第23話 決戦!ダーゲンとの戦い

 アリアス平原に出た僕とロゼッタは、イリスのいる漆黒の森へと走って向かっていた。


「徐々に反応が強くなってるわ。これがブルーローズの力なのかしら?」

「どうだろう。でも間違いなく、その時は近づいてると思う」


 僕は漆黒の森上空へと視線を移す。リーマスの言うことが本当なら、ブルーローズが現れた瞬間、天から一筋の光が差し込むはずだ。しかしそんな光はどこにも見当たらない。上空はどんよりとした雲が広がっており、今にも雨が降り出しそうだ。


「ねえ。ヒカル」

「何?」

「ヒカルってさ、最初はポンコツのダメ人間だったでしょ」

「……いきなり酷い言われようだ」

「本当にダメダメだったのよ。初めて会った時、本気で姫様の判断を疑ったわ。この弱そうな男が、アリアスの命運を握ってるなんて」


 それは僕自身もずっと思っていた。どうして僕なんだろう。もっと適役がいるはずだと。


「でも少しの間だけど、こうして一緒にいてわかったの。姫様がヒカルを推す理由が」

「それって……」

「勇気。ヒカルには絶対に勝てる見込みがない相手にも、立ち向かう勇気があるのよ。ねえ、どうしてヒカルはそんなにすぐ変われたのかしら?」


 立ち止まった僕は、首を振って否定する。


「違うよ、ロゼッタ。僕は何も変わってない……思い出しただけなんだ。昔の僕を」

「昔の……ヒカル……」

「うん」


 咲と聡の三人で過ごしていたあの時。そこには確かに存在していた。偽りの自分ではなく、本当の自分が。


「何よ。勿体ぶらないで教えなさいって」


 尻尾を頬に当ててくるロゼッタ。正直、最初は苦手だった。性格がキツそうで、小生意気で。人の嫌がることを、ズバズバ言ってくる。僕とは正反対の性格を持つ彼女を。

 でも今は、本当に頼りになる使い魔だと思っている。ロゼッタに救われたことが何度もあった。だからこそ、ロゼッタに知ってもらいたいなと思った。昔の僕がどんな人間だったのか。

 僕が口を開こうとした、まさにその瞬間だった。突然、地面が大きく揺れ始めた。


「な、何なのよいったい」

「……じ、地震?」


 僕はその場にしゃがみこんで、揺れがおさまるのを待った。徐々に風が強くなり、目を開けるのが辛い状況に追い込まれる。


「ヒカル! 空よ。森の方の空を見て!」


 薄目で指示された方向の空を見上げると、そこにはリーマスが言っていた現象が出ていた。


「空から光が……」

「凄いマナの量……きっとブルーローズだわ」


 マナが見えない僕にも、そのとてつもない力の大きさがわかった。

 突然の地震、突風、そして一筋の淡い緑色の光。その全ての現象を、一瞬で起こせるほど強大な力。


「ブルーローズ……」

「ヒカル! 早く姫様の所に行かないと」

「わかってる。でも揺れがまだ……」


 激しい揺れは依然続いていた。自然に起こった地震なら、既におさまっていてもおかしくないと思うのに。未だに揺れがおさまらない。

 ロゼッタの言うことは僕だってわかっている。ブルーローズが現れた時こそ、アリアスの命運が大きく左右される時。もし光が消える前にイリスと会えなければ。ブルーローズに秘められた膨大な力によって、この世界が滅びるかもしれない。


「行かないと……」


 何とか立ち上がった僕は、イリスの元へ一歩踏み出した。

 すると次の瞬間。とてつもない音と同時に、視界に捉えていた一筋の光が一瞬で消滅した。それに連なるように、揺れと強風も徐々におさまっていく。


「嘘だろ……」


 僕は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 光が消えた。それはブルーローズのマナを、イリスが吸収し終えたことを指しているはず。でもリーマスは言っていた。ブルーローズのマナは、一人の人間が背負い切れる量ではないと。


「ロゼッタ……ブルーローズの反応はどうなった?」

「……まだあるわ。ただ、さっきよりも反応が弱くなってる気が……」


 弱くなった。ということは、さっきの自然災害がブルーローズのマナを弱めたのだろうか。それとも、もっと別の何かが……。

 ふと空を見上げると、かけていた眼鏡にその一粒は降ってきた。


「雨……」


 眼鏡を取った僕は、そのまま空を見上げた。視界の先には、どんよりとした雲が一面に広がっている。


「痛っ」


 一粒の雨が、僕の右目に吸い込まれた。突然の出来事に、僕は咄嗟に目を閉じる。

 あれ?

