第57話 力試
渓谷を降りて行き、谷底にたどり着いた。
見たことのない不思議な植物が生えている。
『結構深いんだね…』
『かろうじて光は射し込んでいるが、少し暗いな。』
『ですが、大森林には生えていない植物がいっぱいありますね。あ、これなんか珍しい貴重な実ですよ!』
貴重な植物にクリオがはしゃいでいるのが見てとれた。
今後の薬作りに役に立つかもしれないので、薬効を聞いて使えそうなものは採取しておこうと思う。
さらに龍脈沿いを辿っていくと外部からの光りがほとんど射し込まなくなったが、岩壁に生えている苔や茸がじわりと明るく光っていたため、問題なく歩くことができた。
『なんだか不思議な道だね。』
『藍碧龍様がいたところの近くも似たような雰囲気だった気がする。』
奥へ進んでいくと急に開けた空間が広がっていた。
『眩し…っ』
渓谷の深い谷底だというのに、空がよく見え光が射しこんでいた。
急な光に少し目眩を覚えた。
そして目の前には場違いとしか言えない、巨大な神殿がそびえ立っていた。
『これって…』
『あぁ、、龍王様のところの神殿と似ているな。』
『ここに蒼翠龍様がいるってことかな。』
『すごい…』
僕達は目的地にたどり着いたであろうことに息をつき、クリオは純粋に初めて見る光景に目を奪われていた。
アルフグラーティには樹木で出来た建物しかなかったため、石作りの建造物が珍しいのだろう。
『番人みたいな人もいないし、とりあえず中に入ってみようか。』
神殿の中に入るとそこかしこに様々な種族の石像が飾られていた。
人族、獣人、エルフ、ドワーフなど今まで会ったことのある種族やまだ見たことのない種族、それと多様な種類の魔獣が飾られていた。
そして一番大きな龍王様を模して作られたであろう像が鎮座していた。
『誰もいないね。』
『だが、いろんな魔獣の像があって見ているだけでも面白いな。一度戦ってみたいものだ。』
『あの龍の像は藍碧龍様とは違う龍みたいだね。蒼翠龍様のお姿かな。』
『世界にはこんなに多様性に溢れているんですね。大森林がいかに狭い世界だったか思い知らされます…』
人や魔獣など生者がいる気配は全く感じられなく、その静けさが逆に異様に感じられた。
『あの龍の像の真下に扉があったよ。』
どうやらアリシアが偵察に行ってくれたらしい。
『他には扉はあった?』
『なかったよ。これだけ広いのに窓もないしなんだか少し気味が悪いね。』
そういえば神殿に入る前はあれだけ光に溢れ、眩しく感じていたのにここに来てからはうっすらとした明かりがあるものの、少し薄暗く感じた。
『とりあえず先に向かうしかないか。気をつけて進もう。』
扉を開け、慎重に中に入るとまた急に明るくなり、そこには薄いベールに身を包んだ一人の女性が佇んでいた。
『人の子よ、こんな僻地までよくぞ参られた。そこにいるのはエルフか、久しいな。昔はよくエルフがここに来ていたものだが… さて、ここに何用で参った。いや、待て。
確かこの前藍碧龍が連絡を寄越していたな。あれは何だったか…』
1人で喋りながら、悩んでいると執事の格好をした靄が耳打ちをしていた。
『あぁ、そうだった。お主達は藍碧龍の遣いだな。思ったよりも早かったな。この前話を聞いたばかりだと思っていたが…』
藍碧龍様のところを出て、この大陸に来てから半年以上経っているはずだ。人族としては結構時間がかかった認識だったけど、悠久の時を生きる龍王様からしたら一瞬と言っても差し支えないのかもしれない。
『そうそう、まだ名乗っていなかったな。藍碧龍と同じく龍脈を管理する八大龍王が一柱、蒼翠龍という。この大陸の龍脈を管理している。お主達の名はなんと申す。』
蒼翠龍様に促され、各自自己紹介を行う。
『藍碧龍から遣いの者がきたらとりあえず力を試してみろと言われておってな。あやつの遣いということは最低限龍脈の力は使えるのだろうな?どれ、どれくらい使いこなせるようになったか見せてみるが良い。そこのエルフはラピス持ちじゃな。危ないからそこで見ておれ。』
