貪欲な人々が送る異世界移住
Reo
第一話 『A ray of light(一筋の光)』
ここ数年、とあるニュースが世界中で話題だ。
それは死後の世界が楽園であるというあたかも信じがたい話。
アメリカの死後に関する研究を行っている【
発表当初は『罵詈雑言』のあらしだったがここ数年でそのとらえ方は大きく変わっていった。
ネットやメディアは大騒ぎ、テレビでも頻繁に取り上げられて一向に話題は尽きない。
むしろどんどん話が大きくなっていく一方だった。
死後を知ってしまった人間はあることが頭をよぎる。
もう今の不自由な世界にとどまる必要があるのか?と。
『ほんとに楽園なのか?』『どうやって研究したんだよ!』など、そんなのはもうどうでいい。
なぜなら人間は貪欲だから
欲を求めて生きているから。そのためならいくらでも【死】んでやる、、、
一筋の光があるならただそれを求めるだけでいい、そんな考え方なのだ人間は、そんなもんなんだ、、、
世界の崩壊が近づいていることに人々は早く気付くべきだった。
でも人々は気付くはずがない、なぜなら人間は貪欲なのだから。
その一言ですべてが解決するちっぽけな世界なのだから
『貪欲な人々が送る異世界移住』のはじまり、はじまり
第一話 『A ray of light』
『ピピピピー!ピピピピー!ピピピピー!』
いつもの目覚ましの音で目が覚める。 一日の始まりの音、、、のわりには人が嫌いな音ナンバーワンだろう。
『はいはい、わかってますよー起きればいいんでしょー』
俺は重症だ。なんの新鮮味のない日々を坦々と過ごすことになれてしまって、ずっと同じ一年間を繰り返しているのではないかと思うくらいにまで落ちていた。
会社に行き、仕事に就き、昼飯を食い、仕事にもどり、、、なんてルーティーンをずっとしている。
別にこの人生が大嫌いってことじゃない、会社には友人がいるからいつもたわいのない話をして盛り上がっているし、仕事終わりのビールは最高だし、、、ただ普通な生活を送っているだけなのだ。
ひかれたレールを脱線も押せずにボーっと歩いているだけ。
俺は『普通』に飽きていたのだ。
俺は当たり前に目覚まし時計に返事をし、食卓に向かった。
一人暮らしの朝は早い。
洗濯に、朝飯の片付け、たまったゴミ捨てなどいろいろしていたらすぐ仕事に行く時間になる。
すごく疲れるけど流石に慣れたもんだ。
『行ってきまーす』
まったく…ひとりぼっち人生は最高だな、、ほんと最高、、、
【世界崩壊まであと365日】
俺は仕事場につき、いつもの窓際の席に座った。
すると高校の時からずっと一緒にいる、友人が隣の席にきた。
『よう!お前、いっつも朝んときの顔死んでるよなw』
友人はいつも元気。どこか抜けてるところがあるけど。
『別にいいだろ?』
『別にいいけどさ、こっちまでその負のオーラに飲み込まれそうになるわ』
『それはたいそうすいませんねー』
いつもの会話だ。なんの抵抗もない普通の会話。
たまにつまらない話もあるけど、たまにだからこそいい。そんな会話を数年間している俺たちは案外凄いのかもしれない。
それはそうと、友人がある話題を振ってきた。
『あ、そうだ。最近流行りのあれ知ってる?』
『あれって何?もったいぶるなよ』
『あれだよあれ、死後占いってやつ。いやぁー最近結構人気でさ、俺も昨日占ってもらったんだよ』
『へぇーで、どうだった?』
『俺は、どうやら死後では4人家族の温かい住まいで暮らすことになるって言われてさ。もうほんと最高!!』
『それは、凄いな!』
今思うとおかしな会話だ。一瞬の戸惑いもない。疑いもない。
もう俺たちは死後の世界を信じ切っている。いや、俺たちじゃなく世界の人たち全員が。
仕事が終わり、家に帰るところ。
『はぁー疲れた(今晩の食品でも買いに行くかー)』
いつものスーパーに行きいつもの食品を買う、ついつい同じものを食べちゃいがち。飽きちゃうけど
『人生って食べ物と同じなんかなぁー(俺は何を言っているんだ…)』
今日も今日とて疲れたから家に帰ろうとした時、
路地の端っこに、ほんのり不気味な小さなトンガリ屋根の屋台もどきがちょこんとあった。
よく見ると「死後占いやってます」と細々とした文字で書いてある。
俺は自然と足を運んだ。
『あのーここで死後占いをやっているんですかー?』
だいぶ年老いたお婆さんがそこにいた。
『え、えーと、やってるんですよね…?』
『…』
お婆さんは返事をしない。
『い、一回占うのに何円するんですかね…?』
『2000円…』
『え?』
『2000円…』
(こいつ!金の話になった途端いきなり声出しやがって、しかも一回二千円って普通に高くね?)
