第24話 闘気

ある時、僕が闘気を使って魔獣を倒したところ、ヴォルナーさんが声をかけてきた。

『以前から気になっていたのだが、君の闘気の使い方は少し無駄が多いな。闘気を攻撃の一瞬だけ10使えばよい時に、攻撃の準備から終了までずっと20を出し続けていると言えばわかるだろうか?そのせいで君はいつも攻撃後に疲れているように見えるね。』

闘気の無駄が多いか、以前ネモ先生には闘気を出し続けているように言われたのだけどそれは間違っていたのだろうか。


『ご指摘ありがとうございます。以前闘気を教わった時に、少しでも闘気を出していられる時間を長くするようにと言われたのですが、間違っていましたでしょうか?』

『なるほど、まだ初期の訓練の途中だったか。

 初期はまず闘気を扱える量を増やすことに集中するため、長時間闘気を纏い続けられるように鍛える。

 大体1時間程度闘気を纏い続けることができるようになったら合格だ。

 ここを疎かにして先に進む者が多く、そういう奴らはあまり強くなれない。

 アルクス、君は今どれくらい闘気を纏い続けることができる?』

『そうですね、今なら動かなければ1時間くらいはいけるんじゃないかと思います。』

『なるほど、それであればもう次の段階に進んでも良いだろう。

 次はどれだけ瞬時に闘気の出し入れができるようになるかだな。

 こんな感じでな。』

 そう言うとヴォルナーさんは瞬時に闘気を纏い目の前にあった木を切り倒したかと思うと、もうその闘気は消えていた。


『実戦で使おうと思うとこれくらいの速さで切り替えができないと厳しいな。

 まず最初は意識して闘気の切り替えができるようになること。この時は闘気の量は気にしなくて良い。意識して切り替えができるようになったら、切り替え速度を上げることと瞬間的に出せる闘気の量を増やしていくと言う二軸で訓練を行うと良いな。』

 ヴォルナーさんの言うように闘気の切り替えを意識してみた。

 闘気を出すまではいつもと同様に少し時間がかかったが、闘気を消すことはすぐにできた。

 

『うむ、そんな感じだ。消すのは上手くできているが、闘気を出すまでに時間がかかっているな。こればかりは訓練で少しずつ速くするしかないので毎日励むことだな。』

 毎日寝る前に闘気を練る習慣は続けているので、これからはヴォルナーさんの言うとおりに闘気の切り替えも習慣に加えようと思う。

 最近あまり成長を実感できなかったが、これは良い機会だ。


『そうだな、一つ面白いものを見せてやろう。』

 考え込んでいたら、ヴォルナーさんが大剣を構えると大きく振りかぶり振り下ろす瞬間、剣に闘気を纏わせたかと思うと雷撃が迸った。


『すごい…!これは魔術ですか?』

『いや、これは魔術じゃなくて私の体質でな。闘気に雷を乗せることができるんだ。』

『そうそう、帝国の中でも珍しくて、俺が知ってるのはリーダーだけなんだけどね。なんでも雷の精霊に愛されているらしいぜ。』

 黒豹の獣人のシュヴァルトが教えてくれた。


『あ、もしかしてチーム名の「雷吼狼牙」って今の技からとっているのでしょうか?』

『そう、大当たり!リーダーのこの技に俺達は何度も助けられたからな!』

『大体あなたが無茶するからでしょ!』

『まぁまぁ、そう言いなさんなって。』

 赤隼の獣人のファルートが助けられるような事態に陥るのはいつもシュヴァルトが原因らしかった。


『この様に闘気の扱いを極めていくと、魔術に劣らず様々な戦い方ができる様になっていく。弓などで矢に闘気を乗せて当てた的を燃やしたりすることもできるらしい。この街の者達は皆不授だと聞くが、関係なく使える力だ。それなりの修練は必要とするが、君にも何か目指すものがあると良いと思ってな。』

 ヴォルナーさんは少し漫然と生きていた僕の心情を見抜き、目指すべき高みの一端を見せてくれた。

 

 不授だからと言って強くなれないというのはただの言い訳だってことだ。

 兄様に追いつけないことはないんだ。

 やっぱり強くなることを諦められない。

 