 不思議な感覚を抱いた。まるでどこかで、同じような経験したことがあるような……。


「ヒカル! マナの反応があるわ」


 尻尾を傘代わりにしていたロゼッタが声を上げた。僕は眼鏡をかけなおし、視線を向ける。

 ロゼッタが指し示した場所は、漆黒の森方面だった。目を凝らし、しばらくその方角を見つめ続ける。しかし僕には何も見えなかった。僕の視界に映っているのは、緑の生い茂る漆黒の森の景色だけ。 


 でもロゼッタは確かに言った。マナの反応があると。


「……もしかして!」


 僕は力強く地面を蹴って、アリアス平原を全力で走った。

 もしかしたら、イリスは無事なのかもしれない。

 ブルーローズのマナを、コントロールできたのかもしれない。

 そして漆黒の森まで百メートルくらいの地点についた時、ようやく僕にも人影が見えた。

 白を基調としたドレスに、腰まで伸びた真っ直ぐな金髪。

 間違いない、イリスだ。


「イリス!」


 僕の声に気づいたイリスは、僕の方へ向かって走ってくる。そしてあっという間に、僕とイリスの距離は縮まった。


「ヒカル……」


 久しぶりの再会。僕にとっては数時間ぶりかもしれない。でも、イリスは四年も僕を待ってくれていたんだ。


「イリス……無事でよかった。ブルーローズをコントロールできたんだね」


 僕の問いに、イリスは口を開こうとしない。


「……イリス?」


 何かがおかしい。そう思った僕は、俯くイリスの顔を覗き込もうとした。


「――危ない!」


 突然イリスが顔をあげて、僕を押し倒してきた。


「イ、イリス?」


 何が起こったのか理解できなかった。ただ僕の胸で、イリスは涙を流している。


「イリス、何があったんだよ。教えてくれないと――」

「教えてやろうか」


 突然聞こえた冷めた声に、僕の背筋は一気に凍りついた。

 聞き覚えのある声に、僕は身体を起こすとイリスを抱えたまま距離をとる。

 僕の目の前には、黒いマントを纏った男が立っていた。


「……ダーゲン! どうしてお前が……」


 イリスから離れた僕は、咄嗟に僕の肩にいるロゼッタに視線を向ける。ロゼッタの身体はびくびく震えており、僕にしがみついていた。マナを感じることができるロゼッタが、震えるほど怯えているということは。


「まさか……ブルーローズの力を手に入れたのか!」


 僕はダーゲンを睨みつけた。そんな僕の態度をダーゲンは鼻で笑う。


「クックックッ……ああ、遂に手に入れた。貴様らが守り続けていたブルーローズの力を。その証拠に……挨拶代わりだ。目障りな貴様に教えてやろう」

「逃げて、ヒカル!」


 イリスの叫びが耳に入る。瞬間、僕は理解する。ずっと夢で見ていた出来事だと。多少の違いはあるけど、間違いなくいつも見ていた夢と同じ展開。

 なら次にダーゲンがすることは。

 ダーゲンは僕に右の手のひらを向けた。するとその手から漆黒の煙が噴出される。その煙が円を描き、徐々に大きな黒い球を形成していった。

 やっぱりそうだ。これは何度も見た夢と同じ展開。次はこの黒い球が、僕に向かって飛んでくるはず。あの時は膝が笑って一歩も動けなかった。そのまま流れに身を任せて、僕は攻撃をただ受け入れることしかしなかった。

