第65話 孤島

 海へと投げ飛ばされ孤島へと流れ着いたアルクスとクリオは島の調査のため、島の奥へと向かっていた。


『生き物は多いけど、魔獣の気配は全然ないね。』


『でもたまに聞こえるこの唸り声の様な音は何かしら?』


『地響きの様にも聞こえるし、近くに火山でもあるのかな。海の底にも火山はあるっていうし。』


『火山…火を噴く山のことよね?私は見たことはないけど。』


『僕もないよ。帝国にはあるって聞いたことがあるけど。連邦にはないのかな?』


『そうね、以前外から戻って来た人から話を聞いたことがあるから、連邦のどこかにはあると思うけど…』


島の奥へ向かうにつれて少しずつ聞こえる音は大きくなってきた。

常に聞こえているわけではなく、全く聞こえない時もあった。

そうして、湧水の溢れ出る泉を見つけた。


『海水じゃなくて綺麗な水みたいだね。魔術で水が出せるとは言っても今の状況で魔力を無駄使いするのは得策とはいえないからここに拠点を作って有効活用しよう。どれだけ滞在することになるかはわからないしね。』


泉の水質が問題ないことを確認し、キャンプを張った。

海水でベタベタしていたため、身を清めて落ち着くことにした。

こういう時、空間術が使えることに感謝する。


一息ついた後、島に龍脈が流れていることを思い出し、精霊達も召喚しておいた。

相変わらず召喚時に魔力を大量に消費したが、現時点では安全地帯なので問題ないだろうと思う。


『久しぶり。実は僕とクリオは船から投げ出されてこの島に辿り着いたんだけど、ここがどこかはよくわかっていない。フルーは他の水場や魚などが生息している場所を、ナトゥは食べられる果物や野菜などが実っているか、ヘルバは薬草など役に立つ植物がないかを調べて欲しい。急がないといけないわけではないけど、どれだけここに滞在するかわからないからね。』


『アマリナガイシナイホウガイイゾ』『ソウダナ』『ソウデスネ』


『え?ここって何か問題があるのかな?』


『イソグヒツヨウハナイ』『デモナガイダメ』『カエレナクナルカモ』


『え、ちょっと待って…』


三柱の精霊達は言いたいことだけ言うと、依頼されたものを探しに行ってしまった。


『クリオは何かわかった?』


『精霊様達が言うからには長いしてもいいことは無さそう。でも急ぐ必要は無いって言っていたからとりあえずは拠点作りと島の探索を進めましょ。』


クリオの言うことはもっともだった。

彼らは間違ったことは言わないし、だからと言ってそれに囚われ過ぎて動けなくなるのもよくない。

今できることをやろう。


戻ってきた精霊達から、魚が集まる場所や果物がなっている場所、薬草の群生地などを教わるもその後は精霊達はどこかへ行ってしまった。

そして島に魔獣は見当たらなかったらしい。


人の気配も魔獣の気配もないということはただの孤島なのだろうか。

悩んでいても仕方がないため、魚を獲り、果物を集め、火を起こして食事を作る。

その様子をクリオはじっと眺めていた。


『どうしたの?何か変なところでもあった?』

 

『アルクスはすごいなって思って。あと私、アルフグラーティを出てから全然役に立ってないなって思って。』


『そうかな?魔術を使いこなせるのはクリオだけだし、器用貧乏なだけだよ。僕は人より秀でてるところがないから、その分色々できるようになっただけだしね。』


『能力の話じゃないよ、どんな状況でも前を向いて頑張ってるなって思って。私1人だったらこんな孤島に1人だけ残されたら何もできなかっただろうし。大森林にいる時は1人になってもなんでもできるって思っていたんだけどね…』


『僕だって1人だけになったことはないからわからないよ。いつも近くに誰かいたしね。はい、できたよ。暖かいうちに食べて。』


『ありがとう、いただきます。』


焼き魚と、魚から出汁をとったスープ、そして島で採れた果物と溜め込んであったパン。

孤島での食事としては十分贅沢だし、しばらくはこの食生活は維持できるはずだ。

アーラも食事の時だけ龍珠から抜け出してきて、美味しそうに食べていた。

明日は獣でも狩ってステーキにしようか…

あまりこの生活に慣れて緩まないようにしよう。


2人しかいないため、テントは2人で1つのものを使用した。

普段は一緒のテントで寝ることもないため、隣にクリオの体温を感じ少し緊張した。

だが島に着いてからアリシアもバルトロ兄さんもいない慣れない状況で気を張っていたのであろう。

緊張で眠れないということはなく、すぐ眠りに落ちてしまった。


『ねぇ、アルクス起きてる…?』


クリオはアルクスの返事がないことを確認して、少し近づいた。


『今日1日、いつも以上に頑張っていたもんね。格好良かったよ、お休みなさい。』


誰に聞かせるわけでもなく、感謝の気持ちを伝えクリオも寝ることにした。



アルクスとクリオが寝るとアーラは龍珠から抜け出して、テントを出ると一声鳴いた。

その声とともに三柱の精霊達はアーラの前に現れ、後についていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


翌朝、目を覚ますと目の前にクリオの寝顔があり、びっくりして声をあげそうになったが心を落ち着かせて1人テントを抜け出した。

泉の水で顔を洗い、体をほぐすと違和感があることに気づいた。

体に問題はないものの、龍珠の中にアーラの気配がない。

昨晩寝ている間に抜け出したのだろうか。

今まではこんなことはなかったけど…


『おはようアルクス、良く眠れた?』


『あぁ、おはようクリオ。すっかり疲れはとれたよ。』


クリオが起きたことに気付かなかった。

急に危険に陥ることはないだろうし、昼間のうちに見つけられると良いけど。


その後朝食をとりながら、アーラがいなくなったことをクリオに伝えた。

近くに精霊達の気配もないことからもしかしたら一緒にいるかもしれないことも。


『わかったわ。アーラと精霊様達が何をしているかはわからないけど、とりあえず私達は島の調査を進めましょう。そういえば昨日の夜から地響きはしないわね。』


クリオに指摘されて気付いた。


『精霊達がいないことと関係あるのかな?』


『調べていくうちにわかると良いけど… 危険はないのかもしれないけど、この島には何かあるのかもね。』



準備を整えて、島の奥へと向かうことにした。

この場所に転移術で戻ってこれるように楔を打ち込んだので、万が一迷っても大丈夫だろう。

試しに以前打った楔と繋がる感覚があるかを試したところ、コムニオに打った楔と繋がる感覚はなかった。やはり連邦の大陸からは離れた場所にいるのであろう。


島の奥へ向かうごとに植物は巨大になって行った。


『クリオは大森林のこと詳しいと思うけど、こんなに大きな植物ってあった?』


『いえ、こんなの見たことないわ…なんだか無駄に大きい気がするけど…』


見たところ植物だけでなく、虫や茸なども大きくなっているような気がする。


『なんだか今までで一番探索者っぽいことをしているかもしれないな。』


『そうね、未知の場所を探索するのって怖いけど、少しドキドキするわ。』


周囲に気をつけつつ進むと急に壁にぶつかった。


『茨の壁?なんかここだけ他と違うね。』


『私が退けるわ。風よ、刃となりて、我が道を切り開け!』


クリオから生まれた風の刃が茨を切り裂き道が開けた。

かと思ったその直後に残っていた茨が伸びてきて再度壁となって立ち塞がった。


『これは…ただの茨じゃないみたいだね。基礎魔術の火だと燃やすこともできないし…』


『もう一度!荒ぶる嵐よ、我が前に立ちはだかる壁を吹き飛ばせ!』


クリオから生まれた竜巻は今度は茨の壁を切り裂き吹き飛ばした、だが同じようにどこからか茨が伸びてきて壁を作り出してしまった。


『そんな…』


クリオが頑張っている隣で、大森林の転移の罠と同じようなではないかと気付き、龍脈の流れを探った。

すると茨の壁とは違う方向に伸びているため、そちらに向かうことにした。


『クリオ、ちょっとこっちに着いてきて。』


茨の壁の横の薮の中に入り込むと自然と道が出来て行った。

そのまま龍脈を辿っていくと急に視界が開け、そこには古ぼけた神殿があった。

歴史を感じさせるだけではなく、人の営みがなくなったことを伺わせる植物に侵食された緑に覆われた神殿であった。


『蒼翠龍様と出会った神殿と似ているのね。でも手入れはされてなさそうね。』


クリオの言う通りだった。

そして今まで聞こえなくなっていた地響きと何か得体のしれない強い圧がかかってきた。


『これは、何かいるね…』


『えぇ、覚悟していきましょう…』


神殿に足を踏み入れ奥へ進むと一匹の大きな白い獣が寝ていた。


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