ハルディアローグ

春嵐

第1話

 セックスの後の、わずかなまどろみ。身体の奥からゴムを引きずり出して、捨てる。

 立ち上がる。自分の中から出た液体が、まるで別物のように糸を引いてべたべたと落ちていく。


「意味がないな」


 ゴムをしているのだから、いくら濡れたところで同じだった。母乳にでもなればいいのに、液体は下の口からどろどろと流れあふれるだけ。

 椅子に座る。たとえセックスをした相手でも、同じベッドで眠りたくはない。

 胸についた液体。指で掬って、舐める。味はしない。どちらが出した液体か、分からないもの。ひとつになってしまえば同じ。


「眠らないのですか?」


 ベッドから、男の声。


「おまえが退くなら寝るが」


「ちょっと、待ってください」


 動けないくせに。言おうと思ったが、黙っていた。自分にとってはただの夜の相手でしかないが、相手にとっては、自分だけかもしれなかったから。

 自分は何もしていない。ときどき、位置がずれたあたりで修正するだけ。疲れてはいなかったが、身体の奥のほうは熱くなっている。セックスなんて、そんなものだった。

 男が、ゆっくりとベッドから起き上がる。


「寝てろよ」


 椅子から立ち上がって、男を軽く蹴り飛ばす。男がベッドに崩れ落ちる音と、自分の身体から液体が流れ落ちる音。


「はっ」


 ベッドに仰向けになった男。できるようになっていた。


「なんだ。まだできるのか」


「いまの音」


「あ?」


「いまの音が。好きです」


 少し考えて、自分の液体の音のことを言っているのだと気付いた。


「これがいいのか」


 自分の奥に、雑に指を突っ込んで、かき回す。ぐちぐちという、変な音。


「ばかなやつだ」


 そのまま、男の上に乗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る