17.順調な時こそ慎重に

(赤城祐人視点)

すごい…。あっという間に1点入っちゃった。

それも僕や秀俊が個人で打開してというわけでもなく、初心者の加藤君による得点だ。


真は自分のことをそんなに上手くないと頻りに言うけれど、そんなことない。

僕と秀俊のパススピードに着いていけているだけでなく、この1点のようにチャンスを窺う余裕まである。


しかもディフェンスの鈴木君のパスミスは指示によるものじゃなく、真が予期していたものだろう。


ここがすごいところだ。


確かに今の加藤君みたいに特別足が速かったり、秀俊みたいなドリブル力、強靭なフィジカルが備わっていたりするというわけではない。


でも、相手が寄せてきてるプレッシャーの中でも冷静でミスをせず、まるで上から俯瞰してみているかのような視野の広さを持ち、そして今みたいに正確なキックでパスを届けることができる。


そして最も凄いところは、今みたいに相手の戦術の穴を突く戦術を試合前に拵えてくる予測力だ。


今回も僕が今みたいに集中マークにあうことを予想していて僕を囮にする戦術を立てていた。


誰が言い出したか分からないけど軍師とはよく言ったものだ。

本人は嫌がるから言わないけど。


そしてこの後も…


「おい!浅野がフリーだ!」

先の失点から加藤君にもマンマークが付いていた。

僕のマークは相変わらずだ。


だけどそうなるとフリーの人ができるわけで…


「祐人!」

左サイドをドリブルで駆け上がる秀俊に僕に付いていた先輩の1人がプレッシャーをかけに行く。

その瞬間秀俊から折り返しのパスを受け取る。


僕に付いている最後のディフェンダーを振り切りキーパーと1体1だ。


ゴール右隅に流し込み2点目が入った。

そしてそれと同時に前半終了のホイッスルが鳴った。


1年A組 2-0 2年D組

得点者

加藤清隆

赤城祐人


「クソが…!調子に乗るなよ!」

大友先輩は僕を睨みつけてそう言い放ってきた。

まだ僕に執着してるなら真の思うつぼだろう。


僕は何も言い返さず目を逸らして自陣のベンチに戻ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(黒田真視点)

今のところ予定通りだ。

相手が祐人に固執しているならそれを逆手に取ってしまえばいい。

しかも2点目はその祐人に決められる。

これは相手にとって最も効果的だろう。

相手がオフェンスのときは昨日の3試合からどこを起点にするかは見ている。

しかも祐人と加藤の早いプレッシャー付きだ。

1点先制したこともあり、ボールを奪うのはそう難しくなかった。



「皆のおかげで前半はリードで折り返せたよ。この調子でいこう。それで真、後半はどんな作戦でいくの?」

祐人がチームメイトを労いつつオレに話を振る。

助かる。

オレからこんな大人数に話を持ってくることは正直無理だから祐人がこうしてくれるのは非常にありがたい。

自然だし目立たない。


こうした気配りができるってことは緊張も落ち着いてきたのだろう。


「2点リードできたおかげで、相手は相当イラついてるはずだ。もしも祐人のマークが浅野と加藤に分散したら祐人への縦パスを増やすつもりだ。が、恐らくラフプレーが増えてくると思う。浅野や祐人はいい位置でファールが貰えそうなら貰ってくれ。ただし、ケガはしないようにな」

オレは予定していた戦術を伝える。

相手が冷静にならない限りは前半同様こちらのペースで攻められるだろう。


が、一応保険を打っておこう。


オレは話し合ってる皆の輪を抜ける。


「福島、ちょっといいか?」

キーパーの福島を呼び出す。

「おう、どうした?正直この試合は暇なんだが」

「後半もしかしたら暇じゃなくなるかもしれない。もし相手が冷静になって攻めてきたら…」

オレは福島に1つの指示を出した。



そして後半戦が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る