ミュリィと特訓 Ⅳ
その後、二日目は一日目とほぼ同じような特訓を行った。王宮から離れて行ったのが良かったせいか、ミュリィは最初よりも少しずつ俺に対して打ち解けてくれるようになり、魔法も上達していった。
だが、それはあくまで少しであって、彼女のポテンシャルを考えればまだまだと言える。今日の夕方には嫌でも王宮に帰らなければならない。
それまでに目に見える結果を出すことが出来るだろうか。
午前の特訓でミュリィは同じことを考えていたのだろう、二日目よりも少しだけ緊張しているようだった。
そして午前の基礎的な特訓を終えて、午後の魔法の実技の時間になる。庭に出た俺たちはいつものように向かい合って立つ。
「この二日半、ミュリィはよく頑張った。多分これまでこんなに魔法を集中して頑張ったことはなかったと思う」
「それは確かに」
「魔力や体力の限界まで特訓したと思う。だから今のミュリィなら出来るはずだ。そう思って欲しい」
「分かりました」
最初に同じようなことを言った時よりもミュリィはしっくりきているようだった。俺としてもここまでやったんだから努力が実って欲しい、という気持ちとそれをプレッシャーにしてはいけないという気持ちが入り混じっている。
ミュリィは俺を前にして大きく息を吸い込む。
「では……『ヒーリング』」
すると彼女の詠唱に合わせて巨大な光の魔力が発生し、俺の体を癒していく。昨夜はこっそりエリサやルネアの授業準備をしていて寝不足だったのだが、そんな疲れもあっという間に吹き込んでしまう。
昨日までの彼女とはまるで見違えるような威力の魔法に、少しの間俺は声も出なかった。
俺は少し疲れていただけだが、この魔力なら瀕死の大けがを負っていても助けられるかもしれない。
そしてそんな俺を、というよりは自分の魔法の効果を見てミュリィは呆然とした表情を浮かべている。まるで自分で自分が信じられない、といった様子だ。
「おめでとう」
それを見て優しく声を掛ける。
「ありがとう、ございます」
そう言ったミュリィの目には涙が浮かんでいる。
「私、きっと今まで無意識のうちに自分が出来ないことは全部自分のせいだと思っていたんです。でもこの三日で変わることが出来ました。実は今、この合宿で私が魔法を上達できなければ先生が無能だと思われて教師を外されてしまうのではないか、と思ってしまったんです」
ミュリィは真剣な表情で語る。多分教師を外されることはないだろうが、期待外れと思われることはあるかもしれない。少なくとも、もうこういう形での特訓は認められなくなるだろう。
「そう思ったら何というか、急に力が出て……だから良かったです」
「そうか、俺のために頑張ってくれたんだな」
「い、いえ、そういう訳ではなく、どちらかというと先生が外れてしまったら嫌というか、そうならないために神様助けてくださいって思ったんです」
「なるほどな」
ミュリィは俺が思っていたのとは少し違う思考回路で自分の殻を破ることが出来たらしい。
「よし、なら今日の残った時間は好きなように魔法を使ってくれ。それでこの感覚を忘れないようにするんだ」
「はい! 『ホーリー・シールド』『ホーリー・ストライク』」
そう言ってミュリィは知っている呪文を次々と唱えていく。
すると昨日までの彼女が嘘のように、彼女は歴戦の大魔術師のような魔法を次々と展開していく。そしてこれまでは使えなかったような魔法も、教本を見て自分で使い始めた。
いきいきと魔法を使っている彼女を見て、俺は特に教えることもなくなったのでそれを感慨深く思いつつ見守ったのだった。
夕方。さすがに魔力を使い果たしたミュリィが手を止めてこちらへ歩いてくる。
「さすがに疲れました。改めて、三日間ありがとうございました」
「いや。俺の方も最後にミュリィの魔法を見せてもらったから満足だ」
「先生の言う通り、これで他の勉強も頑張れそうな気がします」
そう言ってミュリィはとびきりの笑顔を浮かべる。
それを見て俺も三日の合宿に付き合ったことが報われた、と思う。
「そうだな。よし、じゃあ今日はもう戻ろう。陛下も心配しているだろうしな」
「あ、そうでした。父上にも報告しないと。先生をつけてくれたのは父上ですし」
こうして俺たちは王宮に帰ったのだった。
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