第19話 食客の充実とフリードリヒ私兵団(1) ~天才商人~

 30年ぶりのオリハルコン昇格や氷竜退治で白銀のアレックスの名前がフライブルクの英雄としてとどろいていることもあって食客しょっかくの人数も増えてきた。


 冒険者アレックスをしたって武芸に才のある者が多かったが、一方でタンバヤ商会会長としてのフリードリヒをしたって商業や技術開発の才のある者も集まってきていた。このような者たちはタンバヤ商会でふさわしい仕事を与えることにしている。


    ◆


「ツェーリンゲン卿。ちょっとええでっか?」

 クラスメートの一人が話しかけてきた。


 ──なんだこの似非えせ関西弁は?


「何の用だ?」

 アダルベルトが立ちはだかる。


「これは赤髪のアダルさん。わいはツェーリンゲン卿に話があるんやけど…」

「貴様のような弱い者をツェーリンゲン卿は相手にしない」

「確かにわいは武術の方はからっきしやけど、他のことで話があるんや」


 そこにフリードリヒが割って入る。

「アダル。そう邪険にしなくてもいいだろう。クラスメートなんだから話だけでも聞こうじゃないか」

「さすがツェーリンゲン卿。わかってらっしゃる」


「で、用事というのは何だ?」

「わいはゴットハルト・ギルマンいうて、ハンブルグのちょっとした商会長の次男なんや」

「ほう。そいえば入試の時に3位だったね」


「ツェーリンゲン卿は食客しょっかくいうのを集めているんやろ。わいも食客しょっかくいうのにしてくれへんか?」

食客しょっかくを集めているのは慈善事業ではない。才能のある者を集めているのだ。君には何の才能がある?」

「決まっとるやろ。商売の才能や」


「しかし、なぜハンブルグからわざわざアウクスブルクまで? 近くの大公国にも学校はあるだろう」

「もちろんあんさんに会うためや。タンバヤ商会いうたら今や帝国中の主要都市に支店を持つ大商会や。しかも新商品はバンバン発売しとるし、経営手法も一流や。今や商会の子息のあこがれの的なんやで」

「なるほど」


 ──そこまで言われるとちょっと恥ずかしいな。


 そこでフリードリヒはゴッドハルトという人物を試してみることにした。

 かねがね構想していた商工組合のことを話してみる。


「商工組合?」

「簡単に言えば、ギルドのギルドだな。商業・工業の各ギルドが資金を出資しあって作るのだ。商工組合では、手形の割引、資金の融資、職人の研修、特許制度の管理などをやらせようと思っている」


「特許制度いうのは15年間売り上げの一定割合を払ういうやつやな。あと融資や研修はわかるけど手形の割引って何や?」

「商売をやるときに信用のある相手とは掛売り(ツケ払いのこと)をするだろう。それを手形という書面に証書化して組合が買い取るのだ。そうすることによって支払いの期日前に現金化することができ、資金繰りが楽になる」


「それは確かに助かりますな。しかし、それだと組合が泥をかぶることになりまへんか?」

「手形を買い取るのは実質的に融資と変わらないから、買い取る時は利息相当分を割引いた額で買い取る。だから手形割引だ」

「なるほど。それはまたすごいことかんがえましたなあ。実現したら商会の経営が楽になることは間違いありまへんな」


 それからフリードリヒはゴッドハルトと経営や経済についての意見を交わした。

 ゴッドハルトは、とにかく理解が早かった。経営や経済に関する天才的な感性を持っているようである。フリードリヒとしては、この人材はキープするに限ると判断した。


 結局、ゴッドハルトは食客しょっかくの一員に名を連ねることとなり、放課後にアウクスブルク支店の仕事を手伝いながら経営の勉強をしてもらうことになった。


    ◆


 フリードリヒは学園が休みの日は冒険者活動を続けていた。

 時折ヴィオランテとのデートのために休むことはあったが、そんなときは女子連中の機嫌が途端に悪くなるのでたいへんだった。


 ある日。冒険に出かけるためにアウクスブルクの町を歩いていると親子連れに声をかけられた。


「あのう。白銀のアレク様でいらっしゃいますよね」

「そうだが」


「この子と握手してやっていただけませんか?この子、アレク様にずっと夢中なんです」


 小学校低学年くらいの男児がキラキラした目でアレクのことを見つめている。


 ──握手?いつの間にそんな芸能人みたいなことに?


「わかった」


 フリードリヒは男児のところにかがみこむと、握手してあげた。


「やったー!僕、もうこの手を一生洗わないよ」

「どうもありがとうございました。」


「ところでどこで私の話をお聞きになったんですか?」

「町の広場ですが」

「そうですか…」


 とにかく事実確認のため広場へ向かう。

 広場では男が本を片手に大勢の観客の前で読み聞かせている。盛り上げ方も様になっており、なかなかの演技派だ。かたわらにリュートを持った吟遊詩人がいて、音楽をつけて盛り上げたり、歌を間にはさんだりしている。


「おい。あれ本物の白銀のアレクじゃないか」


 マスクをした独特の姿に、観客の一人が気づいてしまった。

 結局、観客がアレクのもとに殺到し、握手攻めにあってしまう。ついでとばかりに、パーティメンバーも握手を求められているが、突然の出来事にみんなとまどっている。


 騒ぎが収まったあと、読み聞かせの男に本を見せてもらうとタンバヤ商会が出版元ではないか。

 著者は、ルイーゼ・フォン・ツェーリンゲン。妹のルイーゼだ。せがまれて冒険の話はしていたし、紙に書き留めていたことも知ってはいたが、こんなことになるとは…。


 それにしても、知識普及のために凸版印刷の開発は指示していたが、それの第1号がアレクの冒険譚ぼうけんたんとは…。ハント殿も一言相談してくれればいいのに…。


 そんなこともあって、フリードリヒのもとには武術系の食客しょっかくが帝国中から更に殺到することになるのだった。


    ◆


 フリードリヒの食客しょっかくは100人を超えてまだ増える勢いだ。

 人数的に軍隊であれば少な目の中隊規模なので、軍として編成することを考えてみる。


 以前から考えていたオリジナルな編成としては、バイコーンを使った騎馬軍団とペガサス軍団がある。また、アンデッドのダークナイトを配下に置くことも考えていた。


 これを踏まえた軍編成としては、次のようになる。


●歩兵軍団:約30人 隊長:カロリーナ

●バイコーン騎兵団:約30人 隊長:ヴェロニア

●ペガサス騎兵団:約30人 隊長:ネライダ

●ダークナイト軍団:約30人 隊長:オスクリタ

●魔導士団:約10人 隊長:フランメ


 バイコーンは、二本角をした暗黒属性の馬で、漆黒の毛並みをしている。ユニコーンは純潔をつかさどるのに対し、バイコーンは不純をつかさどる。非常に獰猛どうもうであり、体格が良く力も強いので軍馬としては最適である。


 バイコーン騎兵団は馬上からの弓の騎射と槍による突撃攻撃を主とした機動力重視の軍団である。

 隊長は、ハルバート使いのヴェロニアとした。

 ちなみに、ヴェロニアは処女でバイコーンに嫌われてしまうので、ユニコーンに騎乗する予定である。


 ペガサスは、鳥の翼を持ち、空を飛ぶことができる馬で一般には白い毛並をしている。

 ペガサス騎兵団は上空からの炸裂さくれつ弾の投下と弓の騎射を主とした航空戦力で、将来的には現在開発中のライフルを装備させる予定である。この時代に空からの攻撃というのは、反則級の威力を発揮するだろう。

 隊長は、弓が得意なネライダとした。


 炸裂さくれつ弾は、東のモンゴル軍が既に「鉄砲てつはう」と呼ばれるものを使用しているが、更に改良したものをタンバヤ商会の技術チームが開発した。


 ダークナイトは、骸骨の騎士の姿をした中位アンデットで、武力はアダマンタイト冒険者に匹敵する。伍長などには上位種のアークダークナイトを配置する予定である。

 隊長は、闇精霊のオスクリタとした。


 魔導士団は人数がまだ10人しか集まっていない。これからの増強が課題となっている。フリードリヒとしては、魔導士の育成学校のようなものが作れないかと考えていた。

 魔導士団もペガサスに騎乗させ、上空からの攻撃を主体にしたいと考えている。

 隊長は、火精霊のフランメとした。


 残る歩兵団は一見地味に感じられるが、拠点制圧などにはかかせない存在となる。

 こちらについては、各々が得意な得物を使用することとした。

 隊長は食客のとりまとめ役であるカロリーナとした。


 以上で軍隊としては中隊規模なので、各軍団を小隊とし、これを10人ずつの分隊に、分隊を5人ずつの伍に分けてそれぞれに隊長を置くことにする。


 以上はまだ構想に過ぎないので、バイコーンなどはこれから調達することになる。それはそれで大変そうだ。

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