蒼翠龍様が口を開くと大きな泡が生まれ、クリオのいる場所に移動したかと思うと、クリオは泡に包み込まれた。そしてふわりと宙へと浮かんで行った。
『その中なら安全だ、じっとしているが良い。場所を整えるとするか。』
両手を掲げると地面から大きな円形の舞台が現れた。
『これは、闘技場?』
『古来から力試しや模擬戦はこう言った舞台で行われていたからの。』
舞台が迫り上がり終わると、中央に誰かが1人立っていた。
『あれ、あの人 鱗が生えてるよ?』
『獣人とも違うみたいだが…』
腕を組み、堂々とした立ち方に威圧を感じる。
『我が眷属のウィルドじゃ。どれ其奴と全力で戦ってみよ。ウィルド、力試しだから殺してはならんぞ。』
ウィルドと呼ばれた龍の眷属が構えを取った。
『いつも通りやろう。フルー、ナトゥ、ヘルバもお願い。』
2人が頷き、いつもの様にバルトロ兄さんの防御を主体とする陣形を組んで構えた。
精霊達の召喚は慣れたものだ。いつも呼んでいるためフルーとナトゥは僕の魔力で少し大きくなったんじゃないだろうか。
手始めにバルトロ兄さんが盾を展開して構えるも、ウィルドの姿が消えたかと思うと一瞬で僕達の後ろ側に移動していた。何もない宙に突きを繰り出したかと思うと僕達全員に衝撃波が襲ってきて吹き飛ばされた。
何とか空中で姿勢の制御を行って着地をして、反撃にと水衝刃を使ったが、ウィルドが手を払っただけで水の刃は雫になって飛び散った。
僕が攻撃をしている間にアリシアが死角から弓を射つも、少し体をずらしたかと思ったら矢を掴み、アリシアに投げ返していた。
『バラバラに攻撃してもダメだし、守りを固めた方が良さそうだ。』
いつも以上に小さく固まることで、攻撃に備え隙を探ることにした。
ウィルドがゆっくりと腰を落とし、正面に真っ直ぐに掌底を突き出したかと思うと再び衝撃波が襲いかかってきた。
『これくらいなら大丈夫だ!』
バルトロ兄さんが気合いを入れて、衝撃波を防いだ。
だが、ウィルドはその一瞬の間にバルトロ兄さんの目の前まで接近して、至近距離から連続で突きが繰り出された。
バルトロ兄さんは反撃の好機だと思ったのか、カウンター狙いで全て攻撃を受けていたが、攻撃を受け切ったタイミングで、盾にヒビが入りが真っ二つに割れてしまった。
『た、盾が…だが今までの分、返してやる!』
盾が壊れても龍気の力で今まで受けた分を衝撃波で撃ち出した。
その瞬間ウィルドが大きく息を吸ったかと思うと、口から炎を吐き出した。
『まずい、フルーお願い!』
炎のブレスがバルトロ兄さんの衝撃波を飲み込んだ時、グレイヴを中央で持ち回転させた。
そこにフルーの力を合わせると前方に水流が生まれ、炎のブレスと正面からぶつかった。
何とかブレスを相殺できたが、水蒸気により視界が悪くなった。
『ヘルバ、今のうちにウィルドの動きを止められるかな?』
ヘルバが頑張るというポーズを取った後に地面に力を送り込むと、複数の蔦のようなものが生えてきた。
これで足止めをと思ったら蔦が一箇所に向かっていき絡み付いた。
水蒸気が晴れたかと思うと、そこにはウィルドが蔦に絡まり身動きが取れなくなっていた。
再度息を吸い込み自身の周囲に小さく炎を吐いていた。
『やっぱり、炎には弱いか。でもここから仕切り直しだ!』
『そこまで!』
これから気合いを入れ直して再度続きをと思ったところで、蒼翠龍様から待ったが入った。
『これだけ龍脈の力を使いこなしているなら良いだろう。複数の精霊とも契約をしているみたいだしな。力試しは合格だ。』
蒼翠龍様が合格というとウィルドや靄のような執事、どこにいたのか他にも数名が現れ、拍手をしてきた。
そして蒼翠龍様が手をかざすと舞台は消えて先程の景色に戻っていた。
ウィルド達も姿を消していた。
クリオを包んでいた泡も地面までゆっくりと降りてくると、壊れて消えてしまった。
『さて、龍脈の力を使いこなしている様子だし、本題に入るとしようか。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます