第55話 側室と愛妾(2) ~愛妾たち、そして…~

 これで側室問題は片付いた。

 あとは正式な?愛妾あいしょうをどうするかだが…


 候補はクララ・エシケ―とパーティーメンバーからはアークバンパイアのローザ、ヘルミーネ、人狼のヴェロニア、ハイエルフのネライダ、サキュバスのプドリス、それに精霊のフランメ、アネモス、アクア、プランツェ、グルナート、フォトン、オスクリタ、テンプスたち、それから食客しょっかくの中からはタラサとダークエルフのダニエラといったところか。

 今更だが、ずいぶんと多いな…


 本来なら一人ずつ意思確認するところだが人数が人数だから、ひどいやり方だが集まってもらって希望者は手を上げてもらおう。


 そして一同を部屋に集めた。


「皆に集まってもらったのは他でもない。私が正妻を迎えるに当たり、正式な愛妾あいしょうを…」


 「「「「「はいっ!」」」」」


 主旨しゅしを言うまでもなく一斉いっせいに手が上がる。皆、必死の形相である。

 拒否する者は誰もいないようだ…というか想定よりも多いような…


 なんとデュラハンのカタリーナまで手を上げている。精霊たちやプドリスがOKなら自分もといったところか。

 それに侍従長のコンスタンツェとメイドのリーゼロッテにシルキーのオキヌまで手を上げている。


「君たちまで…」

 フリードリヒは絶句した。


 しかし、そこはとことん女に甘いフリードリヒ。

 こうなってしまっては五十歩百歩だ。


「わかった。全員まとめて愛妾あいしょうにしよう」

 その瞬間、女子たちから歓声が上がった。


 ──いろいろな意味で面倒見切れるかな?


 だが、それで終わりではなかった。


 部屋に呼ばれなかった八尾比丘尼やおびくにのカロリーナ、人虎のヘルルーガ、ゾンビのフィリーネ、バンシーのコルネリア、それに竜娘のマルタ、ユッタ、ヒルデ、ロジーナ、エディタたちがそろって苦情を言ってきたのだ。


「わかった。みんなまとめて愛妾あいしょうだ!」


    ◆


 待てよ。勢いでああは言ったが、他の連中はともかく、コンスタンツェは男爵家の娘だ。愛妾あいしょうという訳にはいかない。


 早速、バーデン=バーデンのグナイゼナウ家に挨拶あいさつに向かう。

 ついでと言っては悪いが、バーデン=バーデンへ行くならタラサの親父さんにも会ってこよう。


 グナイゼナウ家を訪れるとコンスタンツェの父はしみじみと言った。

二十歳はたちを過ぎても浮いた話の一つもなくてどうかと思っていたのだが、こういうことだったか…」


「私はコンスタンツェがフリードリヒ様に付いてアウクスブルクへ行くと言った時からこうなるんじゃないかと思っていましたよ」

 とコンスタンツェの母はニコニコ顔で言った。


 コンスタンツェは顔を赤くして恥ずかしがっている。


 ──あれは父上が気をきかせてくれたのかと思っていたが、コンスタンツェが望んだことだったのか…


「とにかく、これからも娘さんには世話になりますので、どうかよろしくお願いします」


 次はタラサの親父さんのところへ寄る。

親方マイスター。タラサを愛妾あいしょうにもらうぞ。かまわないな」


 親方マイスターは小声で言った。

「タラサの秘密を知っているのはフリードリヒ様だけですからね。そういうことなら安心でやす。よろしくお願いいたしやす」


 そう言われては、(実は人前でも平気で竜になっている)とは言えなかった。

 親方マイスターはタラサの大物ぶりを知らないのだな…


    ◆


 そして翌日。

 第6騎士団の副官であるレギーナ・フォン・フライベルクが館を訪ねてきた。


 ──プライベートで訪ねてくるなんてどういう風の吹き回しだ?


