第43話 鍛冶
村を出てから道中は獣を狩りながら食料として北へと向かった。
龍脈沿いに歩いていくと近くに清流があることが多くて水に困ることはなかった。
「魔獣も全然出てこないし、なんだかのんびりしちゃうね。」
アリシアはそう言いながらたまに草や果実を集めていた。
「まぁ、安全に越したことはないよ。ところで何を集めているの?」
「これは傷に効く薬草だよ。兄さんがいると戦いで傷を負うことはあまりないけど、何の拍子に怪我をするかわからないからね。あ、果物はただ好きなだけだよ!」
薬草か、王都にいる時は傷薬があったけど、メルドゥースにいる時はちょっと怪我するといつもアリシアが傷に貼ってくれていたな。
「あとはちょっとした毒を中和してくれる草とかもあるんだよ。薬草を組み合わせて傷薬を作れると良いんだけど、アルクスは調合方法とか知ってたりする?」
「薬の調合なら本で読んだことはあるけど、実際にやったことがないからうろ覚えだね。
あとは調合のための器具も必要だし。薬師とか錬金術師とかそういう仕事の人に一度ちゃんと教われば簡単なものなら作れるようになるかも。」
「それなら街で教わることができる人がいないか聞いてみようよ。少しは買っても良いけど、長い旅なら自分達で作れるようにしないと出費も嵩むしね。」
「そうだな。戦うことに関しては成長した気がするが、生きていくためにも色んなことができるようにならないとな。」
薬の調合か。1つ目標ができたな。
ポーションが作れるようになるとそれだけで仕事になるって言われているし、そんな簡単なものではないだろうけど、まずは基礎をしっかり学ぼう。
村を出て約1週間程歩くと、壁に囲まれた街が見えてきた。
「あれが街ね!思ったよりも大きいのね。」
「メルドゥースよりも大きいな。」
「王都よりは小さいけどね。」
街に近づいてからは魔獣も出てくるようになり、少し離れた場所で戦闘音が聞こえてくることもあった。
「街の近くの方が魔獣が出てくるって不思議ね。」
「魔獣が現れる仕組みと何か関係があるのかもね。」
そうして半日ほど歩くと街へと辿り着いた。
街中を見渡すと人族以外にもドワーフやエルフ、獣人など文献で見たことがある様々な種族がいた。
「色んな種族がいっぱいいるね!」
「あぁ、とても自然だ。文化の違いなどで棲み分けられているのかと思っていたが、思ったよりも混ざり合ってるな。」
「何かこの街独自のルールとかあるかもね。探索者協会を探して、狩った獣の換金ついでに情報収集と行こうか。」
街中の中央に1つだけ他よりも大きな建物があり、そこが探索者協会だった。
中に入ると割と賑わっており、皆各々が狩って来たきた魔獣を換金していた。
窓口に並び自分達もと換金をしたが、獣は大した金額にはならなかった。
なんでも探索者以外でも自分達で狩りに出ることが多いらしく、獣はそこまで需要が無いらしい。
魔獣は近隣の農園を荒らしたりで討伐の依頼が出ていたので少し良い金になった。
『街の南側は行く人が少ないから困っていたのよ。ありがとうね。』
思いがけず感謝された。
南側から来て思ったのは農村以外にめぼしいものがないから人の往来が少ないというのはよくわかる。
魔獣の爪や牙、毛皮などの素材は後々何かで使えるかもしれないので全部換金はせずに念の為少し残しておくことにした。
『この街のこととか知りたいのですが、どこで聞くと良いでしょうか?』
『あら、貴方達この街は初めて?だったらこれを読んでおくと良いわ。』
そう言って数枚程度の薄い冊子が渡された。
『この街はコムニオっていう名前なの。見てわかると思うけどいろんな種族がいるでしょ?でも種族間で問題が起きてばかりだったからみんな疲れちゃってお互い譲れること譲れないことをまとめてルールを決めたの。基本的なことはそこに書いてあるから読んでおいてね。問題を起こしても協会は助けてあげられないからね。
あと魔獣を狩るなら北側でよく出るから時間があったらお願いね。』
礼を言ってその場を離れ、待っている2人のところへと戻った。
「この辺りの情報はこの冊子に書いてあることを読めば良いって。」
「へぇ、親切なんだね。どんなことが書いてあるのかな?」
「ふむ、各種の店や飲食店に宿情報か。とりあえず武器の手入れをそろそろしたいところだな。」
「商会でもこういう冊子作ると良いんじゃないかな。帰ったら相談してみよっと。」
「武器の手入れか。そうだね、龍装鎧は細かい傷とかは気付いたら直っているけど、武器はそろそろちゃんと見てもらった方が良さそうだね。」
「良さそうな武器があったらお金を貯めて買いたいね。」
そうして、冊子に書いてあった武器屋(鍛冶屋)へと向かうことにした。
武器を売っているだけでなく、その場で作っているのだろう。
普段は最低限の手入れは自分達でしているけど、できることにも限りがあるし専門の人に見てもらう必要がある。
研ぎ方くらいはちゃんと教わろうかな。
そして冊子に書いてあった武器屋に行くと何人かの客が武器を見ていた。
奥からはリズム良く金属を叩く音が響いてきている。
今まさに武器を作っているのだろうか。
店員は人族だが、やはり奥にいるのはドワーフなのだろうか。
そういえばドワーフの国はどこにあるんだろう。手紙を持っていくのを忘れないようにしないと。
店員に武器の手入れをお願いしたいと相談すると、金属を叩く音が止んだら奥の部屋に行くように言われた。
しばらく武器を眺めながら待っていると金属を叩く音が止んだため、奥の部屋へと向かった。
『あん、なんだお前さん達は。武器の手入れか?ちょっと見せてみろ。』
部屋に入るなり挨拶する間もなく、持っている武器を取り上げられた。
『このグレイブはちょっと力ずくで叩きつけ過ぎだな。少し歪んで武器が悲鳴を上げているぞ。
斧の方も力ずくで斬っているが、変な使い方はしていないから歪みは少ないな。狙いが良いんだろう。
盾の方は結構歪んでいるから別の盾にした方が良いな。
短剣はちょっと研ぐだけでいいだろう。お前さんはセンスがあるな。』
急に僕達の戦い方を指摘し始めた。そして当たっている。
アリシアは褒められて満更でも無い様子だ。
『直るものでしょうか?』
今の状態はわかったけど、直せるのかどうかを教えて欲しい。
『そりゃあ直すことはできるが、また同じことになるだけだな。
グレイブの持ち主は誰だ?ちょっとこの巻藁斬ってみろ。』
はいと受け取って闘気を纏って斜めに斬りつけた。
巻藁はあっさりと2つになった。
『ふん、闘気使いか。なるほどな。力と速さで強引に格上と戦って来たってことか。』
一目で闘気を使ったことを見抜かれた。
『なんでわかったのでしょうか?』
『そりゃあ見ればわかるだろ。』
『親方ー、普通の人は闘気を使っているかなんてわからないですよ。
この辺りにはそもそも使う人がそんなにいないですし。』
隣の部屋の店員さんの声が聞こえた。
『おぉ、そうだったか。まぁ注意して見ればわかるやつにはわかるもんだ。
そこの2人は魔力がないからな。お前さんは魔力はかなりあるが、不思議なことにラピスがないみたいだな。目を凝らしてみればわかるもんだ。』
言われた通りに目に闘気を集中してみた。
するとドワーフの親方から魔力らしきものが流れていて、体の中心にラピスらしき球体があるのが見える。
アリシアとバルトロ兄さんの方を見ると魔力は見えないが、親方とは違ってウィスに満ち溢れているのがわかる。
アリシアとバルトロ兄さんも真似してお互いや僕らを見て驚いていた。
『お前さん達飲み込みが早いな。最近はラピスの恩恵にかまけてばかりで闘気を使えないやつが多くなったっていうのにな。俺達鍛冶屋は目で見極める力が仕事柄必要でやっているが、戦いにも活かせるから練習しておくと良い。
そしてお前さんは技を身につけた方が良いな。』
『技、ですか?』
『あぁ、この短剣使ってる嬢ちゃんはわかっているかもしれないが、どこを斬るのが一番効率的に相手にダメージを与えられるかを考えて、考えた通りに動くってことだな。』
アリシアはポカンとした顔をしていた。
『お、無意識でやっているタイプか。思い当たることはあるか?』
『うーん、確かにここが一番効きそうとか思うところを斬ってるかな。アルクスは戦い全体は良く見ているけど、戦う相手の細かい仕草とかはあまり見てないから相手のことをもっと良く見ればいいんじゃないかな。』
『そうだ、相手を良く見てその瞬間弱いところを正確に斬ったり突いたりする。単純だがそれを極めたやつは強くなるぞ。
それに武器の消耗も少なくなる。今までみたいにとりあえず全力で斬りつけるっていうのは闘気を纏っていようが武器にとっては良いもんじゃねぇ。』
とてもすごい成長のヒントをもらえた気がする。
武器の手入れだけじゃなく、ちゃんと注文したいところだけど…
『そうそう、もし闘玉を持ってきたら闘気使いと相性が良い武器を作ってやるぞ。』
『闘気と相性が良い武器ですか?』
『あぁ、魔石を使った武器もあるが、闘気を流すなら闘玉の方が断然強くなるぞ。』
『この辺りには闘玉を落とす魔獣がいるんですか?』
『いや、わからん。お前さん達が闘気を使うから言ってみただけだ。
気長に持ち込む日を待つとするさ。
ところでお前さん達何か良い素材持っていないか?』
ここに広げて良いかと聞くと快諾されたので部屋の一角に場所を作って、魔獣の素材を取り出した。
『ん、お前どこから出した?いや、なかなか良い素材だな。』
全部探索者協会で換金しなくて良かった。
『ちょっと他の店のやつが仕入れに難航しててな。高く買ってやるよ。
そうそう、お前さん達見たところ防具をつけていないが普段はどんなものを身につけてるんだ?
おまけで見てやるぞ。』
そう言われ、3人で龍装鎧を変形した。
『なんじゃこれはー!!』
親方は驚きとともに目を輝かせて食い入るように龍装鎧を調べ始めた。
そして仕組みはどうなっているのか、材質はなどと僕達が答えようがない質問を延々と繰り広げた。
しばらくして満足したのか解放してもらえたが、また来るようにと気に入られてしまったようだった。
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