第55話 襲撃


アルフグラーティの街中を散策したいと伝えると、会議中にこちらのことを眺めていた若いエルフが案内役に手をあげた。


彼女の名前はクリオと言い、どうやらアルフグラーティの外に興味があるらしく、外から来た人族である僕達と話がして見たい様だった。


会議を行なった大樹を出てアルフグラーティの街中を歩きながら、様々な店や施設などエルフという種族が何を考えて、何をしているかなどの文化をざっと紹介してもらった。


『王国や連邦内の今までの街で見てきたものとは全然違いますね。種族による文化の違いというものをとても実感させられます。』

『楽しんでいただけたなら良かったです。私もいつか、アルフグラーティの外を色々見てみたいなと思っているんです。あ、ここがおすすめのお店です。お昼はここでいただきましょう。』


おすすめだという店に入り、どういったものがあるのかを聞いてみた。


『そうですね、基本的にエルフは大森林で採取できる森の恵である果実や植物を主に食べています。肉や魚を食べることもあ理ますが、積極的に食べることはないですね。

肉を食べるときは魔獣を倒した時に討伐した魔獣の命をいただき、自然に還すためという考えでいただいていますが、肉の脂などは苦手ですね…』


『じゃあ今回の魔獣討伐したら肉祭りだな!』

バルトロ兄さんは張り切っていた。


『普段肉も魚も食べない生活なんて、兄さんには無理そうだね。』


森の恵み定食と題された、数多くの野菜や果物で彩られた食事を楽しみつつ、僕達は会議で語らなかった王国時代の話や、不授であること、龍脈の力を授かった時の話などをした。


『やっぱり不授だからこそ、龍脈の力を授かれたのですね。私もいつかハイエルフになりたいのですが、ラピスを授かってしまったので…』


クリオはハイエルフに対する憧れがあるらしかった。


『そうだ、もし良かったら蒼翠龍様に会いにいく時に一緒に行く?ラピスを持ちながら龍脈の力を扱う方法があるか聞いてみても良いんじゃないかな。』

『良いのですか?他の長達に確認しますが、ぜひご一緒させてください!』


一連の問題が解決したらクリオも蒼翠龍様の所へ行くということで合意した。

そして散策が終わると、外部からの客人用の宿に泊まることになった。

アルフグラーティには基本的に外から人がやってくることがないため、宿と言えるのはこの建物だけだった。


「こんな大きな樹の中で眠るなんて不思議な気分だな。」

「木の精霊になったみたいだね。」

樹の中にある宿という珍しい経験に2人は少しはしゃいでいるのが見て取れる。


その晩、アリシアが急に起き上がると魔獣の気配が膨れ上がるのを感じた。


「アルクス、兄さん起きて!多分、魔獣が集まってきている。」


アリシアの指示に起き上がり、急いで支度をして街の入り口へと向かった。


夜は入り口の門が閉ざされ、自警団の数名が見張りをしているだけだった。

その中に、クリオの姿があった。


魔獣の気配が濃くなっていること、自警団の団長を呼んで欲しいことと、戦える国民達には戦闘準備をするよう伝えてほしいと伝える。


クリオはわかったと急いで伝令に向かう。


「エルフの皆の準備ができるまでは僕達がなんとかしないとね。」

門を乗り越えて森の中へと向かう。


「魔獣の姿は見えないけど、なんだか気配がいっぱいある…」

「とりあえずバルトロ兄さんが守りつつ、後ろから僕達2人で攻めるいつもの流れで行こう。」

「わかった。」


バルトロ兄さんが龍気を使い広範囲に盾を広げ、魔獣の襲撃に備えた。

その間にフルーとナトゥを召喚し、闘技を放つための準備を行なった。

エレメントが豊富なためか、消費した魔力もすぐに回復できる。


その直後に一匹のマッドボアが突進してきて、それが契機となり多数の魔獣が襲撃してきた。


「水衝刃!」

生み出された水の刃が地面を抉りながら直線上に飛んでいき、魔獣達を切り裂いた。


アリシアは空を飛ぶ魔獣に対して弓を引き、空からの攻撃に対応していた。


「守っているだけだと暇だな。なんとか反撃できないものだろうか…」

バルトロ兄さんは魔獣の攻撃を受けながらも、受けるだけではつまらないと受けた攻撃を跳ね返せないかと考えた。

受けた攻撃を溜め込んで、それを解き放つと衝撃波が前方に飛び出し、魔獣を蹴散らした。

「なんか出た…」


「バルトロ兄さん、今何やったの?」

「兄さんすごい!」

「よし、俺に任せろ!」


そのままバルトロ兄さんは攻撃を受けて、倍にして返すという攻撃方法を編み出して魔獣達を蹂躙したが、前方にしか出せないということを見切ったのか横や上からの攻撃が増え、守りに徹するしかなくなってしまった。


「魔獣達も一方的に馬鹿ではないか…!アルクス、アリシア任せたぞ!」


「わかった、地穿槍!」


魔獣が固まっている、バルトロ兄さんの横に一歩出て薙ぎ払った。

生まれた土の槍が魔獣達を抉る。



そうして僕達は魔獣がアルフグラーティ中へと入らないように戦い続けた。


「流石に龍気が使えるとは言っても、ちょっと疲れてきたね…」


アリシアの顔に疲労が見えてきた。


「俺はまだまだいけるぞ!くっ…!」


バルトロ兄さんの守りも少し隙ができ始めていた。


「このままだと3人とも倒れてしまうね。撤退することも考えないといけないか…」


善戦しているものの、数の暴力には勝てずに押し切られそうになっていた。



『お待たせしました!皆、一斉に前方に魔術を投射して下さい!』


急にクリオの声がしたと思ったら、一斉に魔術が射ち出された。

アルフグラーティから射撃系統の魔術師が集められたらしい。

見ていると器用なことに樹々には当たることなく、正確に魔獣達を射抜いている。


「すごい…」

「何だか綺麗だな。」


エルフ達による魔術の放出は暗闇の中に様々な光の軌跡を描いているようにも見え、魔獣を蹂躙していることを忘れてしまうような、幻想的な光景だった。


魔術の一斉掃射が終わると、その後に動く魔獣はいなくなっていた。


『大丈夫でしたか?遅くなってしまいすいませんでした。』


驚きと疲労により座り込んでいた僕達3人は安堵の笑みを浮かべると、疲れから倒れてしまった。


『大変だ、アルクスさん達を運んで!』



目が覚めるとそこは宿の寝床の中だった。


「あれ、ここは…?」


起き上がると周囲にはアリシアとバルトロ兄さんが寝ていた。


『あ、おはようございます。目が覚めたみたいですね。昨晩は本当にありがとうございました。』


エルフ達が魔獣を一斉に倒した後、どうなったのか記憶がなかった。


『あの後は何があったのでしょうか?』

『アルクスさん達が倒れた後は、魔獣はもうほとんど残っておらず逃げてしまいました。御三方を連れ戻して、医師に見せた後、特に問題がなさそうでしたのでここで眠っていただきました。

今は皆倒した魔獣を回収して解体に当たっています。』


あの時にもう戦いが終わっていたのであれば良かったと思いホッとした。


「うーん…」

「俺が守る...!あれ?」

アリシアとバルトロ兄さんも目が覚めたらしい。


『2人とも戦いは終わったよ。』


2人もあの後のこと、現状を伝えた。


『それにしてもあれだけ強いなら、エルフの皆さんだけでもなんとかなったんじゃないですか?』

『いや、普段は皆ばらばらであんなに活躍してくれないんですよ。エルフではないアルクスさん達が3人でこの国を守ってくれてると聞いて、皆力を合わせてくれたんです。普段からこうだと良いんですけどね。皆さんがいなかったら被害は大きかったはずです。本当にありがとうございました。』


 クリオから深々と感謝の意を示された。


『被害がなかったなら良かったです。森の魔獣討伐も完了したし、後は結界を張るだけですね。』

『はい、結界の貼り方に関しては資料が残っています。こちらなのですが、読んでみていただけますでしょうか。』


文字は読めたので一通り目を通すと、基本的な内容としては空間術ではなく2つの場所を繋ぐ転移術のような内容だった。


『とりあえずやり方はわかったから、できると思う。

 また魔獣がやってきてはいけないし、早速試しに結界を張りに行こうか。』

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