第18話 勝利

その頃、小型チームは数は多く無いものの小型魔獣の殲滅に尽力していた。


 「ふぅ、小型はあらかた片づいたかな。」

 「あとは大型魔獣さえ倒してしまえば決着じゃないかしら。」

 「音がしない...」

 「確かに、先輩方の攻撃する音が聞こえないね。もう倒したのかな?」

 アルクス達は先程まで大型魔獣の方から聞こえていた攻撃音が聞こえなくなっていることに気付いた。


 「おい、お前等も気付いたか?」

 他チームのメンバーも不思議に思ったのか声をかけてきた。


 「あぁ、そっちも片づいた様子だな。さっきまで先輩達が戦う音が聞こえていたけど、もう倒したのか?」

 「倒したなら歓声とか上がっても良いと思うけど。」


 その後、地を震わす様な地響きが聞こえ、息も絶え絶えスペクト達が人を背負い逃げてくるのが見えた。


 「大変だ、大型チームはほぼ全滅だ。」

 「何ですって?」

 「まず後衛チームが気絶したため、僕達は彼らを安全圏に避難させようとしていたんだ。

  そうしていたら残っていた前衛チームが魔獣の後方に放り投げられていたんだ。魔獣の攻撃では無いとは思うが、何が起きたかはわからない。

  一旦引いて、ミーティス先輩に情報を共有してこようと思うが君達はどうする?」

 演習の時とは違い明らかに冷静さを欠いて早口になっているスペクトの様子にアルクス達は事態は大変な状況になっていることを気付かされた。


 「誰かが食い止めておかないと魔獣が城壁までたどり着いてしまいますよ。僕が残ります!」

 アルクスが宣言すると仲間達も続いた。

  

 「もちろん俺達も残るぜ!」

 「当然よ!」

 「アルクスのことは僕が守る…!」

 「仕方ないわね。」


 「さて、先輩方も担ぎながらだと危ないでしょうし、僕らは退路を確保しますよ。」

 「小型魔獣もこの辺りにはほとんどいなくなったし、小型チームはそのまま大型チームへ移行しよう。進路担当チームは先輩方を城壁まで連れて行って、可能であれば援軍を連れて戻ってきてください。」

 「わかった!すぐ戻るから死ぬんじゃないぞ!」

 自然とアルクスがその場の指揮を取る流れとなっていた。

 進路担当チームと共に、スペクト達は城壁へと向かっていった。


 「さて、先輩方が敵わなかった相手だけど、俺達でなんとかなると思うか?」

 「急に音がしなくなったことから考えると、何か強力な攻撃でもあったんじゃないかしら?」

 「とりあえず慎重に様子見をしながら決めるしか無いわね。」

 リディウスとヘレナとクラウディアがどうやって攻めるかを考え出していた。


 「そうだね、少なくとも1チームは離れて支援に徹しようか。

  先輩方みたいに全滅は避けたいし、敵の行動がわかれば後で対処のしようがあるかもしれない。」


 「それならアルクス君達は支援に回りなさい。あとのみんなは私についてきて。」

 1人だけ残っていた第三学年のホックが指示を出した。

 「貴方達は多分この中で一番分析力があるはず。そしてチームとしても一番強いわよね。敵の行動をしっかりと見てどこが弱点か見極めて。」


 「わかりました。ではよろしくお願いします!」

 「よし、散開!」

 アルクス達以外のチームは大型魔獣の周囲へと展開した。



ホック達が魔獣の近くに来たところで、魔獣を見てホックが何やら気付いた。

 「どうやら右目が見えていない様子ね。右側の反応が鈍いわ。」

前脚をたまに暴れ回しつつも、魔獣は先程よりも動きが鈍くなっていた。


 「貴方達、気付いていると思うけどあの前脚はかすっただけでも吹き飛ばされるわ。少し距離を保ちながら、投擲や弓を主軸にして左目を攻撃しましょう。接近戦しかできない子は後方に回って。」

