カリスマ性

「『愛と平和』が嫌いですか……」


「ああ、大嫌いだ」


「その心は?」


「あ?」


 爽の問いに飛虎が首を傾げる。


「なぜお嫌いなのかと思いまして」


「そりゃあ綺麗事だからだよ」


「綺麗事……」


「ああ、俺は上っ面だけ取り繕っているやつがとにかく嫌いでね、そういうやつに限って、『愛』だとか『平和』だとか平気で抜かしやがる」


「わたくしからも一つよろしくて?」


「何だよ?」


 小霧が飛虎に尋ねる。


「なんでまた選挙に出ようと思ったんですの?」


「はっ、んなもん決まっているだろ? 家柄だけにかまけているような馬鹿どもに吠え面かかせてやるためだよ」


「……そういう貴方も名門と名高い日比野家の跡取りじゃありませんこと?」


「俺は家柄に胡坐をかいたことは只の一瞬もねえ、あの時からな……」


「あの時?」


 景元の問いを無視して、飛虎は話を続けた。


「努力を怠ったことは一度たりともねえ、ただただ実績を積み重ねることに腐心してきた……全ては俺という人間を認めさせる為に!」


 飛虎は席を立った。


「……挨拶は済んだ。何やら怪しげな会を作って、色々と馬鹿げた活動をしているみたいだけどよ、俺の邪魔だけはしてくれるなよ、じゃあな」


「……ちょっと待って」


 葵が立ち上がり、飛虎に近づき、見上げながら話しかける。


「半分気が合うね」


「あ?」


「私も貴方の言う『家柄にかまけている人たち』のことあんまり好きじゃないの」


「……あっそ」


「でも、人のことを軽々しく馬鹿っていう人もあんまり好きじゃないんだ……というか、大っ嫌いかな」


「何が言いたいんだ?」


「分からない? じゃあはっきり言ってあげる」


 葵は飛虎の着けていたネクタイをグイッと引っ張り、顔を近づけてこう言った。


「貴方は人の上に立つべき人間じゃないってことよ! だから私は貴方にも絶対に負けない! 負けるわけにはいかない!」


「衣装を引っ張るな、こっちは撮影抜け出してきてんだ」


 飛虎は葵の手を振り払った。


「人の上に立つべき人間じゃない? 言ってくれるじゃねーか、俺がここまで築き上げてきたイメージなめんなよ?」


「イメージ?」


「俺は学園では文武両道の優秀な生徒、そして芸能界では押しも押されぬ人気モデル……これが世間が俺に抱いているイメージだ。知勇兼備どころか知勇にカリスマ性と人望までセットになっていやがる。ポッと出のアンタが逆立ちしようが何しようが、埋めがたい圧倒的なまでの差が存在しているんだよ!」


 そう言って、飛虎は大げさに葵の前で右手を上下させた。


「くだらねえこと言っている暇があったら、将軍職退位のご挨拶でも考えておきな」


 飛虎は踵を返し、店から出ていった。


「……」


「葵様……」


「随分とまた偉そうなやつだなあ~」


 いつの間にかテーブルに弾七が座っていた。


「弾七さん……」


「ああいう不遜な物言いするやつ、本当にいるんだな? あ、これ美味いな」


「人のこととやかく言えないと思うぞ? そして、それは僕の頼んだケーキだ……」


 弾七は景元の指摘を無視して、葵に語りかける。


「どうしたよ、ああまで言われて反論しないなんてらしくねえんじゃねえの?」


「悔しいけど、どうしても埋めがたい差があるよ、私とあの人の間には」


「知は勉強すりゃ埋まる。勇もアンタには十分備わっていると思うぜ」


「うん、ただ……」


「世間への訴求性がまだまだ弱いか……」


「うん……」


 葵は肩を落とす。


「なら補えば良いじゃねえか」


「そ、そんなこと言ってもどうやって?」


「助っ人に頼るんだよ、アイツ位のカリスマ性を持ったやつによ」


「そ、そんな人いるの?」


「少なくとも一人、心当たりがあるぜ」


 弾七は指を一本立てて、ニヤリと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る