第12話 氷竜来襲 ~フライブルクの危機と英雄の誕生~

 この世界はゲームではない。


 SSランクのアダマンタイトに昇格し、強い魔獣を相手にする機会が増えたフリードリヒは実感していた。


 これがゲームの世界であれば、レベルアップし、これが積もってHPや防御力が桁違いに増えていたりする。


 しかし、この世界はリアルの世界であって、人族は人族の肉体を超えられない。いくら鍛えたからといって人族の皮膚が鉄並みに丈夫になったりはしないのだ。

 フリードリヒの場合、プラーナによって瞬間的に防御力を高めたりする裏技はあるが、これとて常時発動するのは無理だ。


 SSランククラスの魔獣ともなると、直撃を喰らえば即死も十分あり得る。したがって、防御には細心の注意を払う必要があった。


 これがSSSランクともなれば、どうなのだろう?


    ◆


 ある夜。フリードリヒは夢を見た。


 精神支配された氷竜が町を襲っている。氷のブレスを吐き町が次々と氷漬けになっていく。多数の町の人々も巻き込まれ氷漬けだ。


 氷漬けになった建物はもろく、氷竜の尾の一撃で粉々に破壊されていく。


 黒いローブを着た魔導士の姿は見えない。どこか遠くから操っているのだろうか?


