凍えるほどにあなたをください

新吉

第1話 震えるほどにあなたに会いたい

 ここはとある学校。寒い寒いと文句をいいながら長い坂を登ってくる生徒たち。そんなよくある冬の登校風景を見下ろす人影があった。


 普段中学校の屋上には誰も入れないよう鍵がかかっている。いるのはよほどの不良か先生だけだ。雪が積もる中、屋上のフェンスに座っていたのは寒そうな薄着の女の子。下着のようなピンクのワンピースに裸足だった。


「つまんないわね」



 そう呟くとなにやら呪文を唱えた。世界は時がとまる。彼女は屋上の内側に飛び降りくるくる回る。長い髪もついていく。


「いた」



 辺りは光に包まれた。再び色を戻し動き出した世界は、彼女によって作り替えられた。登校風景は一変する。


「ど、どうなってんだ!?」



 急に空を飛ぶ人や、雪を溶かすために火を吹いた委員長。学校の近所のおばあちゃんの犬は大きくなった。おばあちゃんが散歩されている。


「せ、先輩?どうしたんですか?」


「ススム?なんで震えているんだ?」


「先輩の、その、か、顔が」


「ススムは私の顔が嫌いか?」


「いや、急に、ね、猫になっちゃってますけど!?」


「は?私はもともと猫人間だぞ」


「な、なに言ってるんですか?」


「ススム、ほら行くぞ」



 先輩はしなやかに背筋を伸ばしてから前足も地面につけて颯爽と走り去っていった。


「先輩…耳とし、しっぽまで…!いやそれより、俺まだ寝てんのかなあ…」



 ススムは驚きながらも、目の前の坂を越え学校を目指すしかなかった。目をこすり、頬をつねったりしながら。

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