第103話 暗黒騎士団の拡充 ~新しい中隊長~

 ルシファーを中隊長にすることは上手く行きそうだ。

 しかし、それだと暗黒騎士団ドンクレリッターが膨れ上がってしまい、機動的な運用に支障が出る恐れがある。


 軍隊というのは数が多ければよいというものでない。

 戦国時代の武将である上杉謙信は戦争の勝率が高いことで有名だが、彼は大規模な軍隊を好まなかったことで知られている。


 機動的な運用が可能な適度な兵数をもって迅速な一撃で敵に被害を与え、戦いには深入りしなかった。要は一撃して勝ち逃げしていたのだ。

 これはこれで相手にしたらたちが悪い


 フリードリヒはこういう戦い方が好きだった。


 悩みに悩み、出した結論は次のとおりである。


(暗黒騎士団)

第1騎士団長:フリードリヒ・エルデ・フォン・ザクセン

第1騎士団副管:レギーナ・フォン・ザクセン

第1騎士団参謀:アビゴール

 第1中隊:バイコーン騎兵・歩兵100:隊長:カロリーナ

 第2中隊:ダークナイト軍団100:隊長:オスクリタ

 第3中隊:天使軍団:天使100:隊長:ミヒャエル

 第4中隊:悪魔軍団:悪魔100:隊長ルシファー(グレゴール・フォン・フェヒナー)

 第5中隊:蠅騎士団フリーゲリッター:悪魔100:隊長ベルゼブブ(アルフレート・フォン・アルブレヒツベルガー)

 第6中隊:ペガサス騎兵100:隊長:ネライダ

 第7中隊:魔道部隊:魔導士100:隊長:フランメ

 第8中隊:砲兵隊:砲兵100:隊長:ジョシュア・フォン・サンチェス


第2騎士団長:アダルベルト・フォン・ヴァイツェネガー

第2騎士団副官:フィリップ・フォン・リスト

 第1中隊:バイコーン騎兵・歩兵100:隊長:ヴェロニア

 第2中隊:バイコーン騎兵・歩兵100:隊長:ゲーロ・フォン・クーニッツ

 第3中隊:天使軍団:天使100:隊長:ガブリエル・フォン・バルベ

 第4中隊:悪魔軍団:悪魔100:隊長:ベリアル(フェルディナント・フォン・ヴィッリ)

 第5中隊:悪魔軍団:悪魔100:隊長:アスモデウス(オトマール・フォン・ケーニヒスペルガー)

 第6中隊:ペガサス騎兵100:隊長:フロリアン・フォン・デア

 第7中隊:魔道部隊:魔導士100:隊長:アネモス

 第8中隊:砲兵隊:砲兵100:隊長:シュタッフス・フォン・サヴァリッシュ


 また、領軍の騎士団長及び副官の人事にも手を付けた。

 結果、次のとおりで古参の騎士団長で残ったのは第3騎士団長だけであり、あとはすべてフリードリヒ組が占めた。


 実力本位でいくとどうしてもこうなってしまったのだ。


(領軍)

第3騎士団: ゾルタン・フォン・ヴァルタースハウゼン(古参)