 町は激しく破壊されていて、どこの町かは特定が難しい。


 フリードリヒは、そこで目が覚めた。

 先ほどの夢はかなりクリアに覚えているので、予知夢であろう。


「町の特定ができれば、あらかじめ予防策を講じることもできるだろうに。なんと歯がゆいことだ」


    ◆


 フリードリヒが黒の森で狩をしている時、奇妙な感覚に襲われた。


 頭の中に予知夢に似たビジョンが浮かぶ。

 例の氷竜が森の中を町へ向かっている。あの町は……フライブルクだ。それにしても、ワイバーンに引き続き氷竜とはなんと運のない街なのだろうか。


 この感覚は千里眼クレヤボヤンスに近い。

 見えているのはリアルタイムのビジョンのようだ。


「フライブルクの町へ氷竜が向かっている。これから討伐に向かう!」


「氷竜って、あたいらだけで勝てるのか?」

 ヴェロニアから鋭い指摘がある。

 他のメンバーの顔にも緊張が走っている。


「とにかく、見捨てることはできない!」

 と言うとメンバーも覚悟を決めたようだ。


「精神支配を解除できれば、倒せないまでも撃退できるかもしれない」とフリードリヒは思い立ち、テレパシーでオスクリタを呼ぶ。


『オスクリタ。これからフライブルクの町へ行く。急いできてくれ』

『了解』


 テレポーテーションでフライブルクの町へ向かう。

 幸い氷竜はまだ森の上空を飛んでおり、フライブルクの町へ到達していなかった。


 ──あの予知夢が外れてくれるといいのだが…。


 フリードリヒは、氷竜の精神支配の解除を試みるが、おそろしく複雑な術式ですぐには解除できそうにない。


少し遅れてオスクリタがやってきた。

「オスクリタ。やつの精神支配を解除できるか?」

「やってみる」


 程なくしてオスクリタもあきらめた。

「解除には2・3日かかる。すぐには無理」

 闇の上位精霊でも解除が難しいとはどれだけ高度な魔法なのか。


 ──ならば正面から戦うしかないか。


 氷竜は、こちらに気づき氷のブレスを吐きかけてきた。

 フリードリヒは、時空反転フィールドを展開し、ブレスを跳ね返す。


 ブレスは反転して、氷竜を襲った。

 氷属性とはいえ多少のダメージは入ったようだ。


 しかし、時空魔法は魔力消費が激しいため、これだけで氷竜を倒すのは無理がある。


 まずは、空から叩き落とさねばと思っていた矢先、氷竜の方から地上に降りてきた。


 不意を突いて竜の尻尾の強烈な一撃がメンバーを襲う。


 攻撃がヘルミーネをかすり、ヘルミーネは吹き飛ばされた。見ると左腕がちぎれてなくなっている。


「ヘルミーネ!」


 フリードリヒは、ヘルミーネのもとに駆け寄り、素早く抱きかかえるとテレポーテーションで離れた場所へと離脱した。


「オスクリタ。しばらく時間を稼いでくれ。後衛陣は遠距離からサポートだ」

 フリードリヒは、場を持たせるための指示を出す。


「ミーシャ。ヘルミーネの腕を回収してきてくれ!」

「わかったにゃ」とミーシャは緊張した面持ちで答えると、素早く走っていった。


 見ている間にもヘルミーネの腕から大量の出血が続いている。顔面は蒼白となっている。


 まずは、止血するためにヘルミーネの腕をしばった。


 このまま光魔法のメガヒールで腕を再生することもできるが、それは最後の手段だ。

 再生するといっても、残った体から材料が供給されるため、筋肉が衰え、骨はスカスカになってしまう。


 程なくして、ミーシャがヘルミーネの腕を回収してきてくれた。ミーシャは今にも泣き出しそうな表情をしている。


 フリードリヒは、すぐにヘルミーネの腕をハイヒールで接合した。木魔法で免疫力を強化することも忘れない。感染症対策のためだ。


 ミーシャにヘルミーネのことを頼むと、フリードリヒは、戦線に復帰する。


 オスクリタがダークウォールでブレスを防ぎ、後衛陣が魔法攻撃を行っているが、初級や中級の魔法ではほとんどダメージが通っていないようだ。


「主様。奈落タルタロスへ落としてもよい?」とオスクリタが聞いてきた。

 それだと、また討伐部位がないパターンになってしまう。


「それは最後の手段だな」

「了解」


 中位魔法でも無理だとすると上位魔法で対抗するしかないが、ここだと町に被害が出てしまう恐れがある。

 もう少し郊外までおびき寄せることにしよう。


 フリードリヒは、杖に跨ると飛翔して氷竜の後ろに回り込み、ファイアジャベリンを50本ほど打ち込んだ。


 竜の気をうまくそらせたようだ。


 そのまま郊外の方向へ逃走すると、竜は飛翔して追いかけてきた。

 飛んでくる氷のブレスを右へ左へと避けていく。


 ブレスの一発がフリードリヒのマントをかすった。みるみるうちにマントが凍り付いてきたので急いで外す。


 ──危ない。直撃を喰らったら一発でアウトだ。


 十分に町から離れたところを見計らって、フリードリヒは反転した。


 氷のブレスを時空反転フィールドで跳ね返すと次の一発のタイミングを見計らう。


 ブレスを吐こうと口を開けたタイミングを見計らい、口の中めがけて炎の極大魔法ヘルファイアを食らわせる。


 竜が吐いた氷のブレスとヘルファイアが反応し、竜の口の中で大爆発を起こした。水蒸気爆発である。


 爆風が当たりの木々をなぎ倒していく。フリードリヒも爆風に吹き飛ばされたが何とか空中でバランスを保った。


 見ると竜の首から先は吹き飛ばされ、胴体は地上に落下していった。


「ふーっ。終わったか。」

 フリードリヒは安堵あんどのため息をついた。


 そこに光輝く鳥の羽のようなものが舞い落ちてきた。


 上空に気配がするので見ると、武装した女性の姿があった。背中には羽が生えている。


「あなたは?」

「私はミカエル」


 だとすると、キリスト教の最上級の熾天使してんし(セラフィム)の一人だ。


「ミカエル様がなぜここに」

「神はあなたの行いをずっと見ています。この度の働きを喜んでおいでです」


「それを言いにここに?」

「そうです。私もあなたのことはずっと見守ってきました。これからも期待していますよ。励みなさい」


 そう言うとミカエルは上空へ去っていた。


 見ていたって、ヘルミーネがやられるところも含めてってことか。

「強そうなのだから助けてくれてもよさそうなのに」と苦情も言いたい気持ちになるフリードリヒだった。


 それはともかく、とにかくヘルミーネのことが心配だ。


 テレポーテーションでヘルミーネのもとへ戻ると、メンバーが心配そうに見守っていた。


 顔面は蒼白で、額を触ってみるとかなりの高熱だ。


「急いで城へ戻ろう」


 テレポーテーションでホーエンバーデン城へ戻る。


「コンスタンツェ。ヘルミーネが高熱なんだ。すぐに水と手ぬぐいを用意してくれ」


 ヘルミーネを部屋のベッドへ寝かせるとコンスタンツェを待つ。


「私は解熱剤を用意してくるから、その間にヘルミーネを着替えさせてくれ」とローザに頼む。


 フリードリヒは先日賢者ケイローンに伝授してもらった解熱剤を準備すると部屋に戻った。


 ヘルミーネは意識を失っており、自力では薬を飲めないので、フリードリヒが口移しで飲ませた。

 メンバーの間に微妙な空気が漂っていたが、ここは緊急時だ、苦情を言う者はいなかった。


 コンスタンツェが用意してくれた水に魔法で氷を浮かせると、手ぬぐいを浸し、絞ってヘルミーネの額に当てる。


 その晩はメンバーで代わる代わるヘルミーネの看病に当たった。


 翌朝。ヘルミーネは熱も下がり、目を覚ました。


「ここは?」

「ホーエンバーデン城だ」

「やつは倒せたのね」

「ああ」


「なんだか迷惑をかけたみたいね」

「いや。私の読みが甘かったのだ」

「私が未熟だっただけよ」

 と珍しく素直なヘルミーネ。


 そんなヘルミーネを急に愛おしく感じてしまったフリードリヒは、ヘルミーネにチュッと軽くキスをした。何度も口移しで薬を飲ませたから抵抗がなくなっていたのかもしれない。


