第7話 入学
王立学園入学の日
学園長や教師陣からの長い話の最後に卒業生からの訓示ということでウィルトゥースが入学生の前に立っていた。
「みんな入学おめでとう。これから始まる日々に期待半分、不安半分といったところだろうか。」
それまで眠たそうに聞いていた入学生達の目が急に輝きだした。
「王立学園の3年間は人生の中で非常に貴重な経験をすることになると思う。かけがえのない友人や自らを鍛えるライバルができるに違いない。ここでどれだけ頑張ったかで人生の可能性が拓けるかは計り知れない。」
アルクスはやはり兄様は良いことを言うなぁと感心していた。
「僕もそうだったけど学園生活は自分の限界との挑戦でもあり、必ずしも楽な道ではないだろう。しかし辛い道こと楽しんでもらいたい。君達の中から次代の英雄となる者がでてくるかもしれない。自分は王国騎士団に所属しているが、騎士団では王国に平和をもたらすための強者を常に求めている。願わくば共に戦う仲間が君達から生まれることを願っているよ!」
ウィルトゥースが締めくくると拍手や歓声が巻き起こった。
新入生だけでなく先輩や教官らしき人達も熱狂している様に見える。
学園の卒業生でかつ、王国騎士団若手の星というだけあって、皆の憧れの様子だ。
ウィルトゥースは若くしてカリスマ性を発揮し出していた。
そしてアルクスは自分の兄様は格好良い、そしていつか兄を越えるという思いを胸に秘めていた。
「やっぱりウィルトゥース様は格好良いよな、オレもいつかあんな騎士になるんだ!」
ツンツン頭の少年が熱く語っていた。
「素敵よね、ウィルトゥース様みたいな騎士様を支えられたらなあ。」
ストレートロングの少女が少年に同意していた。
アルクスは自分と同じ様な考えを持つ同級生に好感を抱き、思わず、「君達もそう思うかい!」と語気を強く迫ってしまったが、よくよくみてみるとリディとヘレナだった。
「なんだ、アルクスじゃないか。いつもと違って興奮してどうしたんだ?」
「実は、兄様のことを誉められるとちょっと興奮しちゃって…」
アルクスは照れながらも本当のことを伝えると二人は苦笑していた。
「そうか、お前の兄貴ってウィルトゥース様だったもんな。ウィルトゥース様が兄貴だなんて本当に羨ましいよ。うちの兄貴なんて...」
「もう、ラートルさんの悪口を言わないの!すごく優しいじゃない。うちの姉様ったらとっても怖いのよ~」
「アウラ姉さんは滅茶苦茶美人じゃないか!オレもあんな素敵な姉さんがいたらなー」
「もう、リディったら!」
2人がお互いの兄姉話に話が咲いていたところ、急に周りがざわめきだした。
「兄姉自慢も良いけどちゃんと話を聞かないとね!」
2人の肩に手が置かれ、やっぱり窘められたとアルクスが思ったら。
「あ、兄様!お疲れさまでした!」
どうやら入学式は終わっていたらしく、壇上から降りたウィルトゥースが賑やかな2人と喋っていたアルクスを見つけたらしかった。
ウィルトゥースが来たことで3人の周りに輪が出来て注目を集めていることにも気づいた。
「さて、今日はもうお終いみたいだから、昼食でも食べて帰ろうか?もちろんお友達もね。」
ウィルトゥースが2人を誘った。
「マジで!」
「うそっ!?」
リディとヘレナの喜ぶ様な悲鳴を聞きつつ、周囲からは羨望や嫉妬の混じった視線が向けられていた。
「じゃあ行こうか。ここの食堂は割と美味しいんだよ。」
ウィルトゥースは修了生ならではのアドバイスをしつつ食堂に先導した。
注文したものを待つ間、アルクスはウィルトゥースに二人を紹介をすることにした。
「もちろん知っていると思うけど、こちらのすばらしき騎士はみなさんご存じのウィルトゥース兄様です。この学校の修了生で王国騎士団の期待の新人です!」
「そんな大げさな紹介はしないでいいよ。」
アルクスの大袈裟な紹介にウィルトゥースが苦笑していた。
「いえいえ、兄様の偉大さをみんなに伝えないと!」
アルクスはウィルトゥースの素晴らしさの布教に余念がなかった。特に兄と同じ騎士団に入る可能性がある人間にはしっかり教育しておこうという魂胆があった。
「じゃあ次はリディお願い。」