 強くなったら、探索者になって世界中を旅したい。

 旅をして、自分を鍛え、こんな強い人達とも渡り合える様に。



『ありがとうございます。お陰で目指すところを思い出しました。』

『そうか、それは良かった。私達の仕事ももうすぐ終わるだろうからな。それまでに何かできればと思っていたんだ。』



そうして、その後ヴォルナーさん達は順調に目的の薬草を見つけた。

それだけではなく、数多くの魔獣を倒し素材や魔石を探索者協会に納品したため、メルドゥースの街は好景気に沸いた。

当然商会の仕事も忙しくなり、僕は慌ただしい日々を送ることになった。

好景気が一段落する頃、「雷吼狼牙」の面々は仕事は終わったと帝国へ帰ることになった。


『アルクス、君のお陰で無事に依頼を完遂することができそうだ。本当にありがとう。』

『いえ、みなさんの実力ですよ。僕もとても勉強させていただきました。』

『もし、探索者になることがあればまた会うこともあるだろう。闘気の訓練を欠かさぬ様にな。』

『はい、ありがとうございました!』


来たときは皆に怖がられていたが、帰る時には街全体に好景気の立役者として見送られていた。

人にどう思われようと何を為したかが大事だということを教わった。

自分は何を為したいか、ちゃんと伝える必要がある。



意を決した僕はメルティウム叔父さんに自分が探索者になりたいということを伝えに言った。

「あぁ、アルクス。「雷吼狼牙」の件は助かったよ。お陰で街全体の景気が良くなって、皆喜んでいたよ。で、何か話があるんだって?」

「はい、僕は探索者になりたいと思います!」

「私も!」

「俺もなる!」

どこにいたのかバルトロ兄さんとアリシアが現れた。


「2人ともどうしてここに?」

「アルクスがお父さんに話があるって言っているのを聞いて、隠れていたのよ!」

 バルトロ兄さんも頷いていた。


「お前達、人の話を盗み聞きしようなんて…いや、乱入して来たから盗み聞きではないのか。

 まぁ、いい。アルクス、お前の願いはわかった。お前は商会の仕事も孤児院の子ども達の勉強もよく頑張ってくれている。実際お前が来てから良い循環が生まれている。だが探索者になるということはいずれこの街を出ていくことになるだろう。そこで3つ、これができたら探索者になっていいという条件を出そう。


1つ目は孤児院の子ども達を育て、お前の仕事を引き継ぐことだ。

アルクスが探索者になったら商会の仕事が回らなくなりましただと困るからな。


2つ目は子ども達が最低限の獣を狩れる様に育てて欲しい。

年長組には戦い方を教えてくれていると思うが、孤児院の子ども達でやる気がある子には戦い方や訓練方法を教えて欲しい。お前がいなくなった後も自衛するくらいの力はつけておけば大丈夫だろう。


3つ目はアルクス、お前が強くなることだ。

「雷吼狼牙」のヴォルナーまでとは言わないが、最低限探索者として安全にやっていけるという証を示して欲しい。

私からは以上だ。期限は特に設けないから焦って仕事に支障をきたさないように頼むよ。

そうそう、バルトロとアリシアも探索者になりたいのならアルクスに協力しなさい。1人で探索者になるよりも、3人いた方ができることも多いだろう。特に3つ目の条件は全員が強くなることになるね。」


「ありがとうございます!」

「ありがとうお父さん、私頑張る!」

叔父さんから条件は出されたものの、とりあえずダメだとは言われなかったので少しずつ頑張ることにしよう。


そうして商会の仕事と子ども達の勉強に加えて、やる気のある子ども達を募り、商会の仕事を教えたり、戦い方を教えたりとかなり忙しい日々が続いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


そして数ヶ月が経過して、1つ目と2つ目の条件達成まであと少しというところまで来ることができた。

しかし3つ目の条件がなかなか難しく、難航していた。

まずはバルトロ兄さんとアリシアが闘気を使える様に訓練して、自分も闘気を使いこなせる様に頑張った。

バルトロ兄さんはここぞという時に一撃で大木を切り倒すほどの闘気を扱える様になったが、闘気の切り替えに時間がかかっていた。

アリシアは闘気の切り替えは瞬時にできるようになったが、多くの闘気を扱うことに苦戦していた。

僕はと言うとバルトロ兄さんとアリシアの中間あたりで闘気の切り替えは遅くはないけど、アリシアほど速くもない。闘気による一撃はそれなりに強いけど、バルトロ兄さんほど強くはないという感じだった。

一点だけ僕が秀でていたのは今までの訓練の成果か、3人の中ではダントツで長時間闘気を扱うことができた。


しかし、ここから先どうしたらメルティウム叔父さんを納得させられる証を示せるかというところで壁にぶつかった。

そういえば以前ヴォルナーさん達について南の森について行った際に虎のような魔獣がいた。

「チームでこいつを倒せたら探索者としては1人前だな。」

ヴォルナーさんがそんなことを言っていたのを思い出した。


当時の記憶を思い出すに現在の僕達3人では、まだまだその魔獣には力及ばず殺されるだろう。

どうしたらもっと強くなれるかというところで解決策を見出せずに訓練を続けるしかなかった。

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