『あー分かりました。二千円ですね。、、、はいどうぞ。ちょうど二千円です。』
すると細い腕を出しガムシャラに二千円を奪うように取った。
(腕ほっそ…しかも爪なっが!?)
お婆さんは鞄から8角形の太陽?星?のようなものが書いてある紙を机に置いた。
そして次に鬼やら犬やら、カラスやらのいろんな動物の小さい模型が出てきた。
(いったい今から何をするんだ…?)
『世界はいつも何かしらに傾いている。それはどんな世界でも、どんな宇宙でも、どんな自然でも、どんな社会でも、そして死後の世界でも。』
(なっ!なんか喋り出したぞ!?いきなりすぎんだろ…)
『その傾きは全てを変えることができる傾き。創造も破壊もいとも簡単にできよう。だがしかし、ここにいる8つの光と8つの神の使い達があなたを守ります。』
(もしかしてこれ、新手の宗教勧誘?俺とんでもない物に手を出してしまったかも…)
『それは今も死後も同じ。死後も光が包み楽園と導くでしょう。』
『そして神の使い達が今!あなたの真実、未来、過去、全てを見てくれる!さー!我の目を通して死後を見よ!!傾きの先を見よぉ!!』
目を見開いている。
(すげぇーガチだ。若干引いてるぞ…)
『見えました。あなたの死後は戦士です。どうかよき楽園生活を。』
『戦士ですか…分かりました、ありがとうございます。』
(ん?まてよ、戦士…戦士って、戦う戦士?戦士と言っても働くパパみたいな、そういう戦士?今の社会にあった現代戦士?まったくわからない。その意味が。)
それから俺はお婆さんにいろいろと質問した。死後の世界に戦士って必要か?楽園なんでしょ?そもそも俺が戦士?あんたは死後を知っているのか?どうなんだ!なんか言ってくれよ!・・・少し熱くなりすぎた。
お婆さんは何も言わないまま暗闇に消えていった。
この占いが本当かどうかはわからない。けど少なからず俺が死ぬ時にはこのやり取りを思い出すだろう…
『結局なんだったんだあの占いは、、、まぁいい、帰って寝よ。』
今日は非常に疲れた1日だ。
_____
それからの1年は異様に早かった。
俺が体験した中で一番情報の詰まった、一番楽しい1年間だっただろう。
やっぱり、非日常は楽しいものだ。
世界の変わりようが目に見えて分かり、人々の減少も目に見えて分かった。
社会も昔と変わり、なんだか緩く感じて生きやすかった。
きっとみんな仕事とかどうでもいいんだろう。
どうせ死んでしまうのだから。
占いを行なってから、数ヶ月が経った。
今日は目覚めがいい。朝からゆうゆうと体を動かすことができ、気分は最高だ。
朝飯を食べ、身支度を済ませ、今日も今日とて仕事に行く。
昼休みになり、いつものたわいもない話を友人と始めた。
『死後の世界にほんとに行きたい?』とおかしな質問を友人にした。
『何、いきなり…行きたいに決まってんだろ?』
『そうだよなw当たり前だよな...w』
何かが突っかかる、俺ももちろん行きたいんだけど何かが突っかかる。
『あ、そういやお前って死後は戦士だーとか言ってたよな。あの意味俺わかったぜ!』
『え!、マジ!、何?』
『俺の考えからすると、あれだ、俳優だ。』
『は?』
『お前はなんか魂が抜けてる感じがするだろう?だから死後は俳優になってキラキラパラダイスだ!俳優だったら戦士の役ぐらいいっぱいあるさ!その占いおばさんが周りくどく死後を占ったにすぎないって。』
『あのさぁ…』
思わずため息が出た。
『まっ、そうなのかもな。あのおばさんいかにも胡散臭かったし。』
いつもの会話、これもあと数回。
そして数週間が経ってビックニュースがやってきた。
それは臨時体験ができる装置を『ROL』が開発したらしい。
かなりの大金が必要なので一般の方には手を出すことができない。
なので、各国の富豪や有名人が参加した。
そこにはシンガーソングライターのANOも入っていた。
ちょうどアメリカの各地に歌いに行っていたので都合が良かったのだろう。
『すごいなぁー』
『そうだな、てかANOも入ってる、、すげぇ』
『お前ANO好きだもんな』
『ほんとに死後って楽園なんかなぁー』
思わず口ずさんだ。
そしてまた数週間が経ち、臨死体験を終えた各国の富豪と有名人のコメントが世界に放たれた。
これが世界に多大な影響を生み、一気にこれまでの世界の流れが変わっていった。
