愛する両親への手紙

ロッドユール

愛する両親への手紙


 お父さん、お母さん、私をここまで育ててくれて、本当にありがとうございます。本当に感謝しています。

 私は、いつもお父さんとお母さんを怒らせてばかりだったね。本当に迷惑をかけてばかり。手のかかる子だったから、本当に大変だっと思います。本当にここまで大事に育ててくれてありがとうございます。

 お母さん、高校の時は毎日お弁当を作ってくれましたね。本当にありがとうございます。

 お父さん、私たち家族のために毎日遅くまで一生懸命お仕事してくれましたね。本当にありがとうございます。

 

 でも、私はいつも失敗ばかりで、ドジばかり。本当にダメな娘でごめんなさい。

 大学受験も失敗しちゃった。

 怠け者の私が落ちるのなんて当たり前だよね。お父さんもお母さんも勉強しろ勉強しろって、一生懸命言ってくれたけど、私は怠けてばかり。

 毎日十時間勉強したけど、今考えれば、お母さんの言う通り、もっとできたよね。もっと睡眠時間を削れば、お風呂に入る時間を削れば、食事の時間を削れば、もっとできた。

 勉強といえば今でも思い出すのが、夏休みにどこまで寝ないで勉強できるかがんばってた時に、十日目くらいだったかな、突然鼻血がドバドバ出て、机いっぱいがその血で真っ赤になったの。ほんとびっくりしちゃった。ほんとに、蛇口から水が出るみたいに出たんだ。あっ、こんな話はどうでもいいね。(笑)

 お母さんに言われた通り私は本当にバカ。あと三点で学年一番だったのに、凡ミスで間違えて三点減点。私は本当にバカだと自分でも思った。本当にかんたんな凡ミス。答えは分かっていたのに、ただ、書き方を間違えただけだった。本当にバカ。私は、どうしようもないバカ。だからあの時、お母さんが私の頭を掴んで、水を張った洗面台に私を何度も何度も顔を押し込んだのは、正解だったと思う。あの時は、息が出来なくて死ぬかと思ったけど、私のバカさ加減はあのくらいしないと治らないよね。

 試験当日も、胃痙攣で、途中退席。そのまま病院送り。がんばって我慢したんだけど、気絶しそうなほどお腹痛くて、答案用紙に吐きまくっちゃうし、目の前がくらくらして鉛筆も持ってられないし、ほんとダメだよね私。肝心な時にいつも失敗ばかり。ほんとダメな私・・。

 どんくさいから学校でもみんなからいじめられてばかり。みんなが私の給食袋を蹴るの。汚い汚いって。虫も食わされた。お前はこれが食料だろうって。

 辛くて辛くて、体が痺れて痙攣した。朝、体が冷たくなって本当に動かなくなった。でも、その時、お母さんが厳しく、行けって鬼の形相で言ってくれたから、朝、布団を引っぺがして私を無理やり叩いて、引きずって学校に送り出してくれたから、私は高校を卒業するまで一回も休まず皆勤賞で通せた。

 

 大学には行けなかったけど、お父さんとお母さんが望んだとおり、公務員にもなれなかったし、大企業の正社員にもなれなかったけど、やっとこんな私にも仕事が見つかった。

 でも、やっと見つかった仕事だけど、やっぱり私はへまばかり。

「お前は無能だ」「どこまでバカなんだ」「死んじまえ」上司から、毎日お父さんとお母さんに言われていたこととおんなじことを言われた。やっぱり私はダメな人間だったんだよね。再確認。

 私がお父さんとお母さんに初月給で買ったハンカチとメガネ拭きも、ゴミ箱に捨ててあった。あんなの選んでバカだよね。喜ぶはずないのに。本当にごめんなさい。 


 でも、職場ではやさしい人にも出会ったんだ。いつもお昼ごはん一緒に食べてくれて、色んなお話をした。すごく楽しかった。生まれて初めてだったから、そういうの。

 でも、私はその人たちがどうしても好きになれなかった。おかしいって、お父さんとお母さんのことを話したら、おかしいって、それは虐待だって、そう言うの。

「ほんと、酷い話だわ」

「まったくだ」

「よく自分の子供にあんな酷いことが出来るものね」

 虐待で死んだ幼い子のニュースを見て、お父さんとお母さんはそう言って涙ぐんでいた。

 殴られたのだって、私が悪かったから。お風呂に沈められたのだって、私が悪かったから。ごはんを食べさせてもらえなかったのだって、私がテストでよい点が取れなかったから。

 お父さんとお母さんは、こんなダメな私を一生懸命育ててくれた。本当に一生懸命育ててくれた。


 仕事を始めて、半年も経たない頃だった。体が震えて震えてどうしようもなくなって、止まらなくなって目の前がぐるぐるしだして、そして 私は倒れた。なんだか自分で自分がよく分からなくなって、なんだかふわふわとした世界を一人で漂っているみたいだった。

 それから私は、なんだか会社が怖くて、外にすら出れなくなった。

 

 がんばってがんばって、私、がんばったけどダメだった。一生懸命がんばったけど、どうしてもダメだった。私は本当にダメな人間。何をやってもへまばかり。 

 でも、私はお父さんとお母さんに愛されたくて、堪らなく愛されたくて、愛される資格なんかないんだけど、どうしても愛されたくて、どうしようもなくて、どうしても堪らなくて私は、苦しくて苦しくて、ある日、病院に行ったら、お医者さんにあなたは病気ですって言われた。あなたの心は壊れていますって言われた。

 私は今精神病院にいます。

 本当にダメな私。本当にごめんなさい。ごめんなさい。

 最後まで私は、ダメな娘だった。どうしようもない娘だった。お父さんとお母さんに迷惑をかけてばかり。

 私なんかが、生まれてきてごめんなさい。妹の明子みたいにかわいく生まれて来れなくてごめんなさい。期待通りの人間になれなくてごめんなさい。

 こんな私で、本当にごめんなさい。




 追伸


 今日はね。カウンセラーの人に、あなたがお父さんとお母さんにして欲しかったことは何?って訊かれた。私、答えられなかった。何も浮かばなかった。今までそんなこと考えたこともなかったから。私、頭が真っ白になっちゃった。

 でも、今も夢に見ることがあるの。私の誕生日にね、ケーキが置いてあって、その前に私が座っているの。私のためのケーキ。小さいんだけど、イチゴがのってて、生クリームがたっぷり。それを見ている私のその隣りにお父さんとお母さんと明子がいて、それで私はそのケーキに立てられているろうそくの火を吹き消すの。

 別にケーキなんか食べれなくていいの。ただそんなまねごとだけでいい。一度だけ、一度だけでいいからそれがしてみたかった。明子が誕生日にそうしているのが、いつも、私の憧れだった。

 大人になった今でもそんな夢を見るの。バカだよね私。

 ごめんなさい。またくだらないことを書いてしまって。本当にごめんなさい。もう終わりにします。お体にはくれぐれもお気をつけてご自愛ください。



                           かしこ

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