混ぜるなキケン!!~2人が奏でる滅びの序曲?!~

かなた

プロローグ 傾国の美少女

 あらゆる富を手に入れ、栄耀栄華を極めたひとつの大国があった。かの国は悠久の歴史を刻んだと言うが、その終焉は長い歴史の中で一瞬であった。


 元凶は1人の奸臣による、と歴史書は言う。

 奸臣の名は忘れられて久しいが、その膨大な魔力と知識をもって宮廷魔導師になったものの、その知識と悪知恵と類稀なる美貌を利用し、富を横領し続け、遂に国が滅びる時には既に何処いずこかへと姿を消していたという――


 これは、忘れられた大国を滅ぼした1人の超絶美少女と、魔王の手から世界を救うべく戦う青年の、世界の命運をかけた(?)出会いと冒険の物語である――



 ◇◇◇◇

〝隣の大国が滅びた〟

 今、この国アルガドールで1番ホットな話題だ。


 海運国家アルガドール。小国ながらグレイゼア大陸の玄関口にして、他大陸との貿易、交通を取り仕切り、大陸有数の海軍を抱えるそれなりに豊かな国である。


 ここはその城下町の一角、海の見えるオシャレなカフェテリア。可愛らしくデフォルメされたイルカとカモメが彫られた木製の看板には、


〝カフェ メーヴェ&デルフィーン〟


 と、これまたオシャレな装飾文字で彫り込まれている。


 そんなオシャレなカフェのテラス席に、ひときわ目を引く少女がいた。


「はー、いい金づるだったのに。」


 読んでいたかわら版から目を上げ、その少女、エレジオールはため息をついた。


 物憂げなハシバミ色の大きな瞳にかかる長い睫毛が揺れる。

 くっきりした二重にすらりと通った鼻筋。流れるような銀髪はまるで上質な絹のように滑らか。

 ため息ひとつで周りを魅了できる程に、どこをとっても非の打ち所がない完璧な見た目。


 しかしそんな儚げな美少女は、かなりの難物であった。


「エリィにかかるとさしもの大国もただの金づるかー、怖い怖い。」


 ふよふよと空中を漂いながら憎まれ口を叩く魔法生物を睨みつけ、少女は憤慨する。


「うるさい!シェリィ、あんただってお陰でいい思いできたでしょうが!!」


 シェリィと呼ばれた魔法生物はなんの事かといいたげな風である。

 ちょっと縦長に潰した球体に猫に似た耳、背中にはちんまりとしたコウモリのような羽根。可愛らしい見た目だが、時折小憎らしい。


「そんな事より、次の獲物金づる、探さなくていいのー?」


 シェリィの鋭い(?)指摘に、エレジオールは座っていたカフェテリアのテーブルに突っ伏した。


「そうなのよ。それなのよ。でもさすがにあの国に比べるとどの富豪も見劣りするのよねー。」


 確かに早いうちに獲物を見つけなければ、いずれ(エレジオール基準の)最低限の生活もままならなくなるだろう。贅沢暮らしになれたエレジオールからすれば、質素な倹約生活など考えられない。


「それはこの際しょうがないよ。もう少しグレード下げないとね。というわけで、じゃじゃーん!!シェリィの耳寄り情報コーナー!!聞く?」


「え、なにそれ?聞く聞く!!」


 若干胡散臭い気もするのだが、好奇心に負けて興味津々なエレジオールに、シェリィはえっへん、と小さな胸?を張ってみせる。


「実は、魔王討伐の為に、隣の大陸屈指の大国ノーディルンの支援を受けた勇者様がもうすぐこの街に来るんだって!!」


「へえー、ノーディルンといえばかなりの財力を誇る商業国家…匂うわね、黄金の匂いが!!」


「でしょ、でしょー!!」


 あってもなくても変わらなそうな背中の羽根(魔力で浮いているので実際あってもなくても変わらないが、本人曰く〝チャームポイント〟らしい)を無駄にパタパタさせながら浮かべる笑みはどこか誇らしげだ。


 実は今、この世界は数年前に突如として現れた魔王にじわじわと侵略されつつあった。その存在を脅威とみなした各国は、軍を派遣してみたり、武勇を誇る勇者を募っては討伐に当たらせているようだが、未だ成果が出たという話は聞かない。


 だが、今回ノーディルンが支援を決めた勇者はどうやら今一番の有望株らしい。何せあの商業国家が(恐らく)大枚はたいて支援するくらいだ、かなりの実力者とみて間違いないだろう。本当かどうかは分からないが、不思議な力があるとかないとか。


「大国の支援を受けた勇者様…なんて素敵!!た~っぷり搾り取ってあ・げ・る♡」


 まだ見ぬ勇者金づるに想いを馳せ、うっとりするエレジオールは、この世の誰より美しかった。

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