緑の鍵
メノウユキ
プロローグ
夜更けの町に逃げる影が複数。影は息を荒くして必死な形相で走っていた。
「く、来るな化け物!」
「命だけは!」
わめき散らしながら走る男たちをワタシは少し高い建物から傍観していた。
「ふぅ……」
タバコを一本吸って、一つ息を吐く。
仕事とはいえ、ああいった輩を相手にするのは少し罪悪感が残る。
今逃げている男たちは、この町で人さらいを働いた奴らだ。ワタシの仕事はそういった奴らを潰すこと。
「面倒だが、やるか」
短くなったタバコを、折り畳み式の灰皿に入れてきている黒コートのポケットの中に突っ込み、建物から飛び降りる。
「数は……三人」
落下しながら男たちの影を目視し、確認する。そして、着地と同時に駆けだした。
「ひぃ!」
男たちは必死に逃げるが、数十秒後追いつく。
「往生際が悪いぞ」
その言葉と共にワタシは男の一人の背中に跳び蹴りをした。
勢い任せにやったため、男の体は一瞬で吹き飛ばされる。逃げていた二人の男たちはその場で立ち尽くし、茫然としていた。
「あ、やりすぎたか? まぁ、人様の命で商売をしようって輩なら、これくらいの覚悟はできていたよな?」
ワタシは二人の男を交互に睨む。
彼らはこちらの視線におびえ、一歩退いた後に退路を探すように視線をさまよわせた。
「ば、化け物め!」
数秒も経たないうちに、しびれを切らした男が一人、隠し持っていたナイフを振りかざして突っ込んできた。
同時にもう一人の男が便乗をするように警棒を取り出して特攻してくる。
「……」
ワタシは特に慌てることはなく、相手の攻撃をうまく流し、腰のベルトに固定している短刀を抜いて二人の脇腹とみぞおちにそれぞれ一撃ずつ峰でうちこんだ。
二人は小さくうめき声をたてて、その場に倒れ込む。
「一つ、訂正だ。ワタシは化け物じゃなくてれっきとした人間。お前らが恐れてるペリじゃないから安心しろ。っていっても聞こえてないか」
ワタシは男たちを一瞥してその場を去った。
「夜くらい静かにしてほしいものだな」
タバコを取り出しながらワタシはそうぼやく。
これが、これから起こる騒動の序章とも知らずに。
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