「オレ、じゃなくては私はリディウスと申します。イグニス将軍の次男です。いずれはウィルトゥースさんの様に王国騎士団に入り、団長を目指しています!」
リディウスのいつになく真面目で熱意のこもった声で自己紹介をした。
「リディが私とか言うと違和感があるね。」
「そうね、私も初めて聞いたわ。」
「茶化さないでくれよ。これでも家で最低限の礼儀とかたたき込まれたんだからな!」
普段と違うリディウスを二人が茶化す。
「へぇ、イグニスさんの息子さんか。僕も入団当初はお世話になったよ。イグニスさんのしごきは騎士団内では有名で新人は皆心も体も鍛え直されるんだよね。」
「そ、そんな...うちの親父が失礼しました。」
威勢の良かったリディウスが急に申し訳なさそうになる。
「まぁ、それがあるからこそ皆騎士団でやっていけるんだけどね。」
ウィルトゥースも見えないところで頑張っているらしいが、兄が苦労しているところなんて想像できないなとアルクスは思っていた。
「次は私ですね。私はヘレナと申します。グラネイト商会会長ディウェスの次女です。私も王国騎士団の支援部隊に入ってウィル様をお支えできたらなって思ってます。」
ヘレナがいつになく淑やかな喋り方をしていた。
今更猫を被っても仕方ないのにとアルクスとリディは二人で同じことを思っていた。
「グラネイト商会の武器や防具にはいつも助けられてるよ。そうそう、君のお姉さんのアウラさんとは学園の同期だったからたまに会うよ。魔術協会の新人だし、既に上級魔術も使えるということで、もうすぐ2つ目のラピスを授かれるんじゃないかともっぱらの噂だよ。お互い期待の新人なんて持て囃され流てるけど、競い合う相手としてはちょうど良いんだよね。」
「え、そうだったんですか!?姉様ったら何も教えてくれなかったな...」
アルクスは広い王都の中で偶然会した者達の奇遇な縁に運命を感じずにはいれないものだった。
「みんな目標があって良いね。リディウス君は次男ってことだけどお兄さんは何をしているのかな?」
「うちの兄貴は研究所で何か怪しげな研究してます。研究所では天才とか言われてるみたいだけど、将軍の息子なのにひょろひょろっとしてて、昔から周りにはバカにされてる。兄貴はそんなこと気にせず楽しそうにしてるし、親父も兄貴のことは諦めているのか自由にさせてるみたいなんだ。だからオレは早く強くなって親父の後継者としてみんなを認めさせてやるんだ!」
「あれ、いつもの言葉使いに戻ってるわね。」
「まぁ、良いんじゃないかな。」
2人が茶化してもリディの耳には入っていない様子だった。
リディウスの兄が研究者だということも、ヘレナの姉が魔術協会にいることもアルクスは知らなかった。
兄姉のことで良くも悪くも悩んでいるのは自分だけではなかったということに気付き、自分だけが特別に悩んでいると考えていた過去の自分が急に恥ずかしくなっていた。
「ラートルさんは優しくて良い方じゃない。私はまだ魔術も使えないし、姉様がすごいからって私にも変なプレッシャーかけてくる人が多いのよ。あと姉様ったら魔術でいたずらしてくるのやめてほしいのよね、魔術が使えるようになったら絶対仕返ししてやるんだから!」
「なんだ、偉大な兄様がいるからって周囲のプレッシャーを感じてるのは僕だけかと思っていたけど、みんな同じなんだね。ちょっと安心したよ。」
アルクスは今まで頑なに外に出そうとしなかった自分の心情を自然に吐露することが出来た。
「ははは、僕なんてまだまだ未熟者だよ。みんな今思い描いている目標が叶えられる様にまずは授業を頑張るんだよ。では僕はこれから騎士団に戻るからまたね。」
ウィルトゥースはアルクスの学友の情報を一通り仕入れると騎士団へと戻っていった。
アルクスは自分の兄が大事な弟に変な友人がつかないようにと目を光らせているということに気付くことはなかった。
「じゃ、オレらも帰ろうか。今日はウィル様と一緒に食事ができるなんて良い一日だったぜ。これからもよろしくな!」
「ええ、よろしくね。目標が身近にいるとやる気が湧いてくるわね!」
「プレッシャーも半端ないけどね。じゃあまた明日学校で」
3人は満足感を胸に帰路についた。
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