃいけない世界なのに、何ひとつうまくいかなかった。
こんな始まりだし、いつ死んでもおかしくない世界だけど、俺にはある役目がある。
「戦士」の役目。
俺の役目を果たすまでは死ねない、そうかすかに思った。
『俺は戦士だ…』
______
数週間が経った今、俺は都心から少し離れた街の中にあるボロボロのビルでひっそりと暮らしていた。
戦士とはなんだったのか、、
今の俺には二つの目標がある。
ひとつめは友人と会うこと。ふたつめは占いのお婆さんに会うことだ。
この二つは絶対に叶えたい。
既に死んでいたら叶えることができないけど、それは二人を信じることにしよう。
二人にはいろいろ聞きたいことがある。
『ふぁ〜』
目が覚めた。薄い布を巻いて硬い床で寝ているので目覚めは最悪だ。
ひび割れたガラスを通して周りを見渡す。
『よしっ誰もいないな。』
今日は命がけで外に出る。資源がつきそうなので、目星をつけたスーパーマーケットに潜入すると前から計画していた。
『今日はやるぞ…今日はやるぞ…今日はやるぞ…』
ぶつぶつ唱えて覚悟を決める。
そして覚悟を決めたそのときの顔は少しニヤついていた。
人間というのはすごい。どんな環境でも数日あれば対応して生きようと試みる。
対応して、対応して、対応してを繰り返してその場で生き続ける。
地獄の世界でも同じだ。もうこの生活に対応してきている自分がいる。
そしてやはり非日常を心のどこかで楽しもうとしている自分もいる。
こんな状況でも楽しもうとしている自分が憎らしくて、とっさに自分の顔を少し強めに殴った。
『いってぇー…』
力も入ったことなので、、、出発だ。
この世界に来た人々は何かに怒りをぶつけようとしているようだ。
だがその何かがわからない。わからないでほっとくことのできない人々は己を鎮めるために人殺しを行うのだろう、、、と俺は推測した。
弱い頭で考えた答えだ。まぁー正直答えはどうでもいい。どんな答えであろうとこの世界が地獄であることに変わりない。
そしてもう一つわからないこともある。俺が人を殺そうと思わないことだ。
逆に恐れている。他の人たちとは真逆で逃げようとしている。
『俺は戦士失格だな…』
ビルの
『缶詰と、パンと、あ、これもこれもっと』
出際よくかき集め、バックに詰め込める分だけ詰め込んだ。
(フッ、なんかサバイバルみたいだな…w)
ガタッ!『!?』
すると奥の商品棚から物音がした。危機感を抱きとっさにこの前拾った銃を取り出す。
『だ、誰だ!』
いつでも撃てる、手加減は無用だ。
『よ、よせって!、お、俺だよ!』
そこには友人の姿が見えた。
『!?』
目標が叶った。
『お前…生きていたんだな…!』
『お前こそな…!』
それから久しぶりのたわいのない話をして盛り上がった。
こんな世界でもおしゃべりは変わらない。
しょうもなくていい、滑っていい、ずっと喋っていたいと心から思った。
『お前が銃持ってるとか似合わねぇwー』
『そうかな?まだ撃ったことはないけどなw』
『マジ?俺は撃ったことあるぜ!こう、バッキューンとな!』
『てっことはひとをこ、ろした…?』
『ああー逃げるのに必死でさ、しかたないこんな世界だ…』
『そうか…』
この世界では人を殺さないと生きていけない。逃げるにも限界がある。
『お前、銃の安全装置って知ってる?』
『何それ?』
『銃ってのはな、きちんと安全装置が付いていて、それを外さないと撃てないんだよ。ちと貸してみ?』
『へー、はいよっ!』
『・・・』
『なんだよw』
こっちをじっと見てきた。
『・・・』
『なんだよ…』
『お前ってほんと銃の使い方知らないんだな。よくこの日まで生きてたよ。』
『ちょっ、お、ま…!』
銃を突きつけてきた。またこれだ。
前と同じ、俺は最初から何も成長していない。この世界をまったく理解していない。
『お前を見ているとなんか怒りがこみ上げてくるんだよ…』
『な…なんで…』
俺は限界まで話をした。絶対にわかってくれるはず…!
『わかった、わかった!落ち着こう?一回さ、一回。なんかこっちに来てからみんなおかしいよ!な、そうだよな!みんな何かに怒ってるみたいだし…そもそも殺し合うのもおかしいよ…』
『・・・』
『ちゃんと話し合おうよ。絶対そっちの方がいい…!確かにこんな世界に怒る気持ちもわかるけどさ、楽園ではなかったけどさ!ほら、一旦座ろう?、な?』
一向に座る兆しはない。銃口もずっと俺の頭に焦点が当たっている。
『あ、あ、座らない?、そ、そう?なら立ち話でいいよ!た、たまにはね?いいよね?それにしてもこの世界ってほんとにすごいよなぁ…?映画のパージって知っている?そんな感じー…ハハっ…』
『お前、おかしいよ。お前だけだよ。この世界の当たり前から逃げてんの。』
『えっ』
『それじゃぁな…』
『ちょっとまっ……』バンっ!
わからないで始まった世界、それはわからないで終わった。ただひとつの目標は叶えることができた。
『第2異世界・奇笑の
『ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!』
思わず叫んでしまった。こんなに叫んだのは初めてだ。
ようやく地獄の世界に慣れてきたってときに友人に殺され、そして気付いたらまた他の世界に来ている…
『なんなんだよ…もうやだよ…』
こんなの聞いていない。死後の世界はどうなっているんだ。またあの地獄をやれっていうのか?
『はぁーはぁー、もう、うんざりだ、やってられるかよ…』
俺は逃れることができないのか?いったい俺が何をしたって言うんだ。もういいよ。俺を楽にしてくれ。
『くそっ!くそっ!』
力の入らない拳で地面を叩く。びくともしない地面、それに対して俺の拳は少し赤くなった。
『もう…どうにでもなれ…』
やけくそな気分。考えることを放棄した俺はあの策に出る。
そこは前の世界とはまったく別で、争い合う雰囲気は無くむしろ微笑ましい雰囲気の漂う場所。施設の設備も整っており、少し変わった建造物が多いが一見不満のない世界に見えた。でも今の俺にはそんなのどうでもいい、ただ高い場所を目指して足を運んだ。
『どうせ、ここもくそなんだろ?わかってるよ!俺は絶対に騙されるもんか!うんざりだ!』
なぜこんなにも俺は吹っ切れているのだろう?それは俺にもわからない。頭の中で自問自答が繰り返される。
そして三階建てのつぼのような形をしたいびつな建物が目に入った。中々の高さだ。
俺は無我夢中でそこに向かった。
向かっている最中に通りすがる人達を何人か見たけど、みんなが笑っている。これでもかというくらいに。
頬が下まぶたを押し上げて目がものすごく細い、口を異常に開け、歯と歯茎を見せるかのように大きく笑っている。
実に奇妙だ。
(ほら、やっぱりここもヤベェところだ…)
いびつな建物の中に入り屋上を目指す。
その建物は一階が「アイス屋」、二階が「ハンガーガー屋」、三階が「
もちろんアイスやハンバーガーなんて食べようと思わない。共有の間というのは少し気になるが今の俺にはどうでもいい。
チンッ!!ベルの音。『扉が開きます。ご注意ください。』
中には誰もいないようだ。
エレベーターの中に入り、屋上行きのボタンを押す。すると、扉に反射した自分の姿が見えた。
屋上に到着するまで少しの時間しかないが自分としっかり向き合おうと真剣に考えることにした。
『俺はほんとにこれでいいのか?これが正解なのか?』
(俺がこの世界にきた理由が絶対にあるはずなんだ。前の世界でも同じ、そしてみんなもきっとそうだ。俺にはやるべきことがある。俺がここに存在する以上何かしら俺を必要としている…はず…)
『俺の役目…俺の役目は戦、』チンッ!!
『屋上につきました。』
やっぱりどんだけ考えてもわからない。考えるだけ無駄だ。
エレベータから降りて外に出ると、強い日差しとともに想像を超越する街並みがそこにあった。
(すげぇ街並みだな…なんだこれ)
だけど俺はこの絶景を出来る限り視野に入れないようにした。もう俺には関係ない。俺はもう死ぬ。
屋上の崖っぷちに立ち、この世界から消えようと試みる。
『俺には関係ない…俺には関係ない…もういいんだ…もういいんだ…よしっ!』
目を強くつぶって唱え、最後に頬をパンッっと叩く。
意外と早く飛び降りる決心がついた。慣れたもんだ。
『俺…さようなら。』
『お前さんもやっぱり一緒か…』
『!?』
俺は思わず後ろを振り向いた。勢いよく振り向いたのですごく変な体勢になった。
『占いのお婆さん!?』
『あんたは戦士さ、それを忘れてはいけないよ。それとあんたは選ばれたのさ、他の移住者とは違う。』
『い、いじゅう…な、なに…って!、あ!』
足を踏み外してしまった。
(あ、やばい…落ちる…)
抵抗をする間も無く落ちた。
そこには綺麗な満天の空だけが見える。
(あーあ、落ちちゃったよ…まぁいいか落ちるために屋上に上がったんだし、それにしても、、空…キレイだなぁー)
俺は地面に背を向け、大の字で落ちてゆく。解放された気分になった。何に解放されたかはわからないけど…
お婆さんは屋上から俺を見下ろしていた。何かボソボソと言っている。聞き取る事はできなかったけど何か助言をしたのだろうか?はたまた文句の一つや二つを言ったのだろうか?
(あのお婆さんまたなんか言ってるよ…まぁいいや、もう、俺は…)
スカイツリーから落ちた時と同じ感覚だ。周りがゆっくりに見え、俺の数少ない心温まるエピソードが走馬灯のように頭をよぎる。心地よい感覚。
このままじゃダメだ!目を覚ませ!と何かが訴えかけているような感じがした。
この今の温かい気持ちを維持できたら良かったのか?転々とする世界に瞬時に対応しろというのか?友人に裏切られたことを寛容な気持ちで許せというのか?わからない、やっぱり俺にはわからない。どうしたら正解なのか?
だがそこには涙を一滴流した俺の姿があった。
(まぁ、目標は叶えられたな…)
グチャッ!!
続きはPART2!
次回は『第3異世界・レインタウン』から!
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