ミュリィとエリサ Ⅰ
特訓が終わった後のことである。俺はエリサへの授業が終わった後に雑談の中でミュリィのことを話した。エリサは俺がミュリィと離宮で寝泊まりしたことに対しては微妙な顔をしていたが、彼女の魔法の才能が開花したと知るとほっとしたようだった。
「実はあたし、ずっとあの子のことは気になっていて、でもどうしたらいいのか分からなかった」
「気になっていた?」
「ええ。実はミュリィがああいう性格になったのはあたしのせいかもしれないから」
「そうだったのか?」
俺は彼女の言葉に驚く。
そう言えばエリサの口からルネアやミュリィの話を聞いたことはなかった。ミュリィも姉について大して語ることはなかったが、やはり何かあったのか。
「うん、実は数年前にあたしたちが魔力をお披露目する機会があって、まずはルネアが圧倒的な魔力を見せた。そして次にミュリィが魔力を見せることになった。この時からすでにミュリィが魔法苦手なのは知っていたけど、やっぱり微妙な結果に終わった。多分その時のあたしなら才能だけでもそれ以上の魔法を使うことも出来たんだけど、ついつい手加減しちゃったんだ」
エリサは全く訓練していないのにミュリィよりも凄い魔法を使ってしまうことを恐れたという訳か。社交的と言われるエリサは幼いころから空気を読むことには敏感だったのだろう。それを聞いて俺は何とも言えない気持ちになる。
「実はあたしが最後の順番になったのも場合によってはミュリィの後で手加減しようって思ったからなんだ。それでうまくいったと思ったんだけど、ミュリィには気づかれちゃったいたいで、止めを刺す形になっちゃったみたい」
「なるほど。それでミュリィとは微妙な関係のままだったのか?」
「ああ、それも分かっちゃうか。まあそれは結構分かりやすいかもね」
エリサは王宮の警備兵や一般役人にも愛想よく接するため、余計にミュリィへのぎこちない態度が分かりやすかった。彼女としても自分からミュリィに積極的に接していいのかよく分からなくなり、逆にミュリィはエリサをそういう気持ちにさせてしまっていることに罪悪感があるのだろう。
「だからミュリィの魔力を開花させてくれてありがとう」
「どういたしまして。でも、その話を聞く限りミュリィの方も気にしてるってことか?」
「多分ね」
ミュリィも気を遣う性格だから、それでお互い仲が悪くはないのにぎくしゃくしてしまっているのかもしれない。
「それならミュリィの魔法を見てやってくれないか? そうすればそのことも水に流せると思うんだが」
「確かにそうだね。あたしで良ければいつでも付き合うよ」
「じゃあ頼む」
その件さえ克服出来ればミュリィは本当に自分を克服出来たことになるのではないか。
そういう思いが俺にはあった。
こういうやりとりがあり、俺は次の授業の時にエリサも呼んでいた。
部屋に入って来たミュリィはエリサの姿を見て驚きを露にする。
「魔法が上達したところ、エリサにも見せてやってくれないか」
俺の言葉を聞いてミュリィは感極まったような表情をする。
そして少しの間言葉に詰まった末、絞り出すように言う。
「先生、ありがとうございます……エリサ姉様、私の魔法を見ていただけますか?」
「もちろん。あたしミュリィが魔法使えるようになったって聞いてつい見にきちゃった」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは王宮の中庭に向かった。そこでミュリィが魔法を唱える。
「いきます……『エクストラ・ヒーリング』」
ミュリィが唱えたのは上級回復魔法だ。エリサの体を聖なる光が包み込み、彼女の体力が回復していく。特にダメージを受けていた訳ではないので効果はいまいちだが、上級魔法がきちんと発動していることが伝われば十分だ。
「すごい……頑張ったね、ミュリィ」
エリサも感極まったように言う。
「はい」
二人とも色々と思うことがありすぎてそれ以上何を言っていいか分からない様子であった。それを見て俺は言う。
「あの、今日は授業はなしにしていいから二人で積もる話をしてくれ」
「え、いいんですか!?」
「ああ。幸いミュリィのペースは予定より速いから多少は大丈夫だ」
俺の言葉にすかさずエリサも口を挟む。
「じゃああたしの授業も一回姉妹団らんにしてもいい!?」
「エリサはだめだ」
「そんな!?」
「だっていつも授業ペースぎりぎりだろ」
エリサはわざとらしく愕然としてみせ、それを見たミュリィはくすりと笑う。ようやく二人は普通に話すことが出来るようになったようで、俺は安堵してその場を離れた。
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