第3騎士団副官:ジェラルド・フォン・カッシラー


第4騎士団:マルコルフ・フォン・アンブロス

第4騎士団副官:パウル・フォン・ロズゴニー


第5騎士団:アウリール・フォン・ベンダー

第5騎士団副官:アタナージウス・フォン・フライシャー


第6騎士団:ヤン・フォン・シュヴェーグラー

第6騎士団副官:シュタッフス・フォン・ヘンチュケ


    ◆


 以下、このように決まった経緯について、順次述べていこう。


 まず、第1騎士団長はフリードリヒ自身が兼ねることにした。

 将来的には誰かに任せるとも考えないではないが、例えばルシファーなどはフリードリヒ以外には制御できるとは思えないし、しばらくはやむを得ない。


 暗黒騎士団ドンクレリッターは第1と第2に分割することにした。


 第2騎士団長は長年フリードリヒを支えてきたアダルベルトである。これには全く迷いはなかったし、衆目の一致するところだろう。


 第1騎士団で新しいのはルシファーの第4中隊であるが、これは先日に実力を知らしめたところなので問題ないだろう。


 後は銃砲や弾薬の生産体制も拡充してきたので、砲兵隊を増員して中隊とした。隊長は引き続きジョシュアである。


 問題は、新設する第2騎士団の方だ。

 ルシファーの中隊新設によって悪魔軍団の割合が高くなってしまうので、天使軍団も新設してバランスをとることにした。


 目の前にガブリエルという人材がいるのだ、これを使わない手はない。


 というのは後付けの理由で、コンプリート癖のあるフリードリヒとしては第1と第2の構成がシンメトリーになっていないのは我慢ができなかったのだ。


    ◆


 ガブリエルに中隊長を引き受けさせるに当たっては紆余曲折うよきょくせつがあった。


 ガブリエルに中隊長就任を打診したとき、彼は固辞した。

 自分はあくまでもミカエルの従者であり、中隊長などを引き受けてしまってはミカエルの世話ができなくなってしまうというのである。


 だが、ミカエルにはエリノル・フォン・テーアという専属侍女が付けられていた。

 侍女の仕事は、化粧、髪結い、服装・装飾品・靴などの選択、衣装の管理のほか全般の買い物などについて主人を補佐することである。


 これには女性ではないとできない仕事も含まれており、その部分について、ガブリエルはエリノルに頼らざるを得なかった。


 当初、ミカエルの世話を独占できないことに不満を覚えたガブリエルも次第に彼女との協力関係を築いていった。


 エリノルの方も自己主張の強い性格ではなく、いわゆる男を立てるということを心得ていた女性であった。


 が、ガブリエルは智天使の長である。普段はミカエルの陰にあって目立たないが眉目秀麗な美男子であることに変わりはない。

 エリノルはいつしかガブリエルのことを愛してしまっていた。


 ある日。ミカエルの衣装を整理していた時、エリノルは感極まってガブリエルの背中にしがみついてしまった。

「ガブリエル様はいい匂いがいたします」

「えっ! 風呂にはちゃんとはいっているのだが…」ととぼけたことを言うガブリエル。


「そうではなくて、男の人のいい匂いです。ガブリエル様がミカエル様を好いているのはわかっていますが、ここにガブリエル様を好きな女がいることを覚えておいていただけませんか?」


 ガブリエルは答えにきゅうした。


「本当に覚えておくだけだからな」

「ええ。それだけで私は幸せです」


 その翌日。

 ガブリエルはミカエルに言われた。さすが熾天使してんしは全てを見通しているらしい。


其方そなたがわらわを好いてくれるのはありがたいのだがな。わらわは旦那様の愛妾あいしょうゆえ、応えてやることはできん。

 そもそも智天使ともあろうものが人族の一人も幸福にできずしてどうするというのじゃ

 あんなに男を立ててくれる女子などそうそうはおらぬぞ。それこそ男のほまれではないか」


 それを聞いたガブリエルは目から鱗が落ちる思いをした。

 が、それでもまだ割り切れない。


「しかし、天使と人族の恋愛など…」

「それを言われてはわらわの立場がないではないか。はっはっはっ。

 神は天使と人族の恋愛を禁止していないと思うぞ」


 それから、ガブリエルがエリノルを見る目が変わった。

 エリノルはミカエルの世話を完璧に行いながら、ガブリエルに対しても尽くしてくれている。それも何の打算もなしにだ。


 ──確かにこんな女性に巡り合えた自分は果報者なのか?


 これが神の采配ならばこたえねばなるまい。


 ある日。

 ガブリエルは意を決して言った。

「エリノル。私の妻になってくれ」


 感極まったエリノルの頬には涙が伝っている。

「喜んで…」


 そしてエリノルは言った。

「ガブリエル様は暗黒騎士団ドンクレリッター中隊長に望まれているのでしょう。それこそ男子の本懐ではありませんか。

 ミカエル様のことは私に任せて思う存分活躍なさってください」

「わかった。存分にやらせてもらうことにしよう」


 こうしてガブリエルは中隊長の就任を受けることになった。


    ◆


 しかし、ガブリエルは長年ミカエルの従者として過ごしてきており、武人としての実力は周りからみると未知数である。


 そこで、フリードリヒは新設する第2騎士団の第2中隊長はガブリエルと試合をして一本とったものから選ぶということにした。


 ルシファーの時と同様、毎日ひっきりなしに試合が申し込まれる。

 ミカエルの陰に隠れていただけに評価が低いのだろう。


 しかし、結局、ガブリエルから一本をとれる者はあらわれなかった。これでガブリエルに対する評価が一変した。


 第2中隊長だが、ガブリエルの推薦で、ゲーロ・フォン・クーニッツが選ばれた。ガブリエルと唯一10合以上打ち合えることができた男である。人族としては、それでもたいしたものだといえよう。


 第2騎士団にはほかに、第6中隊のペガサス騎兵、第7中隊の魔道部隊、第8中隊の砲兵隊が新設される。


 すんなり決まったのは魔道部隊で、風の上位精霊であるアネモスが隊長となった、風は火の次に尊いとされおり、またアネモスの実力も周知の事実だったから異を唱える者は誰もいなかった。


 第6中隊のペガサス騎兵と第8中隊の砲兵隊は団員の中から希望者の試験を行い選抜することにした。


 結果として第6中隊長はネライダを長い間補佐し、彼女からの薫陶くんとうを受けていたフロリアン・フォン・デアに、第8中隊についてはジョシュアの腹心であったシュタッフス・フォン・サヴァリッシュが選ばれた。

 これは試験の結果であるから順当であるといえよう。


 これで編成は綺麗に整った。

 あとは第1と第2との連携なども訓練していかないとな…

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