「レギーナ。どうした?」

「…………」


 レギーナは顔を赤くしてもじもじしている。

 普段の冷静な彼女からは全く想像できない姿だ。


「何か困りごとか?」

「あ、あの。私を…妻にしてください」


「はあ?」

 レギーナはいつも冷静沈着で、そのような素振そぶりは一つも見せたことがないではないか。


 ──俺が鈍かったということか…


 レギーナは伯爵家の次女だし、家格はちょうどいい。断る理由は何もないな…。


「わかった。だが、側室だぞ」

「それは承知しています」


「ご両親にはこのことは話したのか?」

「いえ。まだ…」


 勢いでここまで来たということか。彼女にしては感情的な行動だ。


「わかった。善は急げだ。君のご両親にご挨拶あいさつに行こう」

「えっ。今からですか?」


 フライベルク家を訪ねると幸いに両親とも在宅していた。


「今日は突然にお邪魔して申し訳ございません」

「第6騎士団長さんが一体何の用だね?」

 レギーナの父が怪訝けげんそうな顔をしている。


「お父様。私、ツェーリンゲン卿の妻に迎えていだけることになりました」

「何っ!」

 突然のことにレギーナの父は驚きの声を上げた。


「ふふっ」

 一方、レギーナの母は笑いをこらえている。


「どうも最近様子がおかしいと思ったらそういうことだったのね。

 でも、いつかこういう日が来ると思っていたわ。この子ったらね、家に戻るといつもツェーリンゲン卿の話ばかりでね。もうたいへんなのよ」

「お母さま。恥ずかしいから言わないで!」


 レギーナはあわてて母の話を止めに入る。


「あなたも本当はわかっていたんでしょ」

 レギーナの母は当惑気味の父をたしなめた。


「うん。まあ少しはな」

 これでレギーナの父も少しは落ち着いたようだ。


「レギーナには立派なお婿さんを探してくるつもりだったけど、自分で連れてくるとはね。偉いわ」

「お母さまったら…」

 レギーナはまた恥ずかしがっている。


 そこでレギーナの父が言い放った。

「ツェーリンゲン卿。貴殿も軍人の端くれであれば、わしと手合わせ願えないかね。もしわしに負けるようなら、娘はやれん!」

「お父様。やめて!」


「なんだ。惚れた男が負ける姿を見たくないのか?」

「そうではなくて…」


 レギーナはフリードリヒの実力をよく知っている。例え練習用の木刀であっても、本気になれば並みの軍人など瞬殺できる。


「わかりました。ぜひ軍人の先輩としての胸をお貸しください」

「ツェーリンゲン卿まで…」


 二人は立ち合いのため、庭に降り立った。


「わしを甘く見ると痛い目をみるぞ」

「心しておきます」


 二人は剣を構える。フリードリヒはいつもの二刀流だ。

「けっ。二刀流などカッコをつけおって…」

「…………」


 フリードリヒは既に集中に入っている。

 その覇気はきにレギーナの父はやや気圧けおされた。


 レギーナの父はあわてて気合を入れ直す。

 しばらくしのぎを削ったあと、レギーナを父が大上段から切りかかってきた。


 フリードリヒはそれを最小限の動作でける。

 大振りだし、予測もしやすい。パワーはあるし、そこそこに強いがいいところゴールド止まりだ。


 フリードリヒは、そのまま10合ほど付き合うと、レギーナの父の剣を跳ね上げた。剣がレギーナの父の手を離れて宙を舞う。


「いやあ。うさわには聞いていたが貴殿は強いな。これなら何の問題もない」

「恐れ入ります」


 どうやら父親にも認めてもらえたらしい。


 その日はフライベルク家で和気あいあいと夕食をご馳走になった。


    ◆


 その数日後。

 コンスタンツェがあわててフリードリヒのところへやってきた。


「フリードリヒ様。たいへんです。ケンタウロス族の群が屋敷へ押し寄せています。

 その代表のフランツィスカという者がフリードリヒ様と話をさせろと言っています」


 そういう予感はしていたのだが、来るべき時がきたか…


「わかった。すぐ行く」


 玄関へ行ってみると間違いない。あのフランツィスカだ。


「旦那様が結婚するっていううわさが聞こえてきて、居ても立っても居られなくて…来ちゃった」


 たまに様子を見に行ってはいたのだが、確かにここ最近はご無沙汰だった。


「ヘリベルト。おいで。お父ちゃんだよ」

「お父ちゃん」

 そう言うとヘリベルトはフリードリヒに頭をこすりつけ甘えている。


 ヘリベルトは4歳になったはずだ。体は成体の半分くらいの大きさに成長している。ずいぶんと大きくなったものだ。


「あたい一族の強い奴を連れてきたんだ。旦那様は食客しょっかくっていうのを集めているんだろ。あたいらも入れてくれないかな?」


 ケンタウロス族というのも目立つが、ダークナイトもいる今となっては今更だ。


「わかった。食客しょっかくにしよう」

「ありがとう。旦那様」


食客しょっかくは屋敷ではなく食客館しょっかくかんに住んでもらっているんだ。案内しよう」


 食客しょっかく館に連れていくと、食客しょっかくたちは当初驚いていたがすぐに慣れてしまった。この程度の異形いぎょうの者に驚いていてはフリードリヒとは付き合っていられないとわかっているのだ。


 だが、フランツィスカも愛妾あいしょうの一人にしないと納得しないのだろうな…


 もうこれで女性関係の清算も終わりだよな。

 自らの記憶をたどるフリードリヒ。


 ふとアテナの姿が目に浮かぶ。


 ──だが、まだだ。俺はアテナ様にふさわしい男にはなれていない。


 そして最後にヴィオランテのことを思う。


 ──結局、正妻をもらうことになってしまったが、まだあきらめない。二人は結ばれる運命なのだから…

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