◇28.裏社会の皆さんも頼りになるんですけど。
竜化したリリアの背に乗って一時間弱。
俺たちはモンスターの大群に襲われているリッケスの都市部中心へと降り立った。
「お姉ちゃん! カイトさんたちを連れてきたよ!」
「え、ちょ……イアン!? なんで竜に乗ってるの!? カイトさんも、ど、どうして?」
「驚かせて悪かったな、エイラ。リリアを攻撃しないでくれて助かったよ。おかげですんなりここに降りることができた」
「う、うん。それは竜の背中にカイトさんたちが見えたから……ってこれ、リリアちゃんなの!?」
『ご無事で何よりです、エイラさん』
「しゃべった!?」
「あー……悪いがそこらへんの詳しい説明は後だ。それより先に、そっちの状況を教えてくれないか」
エイラに案内してもらい、俺たちは防衛の拠点となっているロザネスファミリアの事務所へと足を運ぶ。
彼女の報告によると、ミランダとその組織が中心となって、魔獣の攻勢を何とか食い止めているとのことだった。
事務所前に到着すると、部下たちにてきぱきと指示を出しているミランダ女史がいた。
非戦闘員を退避させ、配下の者が隊列を組んで、防衛線を張っている。
彼女の表情は険のあるものだったが、依然優雅さは失われていない。
さすが街を影で牛耳る女頭首だと俺は感心した。
「──ミランダさん!」
「薬師さん、来てくれて良かったわ。ご覧の通り、ギリギリの状況なの。手伝ってもらえるかしら?」
「もちろんです。身代わりの影布、店にある分すべて持って来ました。戦っている人たちに配ってあげて下さい。負傷者の方には傷薬を。それと──」
「婿殿、上だっ!」
途中でメルフィナが会話を遮って叫ぶ。
見上げれば、沼からのモンスターであるドープワイバーンが滑空して襲い掛かってきた。
人間の倍ほどある翼を持った小型の邪竜。
毒を持った爪で引き裂かれようという刹那、ミランダはそちらを見ることもなく、凜然と号令を発する。
「第一分隊!
──ダダダダダダァンッ!!
連続して重なり合う銃声。
ワイバーンは一瞬にして穴だらけになり、そのまま地表へと落下する。
「……すげえ」
二階のバルコニーから、俺たちの背後から。ミランダ配下の男たちがマスケット銃で狙いを定め、邪竜を撃ち落としていた。
彼女の声に即応する一糸乱れぬ挙動。彼らはワイバーンの死を確認すると、再び警戒態勢に入る。
「この者たちも……かなりの手練れなのだな」
メルフィナが小声でつぶやいた。
後で聞いた話だが、隊員たちが使う弾丸は、ミランダの聖属性の魔力でコーティングした特別製らしい。
沼地から生まれる邪気にあふれた魔獣には、それは特効の武器と言ってよかった。
「ここの防衛は任せて。薬師さんたちには何があっても魔獣を近づけさせないから。それで、今何か言いかけてたみたいだけど……他にもやるべきことが?」
「ええ、あります。前線で戦っている人たち……特に近接系の戦闘方法を採る人を、順番に俺のところへ呼んで下さい。影布の上位魔法をその人たちにかけて強化します。それで戦力は二倍になるはずです」
「そんな方法が……?」
「俺もやるのは初めてですが、効果は保証します。どうか、頼みます」
「……わかったわ。分隊長! こっちへ!」
ミランダは側近の大男を呼ぶと、彼に俺の指示に従うよう命令する。
俺は事務所の中に入り、意識を集中させて闇属性の魔力を展開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます