1-3*

「グハハハハ!この程度かぁ?」

爆発を眺めながら嘲りの声を上げるペンチダークだが、すぐにその半笑いは中断される。紺色の装甲を纏った影が、硝煙をかき分け突進してきたからだ。何発もの爆発を浴びたにも関らず、その外装には少しの傷も負ってはいなかった。博士曰く、マインドアーマーは装着者の正義心の強さによって強度を変化させる。コウジが装着している今、その強度はオリハルコンにも匹敵する!

「ば、馬鹿な!?」

「テイッ!」

ペンチダークが狼狽する間にもスパイナーは突進を止めず、敵の懐まで一気に接近。右腕のスパナをまっすぐ突き出し、相手の巨大ペンチを横から挟み込む。巨大スパナと巨大ペンチ。2本の巨大工具ががっしり噛み合う構図となった。


「これで光弾は出せまい!」

「なるほど……面白い」

技を封じられたにも関わらず、ペンチダークは無表情な顔に不敵な笑みを浮かべたように見えた。

「お前は俺と力比べがしたいらしいな。だが、挟み込み力でスパナがペンチに勝てるとでも思ってるのか?」

そう言いながら彼は両腕に力を込め、ペンチの挟み込みで相手の右腕を締め上げる。スパイナーも負けじとスパナの先端を閉じて相手の腕に圧力を加えるが、ペンチの締めつけに対し、その威力は明らかに劣っていた。


物を直接挟み、捻ることに特化したペンチと、ボルトやナットを介して固定・解体を行うスパナ。両者の機能差もさることながら、両腕を合体させたペンチアームと右腕のみのスパナアームでは膂力の差は明白だ。

ペンチの両顎にピラニアのように噛みつかれ、スパナアームはミシミシと軋り音を立てる。「グッ……」

「どうしたスパイナー、これで終わりかぁ?」

スパイナーは苦しげな様子で顔を下げ、ペンチダークの挑発にも反論できずにいる。このまま彼は力比べに押し負け、アームを破壊されてしまうのか?

__否!仮面の下で、コウジは微かに笑みを浮かべた。


「スパナの力、甘く見るなよ!」

そう叫ぶと、彼は右腕に再び力を込め、内部のロックを解除する。次の瞬間、スパナアームに仕込まれた回転機構が作動し、ドリルのように回転を開始した!

「な、何ぃ〜!?」

ペンチダークは回転を押さえ込もうとする、が、押しとどめることはできなかった。ペンチは自ら捻ることは得意でも、捻られることに耐性はない!

「ぐわあああ!」

とうとうペンチダークはスパナの回転に巻き込まれ、自らも風車のように回転。スパイナーが右腕を突き出すと、背後に吹っ飛んで石壁に激突した!


「く、くそっ!」

すぐに瓦礫から這い出すペンチダーク。だが、ペンチアームの付け根は破壊され、彼の腕は二本に戻っていた。敵の武装が解除された今こそ好機!スパイナーはすかさず機械怪人のスキャンを開始する。スパイナーヘルム内部のディスプレイに、ペンチダークのスキャン情報が表示される。胸部に強い熱反応を持つ球体の存在を探知。

「エネルギーコア、確認!」

コウジは事前に博士から情報を得ていた。ダークフォースの機械怪人は、共通して体内のエネルギーコアが動力源となっている。すなわち、ここを破壊すれば奴らを倒せる!


「貴様の野望、ここで解体する!」

スパイナーは高らかに叫び、上空へ伸ばしたスパナアームを軸にして全身を回転させ始める。そして、回転により発生した全トルクを推進力に変え、竜巻のような勢いでペンチダークへと突進した!

「スパイラルブレイク!!」

加速するスパナの先端が機械怪人の装甲を貫き、内部のコアへと突き刺さる。彼が回転を止め、スパナを引き抜くと同時に、真っ赤なエネルギーコアは粉々に砕け散った。


「ば、馬鹿な……次の破壊闘士候補の、ペンチダーク様が負ける……だと……ぐわああぁぁぁぁ!」

ペンチダークは断末魔と共に大爆発を起こした。


戦いは終わった。夕陽が辺りを照らす中、スパイナーはゆっくりと戦場を去っていく。彼の心には初勝利の喜びと、これから始まる激闘への覚悟、二つの思いが同時に芽生えていた。確かに今日の勝利は大きな一歩である。しかし、ダークフォースを殲滅するその日まで、彼の戦いは終わることはないのだ!



____

シャインシティ某所、ダークフォース基地内。主を失った大広間に、3人の人影が集っていた。「破壊闘士」、「守護騎士」、そして「参謀」。それぞれ破壊力、防御力、知力を極めた者のみが襲名を許される、ダークフォースの幹部格。将軍亡き今、ダークフォースの頂点に一番近い者達である。現在の組織運営は3人の合議制となっていたが、近い将来、いずれか一人が他の二人を蹴落とし、頂点に立つのは確実と見られていた。


「いやはや、面倒なことになりましたねぇ」

「参謀」が口火を切る。

「将軍の願いだった、シャインシティ制圧まであと僅かだというのに。いやそれにしても、解体戦士スパイナーとは。面白い冗談だ。ねぇ守護騎士殿?」

彼の口調は慇懃ながら、どこか人を冷笑するような、軽薄な調子を漂わせている。一方話を向けられた「守護騎士」は、腕を組んだ姿勢のまま微動だにせず、「参謀」の問いかけを黙殺した。

「誰の仕業かー知らんが、面白そうじゃねーかあ!」

代わりに叫んだのは、一際巨大で無骨なシルエットを持つ「破壊闘士」の影。

「スパイナーは俺がぶっ壊す。お前達の手出しは許さあん」


「下っ端の皆さんもそう言ってましたね。それでは、こんなアイデアはいかがでしょうか?」

「参謀」がニヤリと口元を歪める。

「あのスパイナーを倒した者が、ダークフォースの次の将軍になる。勿論我々だけでなく、組織全員が対象です」

「それはいーい、強い奴が偉くなる、実に分かりやすい!」

「でしょう?守護騎士殿はどう思います?」

「……勝手にしろ」

守護騎士は、必要最低限の言葉を残して広間から姿を消す。

「よし、決まりだあ!おめー、雑魚どもに言っておけい」


上機嫌になった破壊闘士も広間を去り、後には参謀のみが残される。彼は一人になっても口元を歪ませ続けていたが、その頭脳は高速で回転を始め、今後の立ち回りについて策を巡らせていた。

「はてさて、どうしたものでしょうか」

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