第44話 護衛

鍛冶屋を出た後、宿を取り、併設されている食堂で食事をしつつ今後の進み方を話し合うことにした。


「久しぶりにベッドで眠れるね!」

「屋内でのんびりと食事をとれるのもいいな。」

「以前はそれが普通だったことが、旅をしているとありがたく感じるね。」


与えられて当然だと思っていた環境がふとしたことで無くなってしまうこともある。

今あるものに感謝しつつ、いざという時への備えもしっかりしておかないといけない。


地図を広げつつ、耳に集中して他の客の会話に聞き耳を立てる。


『あー、腹減った。弱い魔獣を狩ってもあまり稼ぎにならないな。』

『仕方ないよ、無理して死んだらどうしようもないし。』

『そうだな、この前無理して帰ってこなかったやつらがいたもんな…』

初心者探索者だろうか、堅実にやっている様子だ。


『最近東の街道に魔獣が出没する頻度が少し増えて来たらしい。』

『護衛にかける費用がバカにならないな。仕入れ値はそこまで抑えられないし、卸値を上げると売れなくなるし一番割を食うのは俺達か…』

魔獣の出現頻度が増えているらしい。

何かが起きているのか、メテンプスが何かしているのだろうか…

商人の人達も大変だな。


『そういえば、お前さん不授の楽園に行った知人がいるって言ってたよな。

 北の方は魔獣も多いらしいが大丈夫なのか?』

『あぁ、この前手紙が来たんだが、楽しく幸せにやっているらしいよ。

 どうやってるんだか魔獣の脅威もないらしい。』

『強い探索者や傭兵でも雇っているのか?』

『いや、細かいことはわからない。あそこに行ってる商人達は口が硬くて何も教えてくれないんだよな。』

お、ちょうど聞きたかった話をしている人達がいた。

手ぶらで行くのも悪いし、何か注文してから話しに行ってみよう。


『すいません、不授の楽園のことを知りたいのですが。

 あ、これどうぞ。食べてください。』

『お、悪いね。不授の楽園ね。この国の北の方にあるエルフの国とドワーフの国との国境の辺りにある街なんだよ。

不授のやつやラピスを持っている癖に弱いやつ、まぁこの辺りの街で普通に暮らしていけない人族が流れ着く先さ。』

『何でもその街に行ったやつは皆幸せに暮らしているらしいぜ。

 手紙は送って来るんだが、こっちの街まで戻って来ることはないからよっぽど良い暮らしらしい。』

『だが何か秘密があるんじゃないかって話なんだが、商人以外はあの街へ行くと戻って来なくなるし、商人はあの街のことだけは何にも喋らないんだよな。』

『もし知り合いに不授のやつがいたら、行くことを進めてみるといいんじゃないか?』


そうして不授の街の話を聞いた後はこの街のおすすめや近隣の街の話を聞くことにした。

最近この近辺で普段より魔獣が出没する頻度が増え、更には今まで見たことがない魔獣が出るらしい。探索者協会では討伐依頼を出したりしているが、上手くいっていないらしく、商人も仕方なく護衛を増やしたりで困っているらしい。

一通りの話を聞いた後、お礼を行って2人のところへ戻ることにした。

 

「やっぱり不授の街はあるんだね。」

「アリシア聞こえてたの?」

「うん、耳に闘気を集中すると色々聞き取れるんだよ。それに最近は言葉もわかって来たしね。

 それにしても手紙だけで一度も帰ってこないって何か変じゃない?」

「俺にも何を聞いたのか教えてくれないか?」

バルトロ兄さんに聞いたことを伝えた。


「うーん、よくわからないがとりあえずその街に行ってみればわかるんじゃないか?

 俺達は不授だし、断られることもないだろう。」

「そうね、あんまり心配しなくても良いんじゃない?

 あとは見たことない魔獣っていうのはこの前のメテンプスと関係あるのかな?」

「うーん、どんな魔獣かもよくわからないし、探索者協会に討伐依頼があるか見に行ってみよう。

 路銀も稼ぎたいしね。」

「そうだな、しっかり稼いだら不授の街へ向かおう。」


次にやることが決まり、食堂での温かい食事で腹を満たして、久しぶりの柔らかい寝床でぐっすりと寝た。



翌日


探索者協会に出向いて話を聞くと今まで見たことがないような魔獣が出没するらしく、不安に思った住人や商人達から討伐依頼が届いている様子だった。

どんな魔獣なのか依頼をよく聞いてみた。


・2つの魔獣があべこべに混ざったような魔獣

・死んでいるように見えるけど、動く魔獣

・体の一部が鉄で出来ている魔獣


など見間違えじゃないかと思えるような魔獣の討伐依頼が出ていた。

昼間に出ることはなく、大体夜に出ることがあるらしい。


『夜だから見間違えなんじゃないかと思うんだけど、似たような変な依頼が届いているから無視できなくてね。それっぽいのがいたら、なんでも良いから見つけたら討伐して来てくれ。