 「わかりました!」



魔獣の後方に回り込んだメンバーは大きく抉られた傷跡を見つけた。

 「これはすごい傷だな。この傷のせいで動きが鈍いのか?」

 「じゃあ何でやられたの?この動きなら避けられるはずでしょ?」

 「わからない...気を引き締めていかないと急にドカン!とやられるかもね。」

 「とりあえず1人は攻撃せずに魔獣の様子を見ててくれ。この傷跡を中心に少しずつ削っていこう。」

 「よし、それじゃあやるぞ!」

先輩達がつけた傷跡を中心に攻撃を続けることになった。



後方チームが攻撃を開始した頃、アルクス達は少し離れたところから注意深く動向を見守っていた。

 「私、弓で目とか狙おうか?ギリギリ届くと思うけど。」

 「いや、今はまだ様子見で良いと思う。必要になったらお願いするよ。」

 緊張感はありつつも、見ているだけというのも辛い状況であった。



 後方チームの攻撃による苦痛によるものか魔獣の口が大きく開いた。

 好機と見たホックの指示で前方チームが一斉に口内に攻撃を仕掛け、ホックも今まで温存していたのか呪文の詠唱を開始した。


「炎よ、火球となりて、敵を焼き尽くせ!」

ホックの手元に大きな火球が生まれ、魔獣の口内へと投げこまれた。


「すごい!」

「さすが先輩!」

まだ魔術に慣れ親しんでいなかった第一学年のメンバーはホックの魔術に驚きを隠せなかった。

だが、ホックが魔術を放った際に変化が見られた。

口に打ち込んだ魔術が魔獣の体内に入ると、急激に背中が光り始めた。

そのまま光はより強くなり背中が盛り上がった。

 

「まずい、伏せて!」

ホックが叫ぶも魔術に興奮していたメンバー達は反応が遅れ、先輩達と同様に衝撃波を受けて気を失ってしまった。

なんとかホックは意識を保てていたものの、吹き飛ばされて動けなくなってしまった。


「フォルティス達もこれでやられたのか。なんとかみんなを逃がさないと…」

 歯を食いしばりなんとか意識を保たせ、這いずり回ってでも皆を逃がそうと足掻き始めた。



後方チームでは順調に攻撃を続けているときに魔獣の背中が光り始めたことに気付いた。

「おい、なんだか背中が光っているぞ!攻撃かもしれないから身を守れ!」

「よし、みんな一箇所に集まれ。盾を持っている奴は前に来てくれ!」

全員が防御態勢を取った瞬間に衝撃波が飛んできた。


「くっ、これはきついな…」

体の中へと芯から響く衝撃に耐久面の弱いメンバーは倒れていった。

「半壊だな。これは一旦俺達も撤退するしかないか。」

「よし、倒れているやつらを担いで退避するぞ!」


後方チームはなんとか全滅を免れたものの、撤退を余儀なくされた。



魔獣が衝撃波を放つのを見ていたアルクス達は前方チームが倒れるのを見て、そのまま踏みつぶされてはいけないとすぐに行動に移った。

「大変だ、とりあえずみんなを岩陰に避難しよう!」

「わかった!」


アルクス達が前方チームを避難しようとしたところ、ちょうど撤退中の後方チームと入れ違った。

「おぉ、我らが英雄。後方チームは先程の攻撃で半壊しました… どうしようもないので一旦撤退して援軍を要請してきます。」

「そうしたら前方チームの避難もお願いできるかな?」

「もちろんです!」


そうして残った後方チームと協力して、前方チームの避難を開始した。


魔獣の動きは鈍かったため、なんとかなるだろうと思っていたところ、アルクス達が視界に入った瞬間、それまであまり動きを見せなかった魔獣が急に暴れ出した。


「危ない!」

魔獣の前脚がアルクスに迫ったところでクレディスが間に割って入った。

アルクスはクレディスと共に飛ばされるも怪我はなかったが、クレディスの盾は大きく拉げてしまい最早盾の形を成していなかった。


「クレディス、大丈夫か!?」

盾を持っていたクレディスも外傷はないものの、衝撃を受けて立て無い様子であった。


「大丈夫だけど、ちょっと動けないや…」

「すまない、僕が油断したばっかりに… ハベオー達、クレディスも一緒に避難をお願いできるかな?」

アルクス達のチームで一番耐久面でタフなクレディスも一撃で戦線離脱してしまうことになった。


初めは80人以上いた魔獣討伐チームもついにアルクス、リディウス、ヘレナ、クラウディアの4名を残すのみとなってしまった。

しかし、魔獣は暴れ容易に近づくこともできそうにない。


「みんなもさっき見ていたと思うけど、口から魔術を取り込んだ後、背中が光ってその後みんなが倒れたよね。とりあえず口への攻撃は避けて、関節への攻撃に集中しよう。」

3人が頷き、リディウスとヘレナは動きの鈍い後脚を攻撃し、アルクスとクラウディアは魔獣の意識を逸らしつつ隙があり次第首を狙うことになった。


「アルクス、何か策はあるのかしら?」

「とりあえずは頭が下がるまでは逃げ続けるしかないかな。」

「なかなか大変そうね…」


リディウスとヘレナが後脚を攻撃している間、アルクスとクラウディアは前脚の攻撃を避け続けていた。

魔獣はアルクスばかりを狙うため、クラウディアは体力を温存していた。


魔獣の顔が苦痛に歪み、頭が下がった瞬間に今が好機とばかりにクラウディアが斬りかかる。

その時、魔獣の額に今まではなかった宝石のようなものが現れ、輝き始めた。

連動するように口内に光が溜まり始め、クラウディアへと顔を向けた。

「しまった!誘われた!?」

「危ない!」


魔獣の口から光が放たれた瞬間、アルクスがクラウディアへとぶつかり後方へと吹き飛ばすも、アルクスは光を全身に浴びてしまう。


「アルクス!」

吹き飛ばされた後、受け身を取ってすぐに起き上がったクラウディアは光を浴びたアルクスへと駆け寄る。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。あれ、なんともない?」

