2-3
広場での戦いから数刻後。スパイナーは今、空戸研究所内の一室に籠もって修行に励んでいた。
右腕のみをスパナアームに換装させたコウジは今、極度の緊張状態下にあった。額から汗を流しながら、真剣そのものといった表情で一点を見つめる。彼の視線は自身のスパナアームに注がれ、そのアームの先端に掴まれているのは_一枚のコインだった。
「……」
コウジは全神経を集中させてアームを微かに動かし、テーブル上に建設されたコインタワーの最上階に重ねようとする。
「……!」
だが最後の瞬間に力加減を間違え、アームがタワー下部に触れてしまったためにタワーは一瞬で崩壊した。
「はあ……」
コウジは嘆息する。今回は上手くいっていたのに、また最初からやり直しだ。
そう、彼の修行内容は、スパナアームのみを使って100枚のコインタワーを積み上げ切る事だったのである。
「本当にこんなので、力をコントロールできるようになるのか……?」
彼がこんな方法で修行を始めた原因は、戦闘を終えて研究所に帰還した所にまで遡る。先ほどの戦いでも結局コウジは自身の力を使いこなせず、それどころか感情に振り回された挙句敵に簡単にあしらわれる始末だった。落ち込む彼を見かね、博士がこの修行方法を提案してきたのである。
スパナアームの先端は意外にも繊細な動作が可能で、コインのような薄い物体でも慣れれば掴むことができるようになる。このように微細な動作を繰り返すことで、パワーの制御を可能にする。理屈は分かるのだが、それでも、本当にこれが修行になるのか?という疑問がコウジの心につきまとう。
「あっ」
余計な思考に気を取られたため、またしてもタワーを崩してしまった。彼は気合を入れ直し、再びタワー建設に取り掛かる。
コインの塔を崩しては積み上げ、また崩しては積み上げる。賽の河原にいるかのような作業を繰り返すうち、いつしかコウジは目の前の修行に精神を集中させるようになっていた。
56、57_
無駄な思考は取り払われ、周囲の時間経過はスローになり、精神が研ぎ澄まされていく。
74、75_
いつの間にか、修行を続ける彼の脳裏で先ほどの戦闘映像が上映されていた。スパイナーとハグルマダークの戦闘を、彼は上空から俯瞰する。スパイナーの闇雲な攻撃。あれでは簡単に動きを読まれ、対応されてしまうだろう。修行の手を緩めることなく、彼は無意識下で思考する。
83、84_
戦闘を観察していると、自分がいかに感情に振り回されていたかを痛感する。戦場を見下ろす今の自分は、言うなれば失われていた理性なのだ。理性と感情は常に切り離し、適度な距離を保っていなければならない。どれだけの激情に襲われても、常に冷静に戦場を観察できるように。
94、95_
自分の行動についての整理が終わると、敵の動きを観察する余裕ができてくる。そう言えば、あの時の奴の言動は少し妙だった。いや待て、ひょっとすると……
98、99_
ガチャン。背後の扉が勢いよく開き、ユキエが部屋に飛び込んでくる。
「お兄ちゃん、何してるの?」
コウジはゆっくりと振り返り、立ち上がる。
「ああ、ユキエか。ちょっと遊んでただけさ」
彼はそう言って妹の頭を撫で、部屋から去っていった。テーブルの上には100枚のコインが積み上がったタワーが見事に完成していた。
「え、何これすごい!」
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