 できれば全身だと有難いが、一部でも持ってくれば報酬はちゃんと出すよ。』


協会の人も見えない敵に困っている様子で疲れが見えた。


「どうしようか。とりあえず外に狩りに出て野営していれば出て来るかな?」

「えー、せっかく街にいるんだから夜は宿に泊まりたいな。」

「そうは言っても目撃情報が夜しかないからなぁ…」


珍しくアリシアがわがままを言っているが、アリシアだけ宿に残してバルトロ兄さんと2人で野営するか。どうしたものかなぁ。

その時、協会内で大きな声を出す人が表れた。


『おーい、これから隣街のパリエスに向かうんだが、誰か護衛を引き受けてくれないか?

 道中の食事など諸々は手配するぞ。誰かおらんかー?』


商人が護衛を探している様子だった。


「ちょうど良い。あの商人に着いて隣街まで行ってみよう。

 野営の時に襲われるかもしれないからね。」

「確かに。報酬も貰えるだろうし、一石二鳥だな。」

「えー、のんびりしたいのに…」


名乗りを上げると他にも数名の探索者が手を挙げていた。

人数が集まるとすぐに出発となった。

商人が抱える数台の馬車とそれを囲む複数の探索者という構図で街道を進んでいった。


日中は特に何も起きず、野営を行うことになった。


「今夜出るかな?」

「出てくれると助かるけど、そんなに都合よくは行かないよ。」

「まぁ、焦らずにのんびり行けばいいさ。何か出たら商人と馬車は俺が守るから、あとは任せたぞ。」

バルトロ兄さんは早々に寝てしまった。


「アリシアも寝ておくといいよ。出たら起こすからさ。」

「わかった、ありがとうアルクス。」


火を絶やさないようにしつつ、他の探索者と話をしていると集団に近づいてくる気配があった。


『何かの気配があります、魔獣かもしれないので全員起こしてください。』

『わかった。』


仮眠中の探索者達を起こし、臨戦態勢が整った。

流石に皆のんびり寝ているということはなく、すぐに戦闘態勢をとった。


『暗闇でよく見えないが、何かいるな。』

『あぁ、それも一体じゃなく複数いるな。腹を空かした魔獣の群れか?』


あちらもこちらの隙を伺っている様子で出てこない。


『こういう時は明るくしてやればいいんだよ。光よ、周囲を照らせ!』

光に照らされて見えたのは狼の魔獣の群れだった。


『ちっ、ブラッディウルフか。あいつらは連携攻撃が得意だから1人になるな!必ず誰かと組んで倒せ!』


馬車と商人の護衛はバルトロ兄さんに任せつつ、アリシアと協力して1体ずつ確実に倒していく。

倒しているとブラッディウルフの群れの中に双頭の狼がいた。

他のウルフと違い、口を開けて目が虚だった。


「アリシア、なんか頭が2つある魔獣がいる。」

「とりあえず何をするか分からないから早く倒しちゃお!」

アリシアが短剣を投げるとあっさりと刺さって倒れた。


「あれ、もう終わり?」

「まだウルフ達はいるから気を抜かないで。とりあえず倒したウルフ達は龍珠に入れておくよ。」


その後しばらくしてブラッディウルフの群れは半数がやられたことで散り散りに逃げていった。

商人からは『助かった、お前達を雇って本当に良かった!感謝の気持ちはちゃんと報酬に反映させるからな!』と宣言していた。


その後は何事もなく、隣街についた。

多めの報酬をもらった後、再度協会に出向いて話を聞くとどうやら前の街と同じ様子らしかった。

道中でブラッディウルフの群れが表れたことを伝え、倒した証拠にとブラッディウルフの亡骸を複数提供した。

最近の被害の原因がわかったと嬉しそうにしていた。


宿をとり、部屋の中で双頭の魔獣の亡骸を取り出した。

「昨晩の襲撃でおかしい見た目だったのはこいつだけだった。」

「見るからにあの組織がやりそうな感じだね…」

「この辺りにもやつらの研究施設がるのだろうか?」

「分からないけど、何かしら関連するものはありそうだね。」

「もう少し情報集めないと分からないね。」

「また明日協会で話を聞いてみよう。」


食事にでもしようかと思ったところ、街中に警鐘の音が響き渡った。

「何かあったのかな?」

「わからない。協会に行って聞いてみよう。」


街中が不安に包まれる中、探索者協会へと足を運んだ。

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