アルクスは光を浴びたものの、特に負傷した様子もなかった。


「本当に大丈夫なの?」

「うん、特に怪我はないし。少しだけ違和感があるけど大丈夫だよ。」

「なら良いのだけど…」

「魔獣の動きが落ち着いたし、少し試したいことがあるから下がっていてもらえるかな。」

「えぇ、でも無茶はしないでよね。」


アルクスは今までネモに習ってきた全てを総動員して、闘気を練ることに集中した。

体から青い光が溢れ出し、周囲に対しても目に見えない圧力を放出し始めた。


「何、この圧力。目を開けていられない…

 この光、アルクスが放っているの?」

クラウディアは今までに感じたことのない、闘気のプレッシャーを感じて意識を保つだけで精一杯だった。


「いつも以上に力を感じる…、これならいける!」

 アルクスはいつもよりもスムーズに闘気を練ることができ、自身の肉体にいつも以上の力が宿っていると確信した。


「これでどうだ!」

 アルクスは魔獣の頭部へと跳躍し、大上段に構えた刃を額の宝石へと叩きつけた。

 刃と宝石がぶつかり、火花を散らす。


 その時、わずかに宝石に罅が入り、徐々に大きな亀裂へと変わった。

 宝石が砕け散ると共に、そこから急激に光が溢れ周囲に閃光が放たれた。

 

 近距離で閃光に飲み込まれた、アルクスとクラウディアはもちろん、後方で攻撃を行っていたリディウスとヘレナも光に飲まれ気を失った。

 光を放った直後、魔獣もその眼から光を失い、眠るように動かなくなった。

 そしてその場に意識を保っているものは誰もいなくなった。

 


 しばらくして、フォルティス達が援軍を連れて戻ってきて、倒れているアルクス達と動かなくなった魔獣を発見した。

 「アルクス君、大丈夫か!」

 「う…、フォルティス先輩?」

 「魔獣は君達が倒したのか?」

 「わからないです…額の宝石を壊したところまでは覚えているのですが…」

 「そうか、とりあえず君のチームは皆無事だ。大型魔獣の脅威は去った様子だし、教官の元へ戻ろう。」

 「それは良かった…」

 そう言うとアルクスは再び気を失ってしまった。

 フォルティス達はアルクス達を連れて、可能な者達は魔獣の亡骸を運びながら城壁へと戻った。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 しばらくして、兵舎の救護室でアルクスは意識を取り戻した。

 「ここは…」

 「アルクス君、良かった!」

 アルクスが気づいた時にはヘレナが涙を流しながら抱きついており、身動きができなくなってしまった。


 「俺達全員ここに運ばれて、他のみんなもさっき気が付いたんだよ。」

 「僕だけ、少し先に来てたんだけど全然動けなかったしね。」

  アルクス達が全員気を失った後、援軍を連れて戻ってきたフォルティス達によってここまで連れてこられ、大型魔獣も沈黙し、大きな危機は去ったということを話した。

  

  状況の共有が終わり、皆が部屋を出て行った後、クラウディアが小さな声でアルクスに話しかけた。

 「それにしても貴方が私を庇って、光線を浴びた時は死んだかと思ったわよ。」

 「僕もあの時は死んだかと思ったんだけどね。逆に少し調子が良いくらいだったよ。」

 「そうね、あの時の貴方のあの力凄かったものね…

  あの光線はいったい何だったのかしら?」

 「死の呪い...ではないと思う。」

 「怖いこと言わないでよ...」

 「とりあえず大型魔獣も倒れたみたいだし、まずは休もうか。」

 「そうね、今度あの力についても教えてね?」

 「あぁ、もちろん。僕が使いこなせるようになったらね。」

 「楽しみに待ってるわ。」

  そうしてクラウディアも救護室を出て行った。


  アルクスは平気そうな顔をしていたものの、自分の中から何かが失われたことに気付いていた。

  何がなくなったかはわからないが、それによってあの時いつもよりも闘気を練れたという十巻もあった。

  達成感と共に言いようの無い違和感と不安を感じつつも、疲労からか再度眠りに落ちた。

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