オーバーステア
ニンジャ――シオン・イオリの怒涛の攻撃は、更に勢いを増す。
華奢な身体をここまで巧みに操れるのは、やはりアビリティのなせる業なんだろうね。
とはいえ、僕だって今まで何もしてこなかったわけじゃない。
親や親戚の厳しい訓練を耐えてきたんだよ。
東方のニンジャより西方の魔法剣士が優れているって証明したい。
「急に動きが良くなったわね」
「風の力が味方してくれてるから」
「……」
反り返りが浅い忍刀は僕の急所ばかりを狙ってくる。
首を目掛けた突き。
躱せばそこから斜めに下ろす。
その全てが素早く、反応が一瞬でも遅れたならあの世行き。
だけど、初めてみるニンジャの武術も、それなりにパターンがありそうだ。
行動の起点になる動きの前に、一瞬停止している。
想像するに、これは急所を一気に貫く――または切断するための――いわゆる”タメ”の動作だ。
彼女自身の腕力の少なさからそうせざるを得ないのかも。
隙があるならついてやらなきゃ失礼だよね。
というわけで……だ。
シオン・イオリが一度手を引っ込めたタイミングで、僕は大きく前方に踏み込み、彼女の利き手を切り裂いた。
「ちっ!!」
派手に飛び散る血飛沫はなかなかに鮮やか。
だけど残念。短刀からの感触では傷はあんまり深くない。
血の滴る短刀を振り払い、シオン・イオリを見据える。
自分で言うのもなんだけど、今の表情は結構悪人染みてるかも。
「僕が13歳の子供だからって手を抜かなくてもいいよ」
「温和そうな顔つきをしているくせに、人体を傷つけることに迷いがないものだ」
「親の教育の賜物かな」
「ふぅん」
バック転で後方に下がった彼女の目は殺意一色。
本気の相手との戦闘は良い経験になるなぁ。
――生き残れたらの話だけど。
シオン・イオリは手品か何かのように一瞬で両手に手裏剣を出現させる。
数は1、2……5、6。結構な数だ。
「接近戦はそちらに分がありそうね。だったら――、
これは、手裏剣を投げるためのスキルなんだろう。
彼女の両手から放たれた得物は6つ__と思いきや、倍以上!?
全部をナイフで切り落とすのは流石に無理か。
素早くその場を避けたけれど、ニンジャが放ち続けている手裏剣はうまいことカーブして僕に向かってくる。
追尾系の技なのかもね。
仕方がなしにシールドを張リ、防ぎきれなかったやつは短刀で弾く
それでも対応は十分ではなく、手裏剣のうち一つは僕の肩に突き刺さり、更に追加で太腿を切り裂かれる。
数の暴力というやつだね。
挑発しないでおけば良かったなー。
「健康的で美しい血の色だこと。ふふ。そのまま失血死させてあげるわ」
「まだ死にたくないかな! ステラちゃんを愛で足りないから!!」
「人間の愛? くだらない」
くだらないとは失礼な。
生きる意味なんか人それぞれだっての!
若干頭に血が上った僕は前方へ右手を伸ばし、エーテルを集中させる。
周囲の空気を圧縮させていけば、そのエリアに入った手裏剣は明らかに遅くなった。
そして、そのまま床に落ちていく。
でも、それを見ても優勢だとは思えない。
これをやり続けるのはかなりエーテル効率が悪いんだ……。
限りあるエーテルを効果的に使用するために、マクスウェル家では200年ほどかけて物理と魔法を融合させた戦闘スタイルを築き上げてきた。
なもんで、マクスウェルの訓練を積んだ者の多くは魔法剣士になり、暗殺系の仕事を多くこなせばアサシンに分岐するみたいだね。
それはどうでもいいんだけど、今はこの大量の手裏剣をどうにかしないと!
「ジェレミーよ」
僕の焦りが伝わったのか、アジ殿が話しかけてきた。
少し前にステラちゃんを収納した彼は胃もたれでもしているかのように、腹を押さえてうずくまっていたけど、もう平気なのかな?
「アジ殿。どうしたの?」
「球体から得たアビリティを使用してみてはどうか?」
「……効果不明だけど」
「いや。儂が思うに、アレは移動する物体の進行方向を歪める効果がある。まぁ、アビリティ名称から推測しただけであるがな」
「なるほど」
アジ殿が言うように“ステア“とは操縦とか進めるとかいう意味だ。
単語と何の関係もない名称になるとも考え辛いし、こんな所にご大層に保管されているくらいだからクソアビリティでもなさそう。
一度使用してみようか。
圧縮していた空気を一気に解き放ち、魔法状態を解除する。
そして、続けさまにアビリティの対象を手裏剣とした。
「【オーバーステア】!!」
僕が放ったかまいたちの魔法を避けたシオン・イオリは再び投擲アビリティを使用していて、やはり大量の手裏剣が向かってきていた。
――それが、面白いくらいによく曲がる。
明らかに【オーバーステア】の影響を受けているようだ。
体感的にはMP消費量も少ない。
魔法系の攻撃にも通用したら、かなり実用的なんじゃないかな!!
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