第14話 大型
アルクス達が魔獣を倒した後、街中にて
「なかなかしんどいが、この調子なら魔獣の対応はなんとかなりそうだな。」
「中に紛れ込んだ魔獣を学生達が倒したらしいぜ。」
「ほぉ、それは将来有望だな!」
若手の騎士団員達が魔獣を倒しつつ、挙がって来た情報を共有していた。
「しかし霧が濃くなってきたな、この辺りで霧が出ることなんてあまりなかった気がするが…」
「何かの前触れだったりするのだろうか。」
その時、遠くからズシーンという地響きが伝わってきた。
「な、なんだ!?」
「森の方からだ!」
東側にぼんやりと暗い影が見えてきた。
「あ、あれは...」
「大変だ、大型の魔獣だ!まずいぞ、隊長を呼べ!」
学生達がやっとのことで一体のギリギリ中型と呼べるような大きさの魔獣を討伐していたころ、城壁の半分はある大型の魔獣が近づいてきていた。
「歩行速度は遅いがこのまま城壁に到達したら砕かれてもおかしくない大きさだな…、住民の避難を急がせろ!」
騎士団の主力は調査で出払っており、中堅は民衆の誘導や今後の対策を考え指示を出しつつ、若手を中心とした部隊が城壁で魔獣達の対応をしていた。
このまま大型魔獣が城壁まで到達したら戦力的に厳しいものがあると団員達が焦り始めたところ、装備を調えた隊長のウィルトゥースが他の団員と共にやってきた。
「すいません、お待たせしました。」
そこにちょうど索敵部隊が戻ってきた。
「お疲れさまです。現在城壁の半分程度の大きさの大型魔獣が接近中です。
目測ですとおよそ3時間後に城壁に到着予定です。」
息も絶え絶えなんとか報告をこなしていた。
「そうか、それは困ったね…
よし、大型の魔獣は僕とトリクシーが対処するからみんなは引き続き小型から中型の魔獣の対応をお願いできるかな?」
「「ハッ!」」
先程までの団員達の焦りはウィルトゥースが来たことで、吹き飛んでいた。
むしろその目には不屈の光が宿っていた。
「よし、隊長から大型魔獣までの道を開くために連携魔術を行くぞ!」
「おぅ!」
小隊長である、1人の騎士の号令と共に4人の団員が詠唱を始めた。
詠唱が終わり、4人の手が光始めた。
「今だ!」
小隊長が叫ぶと4人は順に魔術を発動した。
「猛き炎よ、爆ぜろ!」
「狂える風よ、舞い踊れ!」
「大地よ、全てを砕け!」
「水流よ、全てを洗い流せ!」
燃え上がる炎は竜巻とぶつかり、さらに燃え上がった。
燃え盛る竜巻は隆起した大地を溶かし、溶岩となる。
溶岩と水流が合わさり小規模ながら水蒸気爆発が起き、城壁前方の魔獣達は吹き飛ばされていった。
「良し!これでしばらくは持つだろう。隊長、あとは頼みましたよ!」
「ありがとう!後は僕とトリクシーに任せて。
皆は引き続き城壁の防衛を任せたよ!」
大型魔獣までの道が開かれ、ウィルトゥースと副隊長のベアトリクスは馬に乗り、一直線に大型魔獣まで駆けていった。
「よし、残った者は魔獣を城壁に近寄らせないためにも交代で魔術を使え!連携魔術が必要になったらこちらから指示するからな!」
小隊長の指示で魔獣への攻撃が再開した。
ウィルトゥースとベアトリクスが残っていた魔獣達を蹴散らし、大型魔獣の目の前に到着した。
「これが大型の魔獣か、思ったよりも大きいな...」
ウィルトゥースの呟きと共に、ベアトリクスからもゴクりと息を飲む音が聞こえた。
魔獣も2人に気づいたらしく雄叫びを上げた。
「バォーーー!!!」
空気が震え、周囲に残っていた魔獣達も逃げ出してしまう。
「トリクシー、防御魔術はいけるかい?」
「はい、守りだけに専念すればなんとか...」
「では魔獣の攻撃タイミングで僕は後ろに下がるから頼んだよ。」
「ハイッ...!」
魔獣の口元に光が集まるのが見えた。
「下がってください!
我が盾よ、悪しき者を阻む結界と為せ!」
ベアトリクスが大盾を構え、詠唱を行う。
その直後に魔獣の口から熱線が放たれ、一面が黒く焼け焦げた。
ベアトリクスとその背後を除いて。
「隊長、これなら、あと数回は持ちます!」
「わかった!できるだけ速攻で行くよ!
我が剣に集え、魔を切り裂く光よ!」
ウィルトゥースの詠唱と共にその手に持つ剣が光を帯びる。
「まずは小手調べだ!これでどうだ!」
ウィルトゥースが前方に向かって剣を振ると、弧を描く光の剣閃が魔獣の足元へと飛んでいった。
「ザシュッ!」
パックリと前足に切れ目が入り、大量の血が吹き出し魔獣の顔が苦痛に歪む。
ウィルは返り血を浴びながらも、その瞬間を見逃さなかった。
魔獣の体を駆け上がり飛び上がった。
「これでも食らえ!我が剣に宿りし…「危ない!」
ウィルトゥースが詠唱を始めた瞬間にベアトリクスが体当たりをしてきた。
「くうっ…」
地面に落ちたウィルトゥースが状況を把握すると、魔獣が二本の角から電撃を放出し、それをベアトリクスが防いだ様子だった。
「大丈夫か!?」
「えぇ、なんとか…まだ行けます!」
ベアトリクスは強がるものの、ダメージが大きかった様子で、次の一撃が限界で、耐えるのは厳しそうだった。
「仕方ない。闇を照らす光よ!」
ウィルトゥースの詠唱と共に辺りは閃光に包まれた。
魔獣は目が眩みウィルトゥース達を見失った。
「さて、まだ行けるって言っていたけど、ちょっと厳しそうだしここで休んでいてね。
動いちゃだめだよ?」
「わかりました…」
ウィルトゥースは明らかに動きが鈍くなっていたベアトリクスを大岩の陰に休ませた。
ベアトリクスは悔しそうな顔をするものの、ウィルトゥースの言うことが正しいことを理解していたため、大人しく従った。
「トリクシーの助けがなければ、僕も今頃どうなっていたことか。
まだまだお互い修行が足らないね。
でも今はそんなことを言っている場合じゃないか。」
ウィルトゥースは単身で魔獣の前へと立ち上がると懐から魔石を取り出して剣の柄に嵌めた。
そうして両手で剣を上段に構えると詠唱を開始した。
「我が腕に宿りしは光の王、魔を打ち砕く力よ顕現せよ!」
詠唱と共にウィルトゥースの全身から目映い光が放たれ、巨大な光輝く2つの手が顕れた。
その手には光で出来た剣が握られ、ウィルトゥースと同じ構えをとっていた。
「その力を持ちて、闇を切り裂け!」
ウィルトゥースが振りかぶった剣を振り下ろすと、光の手は同じ様に光の剣を振り下ろした。
光の剣から放たれた剣閃は魔獣を左右2つへと切り裂いた。
魔獣は目が眩み何が起きたかわからないまま、2つへと別れ崩れ落ちた。
「やったか...」
ウィルトゥースはそう言って力を使い果たし、その場に倒れた。
周囲にいた魔獣の数もかなり減ってはいたものの、まだ数多く生き残っていた。
大型魔獣が崩れた後、倒れたウィルトゥースを見て好機と捉え襲いかかろうとした魔獣もいたが、ウィルトゥースが倒れたことに気付いたベアトリクスがかろうじて動き、なんとかその身を守った。
「隊長は私が守る…!」
しかし、ベアトリクスも消耗しているため、防戦一方となり、このままではいずれ削り切られると内心の焦りを隠せなかった。
「くっ、このままだと…」
その時、遠くから一直線に飛んできた矢に貫かれ、魔獣は気付かぬうちに絶命した。
「誰…!」
「副隊長大丈夫ですかー!」
「すげー、あの大型魔獣が真っ二つだ!」
「俺達が来たからもう大丈夫ですよ!」
ウィルトゥースの部隊の騎士団員達が駆けつけたところだった。
少し前城壁にて
「ウィル隊長が大型魔獣の討伐を完了した様子です。
しかしながら魔力枯渇にて、倒れた様子です。
至急援護に向かいます!」
「頼んだぞ。射撃部隊はここから隊長に近づくものを打ち落とす様に。」
「「ハッ!」」
「残るは魔獣達の掃討のみだ。抜かりなく行うように!」
「「ハッ!」」
大型魔獣の討伐の報が届き、騎士団員達の歓声が上がるも小隊長の指示で各部隊、それぞれ冷静さを取り戻し、持ち場について奮闘した。
こうして大型魔獣を倒したウィルトゥースとベアトリクスは騎士団員達に連れられて、城壁へと無事戻ることができた。
2人の帰還後、順調に魔獣の討伐は進み魔獣達による脅威は去った。
急遽現れた魔獣の襲撃は王国騎士団の防衛部隊及び駆けつけたウィルトゥース率いる部隊により、ことなきを得た。
城壁内に入り込んだ魔獣は多くなかったため、被害は小規模で抑えられた。
その後、ウィルトゥースは大型魔獣を討伐したことにより、討魔三等勲章を授与された。
共に闘ったベアトリクスも討魔五等勲章を授与され、彼女の部屋にはウィルトゥースと共に戦った証として大事に飾られた。
騎士団で上位の階級に出世するためには実績が必要であり、帰宅したウィルトゥースは珍しく嬉しそうにアルクスに勲章を見せていた。
王都は魔獣の襲撃による被害を最小限に抑えることができていたが、周辺の都市や村でも大型魔獣はいないものの同様に魔獣の襲撃があったという報告が挙がっていた。
武力を持たない村などは蹂躙を受け、村人達の多くはなんとか避難したものの、魔獣の過ぎ去ったあとは壊滅的なあり様であった。
今後の魔獣の襲撃に備え、騎士団内での再編成があり、ウィルトゥースは東方部隊の中隊長として出世し、任される部隊の規模が大きくなった。
また、魔獣襲撃の余波により王立学園内でも教育内容をより実戦に重きを置くべきだという方針へと変わりつつあった。
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