世紀末まであとどれくらい?
面沢銀
第1話 瞬きするくらいの速さで
まず思った事は、美しい金髪だなという事です。
見惚れる。
言葉としては知っていたんですけれど、実際にそれを体験してみて、その言葉の重みを理解できました。
だって目の前にテレビや雑誌で見たリトルグレイと呼称される宇宙人が現れたんですよ。
何がどうなっているのか、いろいろな考えが頭の中を駆け巡って収拾がつかなくなっていた頭の中をピシャリと一喝されたように、その事だけを思ったんです。
溶け込んだ闇夜から不意にたなびいた髪は、今も深く心に残っています。
「三歩後ろに下がってな!」
背丈は僕より低い女性。
高い声でした。
きっと僕と同年代なんだなってすぐに理解できました。
自分でも不思議でしたよ、まだ顔もわからない彼女をスッと理解できていたんだ。
いや……彼女を、っていうのは違うかな。
僕のこの取り巻く環境っていうのかな?
漫画や映画、SFとかファンタジー? フィクションはもちろん作り話みたいな意味なのは知っているんですけどテレビでやっているドラマみたいなものだってフィクションだと言うのはわかっているんですけど。
言うなれば絶対にありえない状況とか存在っていうか、頭の中で最初から違う世界の作り話として楽しんでいたものが本当に目の前で起きている事に対して、
それが当然だと素直に理解できちゃったっていうか。
宇宙人も彼女も、まるで今までの僕の日常だったみたいに受け入れられたんです。
理屈じゃなく、塗り替えられた。
パソコンだと上書きって言うんでしたよね。
それくらい、彼女の言葉と存在が大きかったんです。
それでですね、気が付いたら彼女が刀を手にしていたんです。
最初から持っていたのかもしれませんけど、とにかく少し遅れて気が付いたんです。
どうして暗いのに刀だってわかったかって? それは彼女の持つ刀が青白く光っていたからです。
ビルのネオンライトでしたっけ。あんな感じに、どこかや何かを照らすわけじゃなくて、その存在をアピールするように。
もちろん光る意味とか考えてもいないです、やはりそれも綺麗だなってくらいで。
そういえば今思い返してみると、そもそも不思議な事ばかりの中であの刀を見て、彼女が構えた時に、嬉しさとか懐かしさみたいなものを感じましたね。
何でだろう?
いろいろな事が起こりすぎておかしくなっていたんでしょうね。
その後はよくわかりません。
見てなかったとか、そういうわけじゃなくてですね、何が起きたかわからなかったんですよ。
気が付いた時には宇宙人の首が宙に浮かんでました、スイカか何かを両手でポンと上に投げたみたいな。
グロテスク……とは感じませんでしたね、まるで見慣れているみたいな。そんなわけないんですが。
結局、彼女が言う三歩下がる前に全部終わってしまってたんです。
さっきも話しましたけど、現実的じゃなさすぎて実感がわかなかったってわけじゃないんですよ。
確かに宇宙人の首が刎ねられて、彼女が殺したんだなってわかったうえで、それがなんというか、車に轢かれた犬の死体を見た、みたいな。
あ、死んじゃっているな。
それくらいにしか思わなかったんですよね。
それで彼女が振り向いたんです。
で、最初の印象は想像と違うなって。
あ、いや。可愛くなくて残念とかそういうわけじゃなくてですね。
上手く言えないのですけれど、思ったのと違うっていうか、夏休みあけたらイメチェンしてきた友達にあったみたいな。
何を言っているんだろう、僕は……。
で、彼女が言ったんです。
「お前は……誰だ?」
振り返ってみると変な事を聞いてますよね、突発的に助けてもらった感じなのに、僕を知っているみたいな顔しているんです。
だけど、僕の名前はわからない。
その時はそこまで考えていなかったので、普通に名乗りました。「僕の名前は長瀬敦也です」って。
それで彼女も名乗ったんです。
「俺の名前は斎藤雷電、よろしくな」
って。
「いや、よろしくじゃねぇか。今の事は忘れろ? いや、あれ、どうなってんだ?」
酷く混乱しているようでした。
彼女が慌てるのを目にして、僕もようやく落ち着いたというか、ちょっと前の普通に戻ったっていうか、この状況が異常であるのを思い出したっていうんですか。
だけど彼女の使っていた刀はもう無くなっていて、宇宙人の死体も溶け出していて。
まるで何もなかったかのように。
ここでは何も起きなかった、誰にも会わなかった、そののようにされるんじゃないかって。
自分のこれからの人生で、今の出来事が夢や幻だった事になるような気がして。
初めて、そこで恐いと思いました。
今の出来事じゃなく、この瞬間に何かしなかったら、これまでの事の意味がなかったんじゃないかって。
……これまでのって言っても、特に何があるわけじゃないんですけど。
いや、だけど、その後に僕は?
あれ、あなたは誰ですか?
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