 ヘルミーネは真っ赤になってプルプル震えている。


「あーーーっ!もう目が覚めたのにズルいにゃ」とミーシャが騒いでいる。


 他の女子たちも非難の目を向けているが、なぜか気にならないフリードリヒだった。


    ◆


 翌日。ギルドへ行きモダレーナに氷竜討伐の報告をする。


「アレクさん。聞いてますよ。またフライブルクの町を救ったんですよね。フライブルグではもう英雄扱いになってるみたいですよ。」

「そうなのか?たしかに氷竜は強敵ではあったが…。」

「何ですかその反応。張り合いがない。」


 ギルドでは討伐報酬と氷竜の素材を売った代金がもらえることになった。属性竜は数十年に1回しか討伐されないので、高額の買取が期待できそうだ。


「ギルドの幹部がSSSランク昇格の相談をしていますので、お待ちくださいね。結果が決まったらすぐにおしらせします。」


 結局、SSSランク昇格はすんなりと決まった。翌日には連絡があった。

 フリードリヒはおよそ30年ぶりのSSSランクのオリハルコン冒険者となったのだ。


 冒険者たちは、30年ぶりの快挙に沸いた。


    ◆


 フリードリヒが部屋で休んでいると誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。

 部屋の扉がノックされる。

 3つ下の妹のルイーゼのようだ。


「お兄様。聞きましたわ。氷竜を退治なさったとか」

「まあな」


「先日、リンドドレイクとワイバーンを討伐した話を聞いたばかりですのに、凄いですわ」

「別に狙ってやったわけではないのだがな」


 ルイーゼが急かすので、早速氷竜退治の話をする。

 ルイーゼは「すごいですわ」とか「それからどうなりましたの」とか相槌を打ちながら興奮して聞いている。

 ヘルミーネが負傷したくだりでは泣きそうになっていた。


「それで、ヘルミーネ様は大丈夫ですの」

「怪我は治っているのだが体への負担がまだ抜けきっていない。しばらく静養が必要だな」

「冒険者は危険なのですね。よくわかりました。それにしてもオリハルコンって凄いですわ」

「帝国内では30年ぶりらしいからな」


「ありがとうございます。お兄様。とっても面白かったですわ。またお願いしますね」


 ルイーゼは文学好きで暇があれば本を読んでいる。


 文章を書く方も好きらしく、フリードリヒから聞いた話も何やら紙に書き留めているようだ。だが、誰かに見せてはいないようなのでそのままにしている。


    ◆


 数日後、青い服の少女がバーデン=バーデンのギルドを訪ねてきた。どうしてもアレクに面会がしたいのだという。


 用件を聞いても本人に直接話すとの一点張りだった。


 困り果てていたところ、ちょうどフリードリヒがギルドにやってきた。


 モダレーナがホッとした表情で話しかけてくる。

「アレクさん。ちょうどよいところに。この娘がどうしてもアレクさんに会いたいといってきかないんです」


 見るとフリードリヒには面識のない少女だった。


「私に用とはなんだ?」

「あなたは氷竜を倒したんですよね」

「そうだが」

「では、わたしと力比べをしてください」

「はぁ?」


 少女は武装もなにもしていない普通の庶民の格好をしていた。見かけも強そうには見えない。


「その格好で私と力比べをしようというのか」

「それは後でわかります」

「街中では迷惑がかかるので、郊外に広い場所はありませんか?」

「それなら私がいつも魔法を練習している荒れ地があるが…」

「では、そこへ行きましょう」


「どうも説得に応じそうな気配もないし、適当にあしらって追い返すか」と思い、応じることにする。


 フリードリヒは娘を連れて人目のつかない路地へ連れていく。


「ちょっと目をつぶっていてくれ」

 というとテレポーテーションで郊外の荒れ地へ移動した。


 娘は少し驚いていたが魔法の類と理解したようだ。


「ここならいいわ。」

 娘はそう言って、やおら服を脱ぎ捨てると全裸になった。


「おい。何をしている。」

「だって。服を着ていたら破れてしまうもの」

 と言うと娘は氷竜に変化へんげした。


 大きさからいっても、変化能力を持っていることからしても、エルダーの氷竜のようだ。


「この間の氷竜のかたきをとりにきたというわけか?」

「違うわ。あいつは闇の者に操られたあげく弱いから負けただけ。私はあいつに勝ったあなたと単に力比べがしたいだけよ。」


 単なるバトルジャンキーということか。


「私にはお前と戦う理由がない」

「あら。ここまで来て逃げるのはなしよ」

 というや否や氷のブレスを吐いて攻撃してきた。


 フリードリヒは、時空反転フィールドを展開し、氷のブレスを反射させる。


 さきほどの少女の姿を見てしまうと殺すのはためらわれる。どうするか。


 フリードリヒは、次のブレスを反射した隙をみて、時空魔法で空中に足場をつくり、駆け上がると竜の背中に取り付いた。


 左手でオリハルコンの剣を竜の首に突きさし、振り落とされないようにする。


 竜は必死にもがいてフリードリヒを振り落とそうとしているが、剣ががっちりと刺さっているので、それもできない。


 フリードリヒは、右手で竜の延髄を突きさすが、さすがに固く、一撃では深く刺さらない。


 フリードリヒは、二度三度と繰り返し延髄を突きさすと次第に深く刺さっていく。


 竜は叫び声を上げて苦しんでいる。

 そのうち口から泡を吹きながら昏倒してしまった。


 竜の体は縮んでいき、少女の姿に戻って行く。


 フリードリヒは、ヒールの魔法で傷口を治してやると、全裸の体にマントをかけてあげた。


 そうこうしているうちに、少女が目覚めた。

「やっぱりあなた強かったのね」

「まあな」

「勝った以上は私を弟子にしなさい」

「えっ?」

「それが竜族のしきたりよ」


「それは私がおまえの面倒をみるということか?」

「そうね」

「ならば私の食客しょっかくにならないか」


 食客しょっかくは、主人が才能のある人物を客として遇して養う代わりに、有事の際には主人を助けるという風習で、中国の戦国時代に広まった。斉の孟嘗君もうしょうくんなどが有名である。

 端的に言えばフリードリヒ個人の私兵とも言える。


「しょっかく?」

「私が君を客人として養う。その見返りとして有事の際は君が私を助ける。そういう関係のことだ」

「わかったわ」


「そういえば君。名前は?」

「マルタよ」

「それではマルタよろしく頼む」


 こうして氷竜のマルタはフリードリヒの食客となった。


 しかしこれでは終わらなかった。


 マルタが白銀のアレクに負けたという話を聞いて、火竜のユッタ、風竜のヒルデ、土竜のロジーナが次々と力比べにやってきたのだ。


 属性竜は皆バトルジャンキーだったようだ。


 結局、3人ともフリードリヒに敗れ、食客扱いにすることとなった。


 これで属性竜が4頭と非常に強力な食客を抱えることとなったフリードリヒだが、そうそう竜形態の彼女らを人前にさらすわけにはいかない。


 そういうことで、彼女たちには、人形態での武術修行もやってもらうことになった。

 竜は力持ちなので、武器は大剣のクレイモアが気に入ったようだ。


 剣術の師匠はカロリーナにやってもらう。

 カロリーナは一番の年配者でもあり、食客たちのとりまとめ役として、最近は貫禄が出てきた。


 フリードリヒは、5歳の頃立ち上げたタンバヤ商会の経営が軌道に乗っており、相当な収入があるから食客の100や200を養うのは造作もない。


 また、フリードリヒは社会的地位にはあまりこだわりはないが、親しい者が増えるにつれ、これらの者を守っていくためには社会的な力が必要とも考え始めていた。


 この世界はまだまだ武力がものをいう世界である。神聖帝国の皇帝にしても、選帝侯による選挙という形をとってはいるものの、実際には武力を背景とした実力のある者が選ばれている。


 現皇帝のヴェルフ家にしても、代々皇帝を輩出していたホーエンシュタウフェン家から武力を背景に帝位をもぎとったといって過言ではない。


 そういう意味で、私兵とはいえ武力というものは力の源泉たりうるものなのだ。


    ◆


 氷竜の討伐から10日が過ぎようとした頃。バーデン=バーデンのギルドに皇帝オットーⅣ世からの使者がやってきた。


 フライブルクの町を救った快挙に対し、白銀のアレクに叙勲と爵位の授与があるということだった。


 フライブルクの町から熱心な請願があったらしく、皇帝も無視できなかったようだ。


 オットーⅣ世とツェーリンゲン家は必ずしも関係は良くなかったが、白銀のアレクがツェーリンゲン家の人間だとは知らないようだった。


 フリードリヒは、これで少しでも社会的な力がつけられるならばと、これを受けることにした。


 10日後。叙勲と受爵の日がやってきた。

 フリードリヒは、冒険者の装備で行くことも考えたが、ここは奇をてらわず、通常の正装でいくことにした。仮面もなしだ。


 謁見の間を堂々と歩くフリードリヒの美しい姿に、居並ぶ貴族たちは驚嘆の目を向けていた。こんな優男が属性竜を討伐したのかと…。


 フリードリヒが拝謁の姿勢をとると、宮中伯が口上を述べる。


「白銀のアレックス。こちらへ。」

「はっ」

 フリードリヒは宮中伯のところへ歩み寄る。


「この度のフライブルクにおける氷竜討伐は誠に天晴あっぱれであった。よって、蒼炎退竜勲章を授与するとともに、準男爵の位を授けるものとする」

「謹んでお受けいたします」


 蒼炎退竜勲章はおよそ百年ぶりの授与だったようだ。

 準男爵は領土を伴わない名誉称号である。最下級ではあるが貴族であることには違いない。


 続いて皇帝オットーⅣ世からの言葉があった。

「この度の件。まことに大義であった」

「ははっ」


 続いて宮中伯から尋ねられる。

「白銀のアレックスというのは二つ名であろう。本名は何と申すか?」

「フリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲンにございます」


「というとバーデン辺境伯の子息か?」

「左様にございます」


 皇帝の顔が若干不機嫌になった。

 知っていれば叙勲などしなかったのにといわんばかりの感じだ。


 フリードリヒは気づかなかったふりを最後まで通して叙勲の儀は終わった。


 これで庶子という身分から最下位ではあるが貴族の地位を自力で手に入れた。

 あとは勲功を立ててこれをどこまで高めていけるかだ。


 勲功を立てる早道は軍人となり、軍功を上げることだ。フリードリヒは軍人としての道を考え始めていた。

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