妙な展開

「お話は以上でございますか!」


「ま、まあその提案に参ったといいますか……」


「ならば、お帰り下さい!」


「ええっ⁉ ちょ、ちょっと待って下さい!」


「駄目です! 待てません!」


「そ、そんな!」


 強引に話を進める大和を葵はなんとか制止しようと思い、話題を変えようとした。


「そ、それならば少しお話を変えましょう」


「変えるとは、別のご提案でしょうか⁉」


「提案というか、お願いごとというか……」


「それならば、尚のことお帰り下さい!」


「な、なんでですか⁉」


「提案があるということで時間を割きました! それ以外の話をする暇は一切ございません! 某はこう見えても忙しい身ゆえ、これにて失礼致します!」


「い、いや、ちょっと待って下さい! 1分で済む話ですから!」


 葵は退席しようとする大和を引き留めた。


「……大方、学内選挙を戦うにあたり、我々体育会に協力を要請したい……そういうお話でしょう?」


 葵が声のする方に振り返ると、金髪のショートボブの女性と、銀髪のポニーテールの女性が部屋に入ってきた。大和が金髪の女性に声を掛ける。


「おお、書記殿、すまない、待たせたか! すぐそちらに向かおうと思ったのだが!」


「構いません。予定は変更し、こちらの会議室で行いましょう」


「……」


 金髪の女性はそう言って、大和の右斜め前の席に座った。その対面の席に銀髪の女性が無言で腰かけた。


「えっと……」


 困惑する葵の様子を横目で見ながら、金髪の女性は書類を机の上に置くと、すぐさま立ち上がり、葵の方に向き直って挨拶をした。


「失礼、ご挨拶が遅れました。私は体育会の書記を務めております、武枝たけえだクロエと申します。以後、お見知り置き下さい」


「は、はあ、どうも……」


「そして、こちらの不愛想な銀髪が体育会副会長の上杉山雪鷹うえすぎやまゆたかです。って、貴女がご自分できちんと挨拶なさいよ」


「……初めまして、よろしく……」


 雪鷹は持っていた竹刀袋を机に立て掛けると、ゆっくりと立ち上がって、葵に向かって頭を下げ、再び席に着いた。


「ど、どうも……」


「それで? お話というのは結局そういうことでございましょう? あの、なんとか会に協力しろという……」


「『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』です!」


 クロエの言葉に葵はややムッとしながら答える。


「まあ、なんでもよろしいですが……」


 クロエは溜息をつきながら席に座った。大和が笑いながら言う。


「ふむ! どうやら我々体育会は相当な人気者のようだな!」


「え?」


「既に三つの陣営から同様の協力要請を受けております」


「ああ……」


 葵は光ノ丸たちの顔を思い浮かべながら頷いた。


「投票に関しては各自の自由にするようにと、会の者たちには伝えております。それで宜しいでしょうか? 打ち合わせの時間です。申し訳ありませんが、お引き取りを」


「た、例えばここにいる御三方だけでも、はっきりと旗色を決めては頂けませんか⁉」


「何故そんなことをする必要が?」


 クロエの問いに葵はやや口ごもりながらも答える。


「そ、それは、御三方が影響力のある方たちだとお見受けしたからです! 体育会トップの御三方がどの陣営を支持するかを明確になされば、自然と会の方たちもそちらになびくことでしょう! それが狙いです!」


「え……」


「ははは! これはまた正直な! なあ、副会長殿?」


「……本音をそのままぶつけてこられた……」


「ああ! むしろ清々しい位だ!」


「そ、それでは……」


 気持ちが前のめりになった葵に対し、大和は右手をかざす。


「しかし! それだけで決めるわけには参りません! こうした密室で決まった物事に、我が体育会の面々は決して従わないでしょう!」


「そ、そうですか……」


「だが、他ならぬ上様からの頼みごと! 無下に扱う訳にも参らん! どうだろうか、副会長殿に書記殿?」


「どうだろうかとは?」


 クロエがややウンザリしながら大和に聞き返す。大和が声をさらに大きくして答える。


「最近退屈していたところだ……久々にアレ、やってみないか?」


「アレですか……」


「アレ?」


 首を傾げる葵の方に大和が向き直って言う。


「そうです! 体育会名物、『魂の三本勝負』です!」


「三本勝負?」


「三度勝負を行うことです!」


「そ、それは分かります……」


 戸惑う葵にクロエが補足する。


「健全な精神は肉体に宿るとはよく言ったものです。我々体育会は賢い知恵や巧みな弁舌の才よりも、強靭な肉体とそこから生み出される力を信じます」


「は、はあ……つ、つまり?」


「ここにいる我々体育会トップの三人と、心・技・体、それぞれをテーマにした種目で争って頂きます。我々を上回ることが出来た陣営に協力することに致しましょう」


「そういうことです!」


「そ、そうですか……」


「では日時ですが……そうですね、三日後に行うことにしましょうか。それでよろしいですね、会長?」


「異論無し!」


「上様もよろしいでしょうか?」


 葵は困惑を隠せなかったが、体育会の心を掴むまたとない好機だと思った。


「……分かりました、その三本勝負、受けて立ちます!」


「威勢の良いことだ……」


 雪鷹がニヤリと笑う。クロエが淡々と話す。


「……勝負のルール等に関しては、追って各陣営にお伝え致します。しっかりと確認しておいて下さい」


「お互い正々堂々、力の限り頑張りましょう、上様!」


「ええ、望むところです!」


拳を突き出して、大和に応えた葵だったが、内心こう思った。


(どうしてこうなってしまったの?)

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