壊れたダンジョン核
僕のベッドで熟睡しているステラがやっぱり気になる。
人恋しくてここに来たのかもしれないのに、1人残すのは可哀そうだよな。
でも、これは彼女の安全にも関わることだ。
「すぐに戻るよ」
ステラの隣に猫型のヌイグルミを置き、僕は庭へと向かう。
庭の中央付近では、先に出ていた小さなドラゴン――アジ殿が魔法を行使していた。
張り巡らされた無数の術式の中から目的のものだけを発光させているみたい。
こうでもしないと手間取るし、効率のいいやり方だよね。
というのも、僕の家には
ウチの敷地に侵入者が絶えないからそうしてるらしいけど、数百もの術式は流石に多いかな。
大昔から人の恨みを買う
セキュリティーが厳重だからこそ、ステラを預けるのに適していると判断されたわけだし、僕にとっては幸運だったかもね。
「む……。南側の術式が機能不全に
「愚痴ってないでさっさと終わらせよう。その為に僕も来たんだからさ」
「うむ」
「何をすればいい?」
「マクスウェル家の宝が埋まっている辺りから、南に6つ目の魔石を活性化してくれ」
「了解だよ」
アジ殿が言う僕の家の宝とは、ダンジョン核のこと。
三代くらい前だったかな? ご先祖様が王都近郊のダンジョンを攻略した時に持ち帰った珍しい物なんだ。
庭の術式どころか、屋内の魔道具類も全てこのダンジョン核をエネルギー源として稼働させている。
頼り過ぎかなって気もしなくもないけど……、まぁ、今考えても仕方が無いな。
それよりも、アジ殿の指示を考察してみよう。
ダンジョン核から6番目の魔石の活性化をしたいってことは――ダンジョン核を太陽に見立て、そこから6番目の惑星――つまりは土星をターゲットにしたいってことなんだろう。
セキュリティ関係の術式はまだ勉強中だから、当たっているかは微妙だけど。
闇夜に浮かび上がる術式を確認し、指定された魔石まで歩いて行く。
活性化自体は簡単な作業だ。さっさと自分のエーテルを込めてしまおう。
僕は魔石に向かって右手を伸ばす――
――しかし次の瞬間、何故か術式を示していた光が消えた。
「ん? 何で魔法の行使を止めたの?」
「儂が何かしたわけではない。ダンジョン核からのエーテル供給が途絶えたのだ」
「それって、この術式に限った話なのかな?」
「……全体だ。その証拠に儂の魔法が及ばぬ。ダンジョン核の現物を確かめてみた方が良さそうだな」
アジ殿の声から焦りの色がにじみ出てる。
すごく嫌な予感がするなー。
ダンジョン核からエーテルが供給されないと、この庭の術式も家の魔道具も全て機能しなくなるんだよ。
下手すると僕の部屋の暖房も止まる。ステラちゃんは寒いのが苦手なのに、大丈夫かな……。
アジ殿は地中に埋まったダンジョン核を掘り起こした。
傍に寄って来た人工精霊の光で、状態が
ダンジョン核は残念ながらかなりヤバイみたい……。
真ん中辺りに深い裂け目が入っていて、僕等が見ている間にミシミシと亀裂が増えていった。
それを阻止する魔法に悩んでいる間に――っていうか、5秒程度のめちゃめちゃ短い間にダンジョン核は砕けてしまった。
「なんという事だ……。もう少し早く帰宅すべきであったな」
「これを砕いたのって、君がさっき言っていた”カイヴァ―ン”だったりしないよね?」
「なんとも言えないな。カイヴァーンがやったのなら、すぐに乗り込んで来そうなものだが、周辺はいつも通りだ」
「そっか。でも、用心しないと」
「うむ……。だがな……、邪神の力で作られた儂と言えと、七曜神に対抗出来るのだろうか」
アジ殿はスッカリ弱腰になっている。
前々から思ってたけど、このドラゴンは追い詰められると弱いタイプだね。
とは言え、このままにしておくわけにはいかないし、早めに対処しないと。
「すぐに代わりの物を用意しよう! アーシラ女史の所に良質なダンジョン核は無かった? 父さんと母さんは今居ないけど……、後払いでも許されるはずだよ!」
「……コレの代わりになる程に良質なダンジョン核は置いておらなんだ。というか、ノロノロしておれん。直ちにこれらの術式を復活――待て。ちょうど良い者が居るではないか」
「ん?」
アジ殿が向いている方に視線を向けると、僕の部屋の窓からステラがこちらを見下ろしていた。異変を感じ取って起きたんだろうな。
「人の身を借りているとはいえ、ステラのMP量は膨大だ。一時的に電池代わりに出来るだろう」
「なるほどね」
ちょっと可哀そうに思えるけど、今は協力してもらわないと、彼女自身も危険だ。
彼女に向って手招きすると、嬉しそうな顔で窓から離れた。
直ぐにここに来てくれそう。
「ステラちゃんの笑顔、写真に納めたかったなー。無表情が多いから貴重なんだよね」
「……ジェレミーよ。己の立場を忘れるな。今はお主の義妹であるが、ステラは”智恵ある神”のただ1人の兄弟にして、強大な神なのだ。普通であれば気安く話せる相手ではないのだぞ」
「分かってる」
別にわざわざ釘を刺してくれなくても、ちゃんと理解してるっての。
ことあるごとにネチネチと言ってくるんだから、腹が立つよ。
「それと、明日儂は近場のダンジョンに行くとする」
「代わりのダンジョン核を調達して来てくれるのかな?」
「うむ」
「それなら僕もお供する。これはマクスウェル家の問題でもあるし」
明日、学校は通常通りだけど、大した内容を教えてくれるわけでもないし、こちらを優先してしまおう。
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