人間はやはり単純だ。そして貪欲。
ある人は「とても素晴らしかったよ。」と言い、ある人は「自然と涙がこぼれたね。」と言い、そしてある人は「今にでも死にたいくらいだよ。」などと死後に関して一切不満のないコメントばかりだった。
ANOも「メッチャよかったよぉ〜みんなも私と一緒に行こう!」と綺麗な声で言った。
世界の終わりだ。
______
今日で仕事が最後。
お祭り騒ぎだ。ほんと最高。
『今日も自殺者多いねぇー』
『今日は日本だけでも数十万か』
『見ろよ、この動画、「町ごと一気に逝っちゃいますw」ってえぐすぎやろw』
『やば』
終わりだ、ほんとに終わり。
世界中がお祭り騒ぎ、やばい世界の誕生だ。
でもちょっぴり嬉しい点もある。それは殺人が一切ないということ。
もうみんな吹っ切れて笑いに笑っている。
ほんとに願ってたんだなぁ。
そして、、、、、、、最後の日。
『ピピピピー!ピピピピー!ピッ!』
今日も元気に起きれた。
最高の気分。
『今日はどこに行こうかなぁー』
とカメラを持って外に出る。
友人を数ヶ月前に亡くした俺は、気がついたら東京のど真ん中のマンションの最上階に住んでいた。
もうなんでもありだ。
俺は歩いた。最後の日をじっくり見るために。
見回しても誰もいない。
青い空、でかいビル、散りばめられた道路、電車のこない駅、どこから来たかわからない川、全てが俺のものみたい。
これが非日常、俺が求めていたもの。
最後に良いものを見せてくれた。と思いカメラに収めた。
『さーてどのビルにしようかなー』
と最初で最後の紐なしバンジーを決めようとあたりを歩いていたら、あの占いお婆さんが木陰にちょこんと座っていた。
『よ!お婆さんはまだ逝ってないの?ほとんどの人はANOといっしょに逝っちゃってさー』
『お前さんは、ほんとに楽園を信じるのかい?』
『!?』
『そもそも楽園ってなんなのさ』
『ここまできてそれ言います?まーそうだなー食べたい物が食べれる、やりたいことがやれる、自分の欲望が叶う?みたいな感じかな?』
『そうかい、でもそれってただの堕落した生活じゃないか?』
『まぁそうかもしれないけど、それが楽園なんじゃない?』
自分の欲を叶えたい一心なのだ。
『まぁーいいさ、だけどこの世界もまだ捨てたもんじゃないよ。
こんな宇宙の馬鹿でかい、その中の地球に生まれて、こんなに素晴らしいところなのにさ、、』
『えっ、この世界が素晴らしい?どこがだよ!こんな不満に溢れた世界、あんたも見ただろ?あのお祭り騒ぎを!みんな死後を求めてるんだよ!』
(そもそもあんた死後占いしてただろ!今更何だよ!)
また熱くなりすぎた。
『・・・それじゃぁ死後の世界でまた、、、』
『あ、ああー...』(死後の世界でまた?)
(なんかあのお婆さんと話すと不完全燃焼で終わるんだよなぁ…)
まぁそれはそれとして、俺はスカイツリーを選んだ。
今となれば有名な飛び込みスポットだ。
『ウフョー!たけぇーーー』
景色は絶景だ。
『ふー、ふー、』
鼓動を落ち着かせる。
風が強い、すごく寒い、風の音も繊細に聞こえる。
多分今、感度が物凄いことになっているのだろう。めちゃくちゃ緊張する。
(いくぞ…いくぞ…3……2…)バッ!!
『俺、今までありがとう!』
1じゃなくて、2で飛んでやった。自分を裏切ってやったぜ。
今思うとこの世界ではまだまだ体験したことのないものばかりだった。
日常に飽きたとか言ってたけど、実は自分から非日常な体験をしてこなかっただけかもしれない。
今さら振り返ってももう遅いけど…
すると走馬灯も見えてきた。
子供の時から、今までを順々に見せてくれた。
評価したら星5つ中星3つってとこかな、涙の一つや二つも流したいがもう出す余裕もない。
(長いな…)
(みんなもこんな感じだったのかな…)
今の世界がクエスチョンで死後の世界がアンサーだ。
単純、貪欲の俺たちを死後の世界が答えをくれたんだ。
『俺の死後は戦士か…』
グチャ!!
世界が終わり、人生も終わる、新たな世界が始まり、新たな人生も始まる。
【世界崩壊】
第二話 『第1異世界・炎の王国』
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