 でも今は違う。僕には守るべきものがある。救わないといけないものがある。

 何のためにこの世界に来たのか。その意味が、今の僕ならはっきりとわかるから。

 僕はダーゲンが放ってくる黒い球を避ける為、足に力を入れた。

 しかしいくら力を入れても、足は地面を離れない。


「くそっ……どうして……」


 動かない身体に、最初は動揺をかくせなかった。でも僕にはイリスがいる。イリスの魔法があれば、こんな状況すぐに打開できるはず。僕はイリスに視線を向けた。


「イリス……」


 しかしイリスは戦意を喪失しているみたいで、俯いたまま一向に顔をあげようとしない。

 焦燥に駆られる僕の様子を見たダーゲンは、ニヒルな笑みを浮かべた。


「簡単なことだ。貴様はブルーローズの膨大な力を前にしてる。その力を前にして近づける奴なんて、そもそも誰もいない」

「ヒカル」

「ロゼッタ……」

「ゴメンなさい。さっきから震えが止まらないの。私も一歩も動けない。それくらい強大な力なの」


 ロゼッタの表情がゆがむ。その苦しそうな表情に、僕は胸がひどく傷んだ。

 ブルーローズのマナをどうにかする。それが僕に課せられた使命だったのに。僕はブルーローズを処理できず、挙句にダーゲンに力を奪い取られてしまった。

 何が世界を救うだ。僕はいったい何度過ちを犯せばすむんだよ。このままいつも見ていた夢と同じ結末を迎えるしかないのか。本当にもう何もできないのだろうか。


 ――ヒカルが持っているのは退魔の剣。その意味を決して忘れるでないぞ。


 諦めかけた僕の脳に、リーマスの言葉が蘇る。

 そうだ。僕には退魔の剣、ブレイブソードがある。これが唯一、ダーゲンに対抗できる手段。さっきコポリと戦った時に気づいた力。リーマスが言っていた、僕にしか使えない力がこの剣にはある。

 大丈夫、僕にならきっとできる。だって僕にはイリスの信じてくれた一番の武器だってあるのだから。

 手を結んで開く。たとえ足が動かなくなっても。その場から動けなくなっても。僕にはやれることがまだある。


「終わりだ」


 ダーゲンは僕に向かって黒い球を放った。


「ヒカル!」


 イリスの声が耳に響く。その声を合図に、僕は瞬時に鞘から剣を抜いた。そして両手で剣を持つと、そのまま正面から跳んでくる黒い球目掛けて、ブレイブソードを振り下ろした。


「なんだと……」


 ダーゲンが驚愕の顔をしていた。僕には何もできない、そう思っていたのかもしれない。

 でも僕はたった今打ち破った。

 今まで僕が見ていた夢には、確かに続きがあったんだ。

 黒い球は真っ二つに分断され、僕の前から消失した。これがリーマスの言っていた力。魔力を持たない僕にしか出せない技。

 アブソーブ。

 ブレイブソードは相手のマナを吸収することができる。コポリの仮面からマナが無くなったのは、ブレイブソードにマナが吸収されたからだった。

 そして今、僕はダーゲンの放った黒い球をブレイブソードで吸収した。もう僕にはどんな魔法攻撃も効かない。


「……僕はこの世界を救うために来た。だからもしアリアスの平和を脅かすのなら、僕はこの剣で……ダーゲンを斬る!」


 ブルーローズのマナを剣で吸収できなかった今、僕ができることはただ一つ。ブレイブソードでダーゲンを倒すしかない。


「私も……私も戦います。私がダーゲンに屈しては、死力を尽くしてくれた亡き者たちに、顔向けできませんから」


 イリスが腰を上げ、ヒカルの肩に手を置いた。

 瞬間、全身がふわっと軽くなった感覚を覚えた。おそらくイリスが僕に強化魔法をかけてくれたのだろう。イリスの力とブレイブソード、そして僕の持つ勇気。これでダーゲンを倒すピースが全て揃ったはず。

 しかしダーゲンは冷静だった。圧倒的に不利な状況だと思うのに、どこか余裕の表情で僕達を見据えていた。そのどこか不気味な雰囲気に、僕は剣を握る手に力を込める。

 そして黙っていたダーゲンが、ようやく口を開いた。


「まさか、貴様が俺様の前に立ちはだかるとはな。四年前、スクイラル杯でコポリを使って戦った時には考えてもなかった。確かに強くなったのは認めよう」


 ダーゲンはニヤリと笑みを浮かべた。


「しかし貴様は一生俺様には勝つことができない。たとえ貴様がその剣を持っていたとしても」

「……どういうことだよ」


 何かダーゲンには策があるのか。僕にはわからないことだった。でも、そんな僕の心に不穏な空気が伝わってくる。その空気を貫くように、か細い声が聞こえた。


「ごめんなさい……」


 後ろを振り向くと、イリスが涙を流していた。


「イリス……どうして……」

「ブルーローズの力を手に入れた後、俺様は不死になることができた。だからどんな攻撃を受けようが、俺様は死なないはずだ」

「不死って……まさか」


 イリスの涙、ダーゲンのニヒルな笑みが全てを物語っていた。


「リーマスを我が肉体に取り込んでやった。老いぼれていたせいで、クソ不味かったけどな。ああ、あとついでに王女を守っていた女も一緒に葬ってやっ――」

「ふざけるなぁぁぁ!」


 勢いよく地面を蹴った僕は、ケラケラ声を上げるダーゲンの懐に飛び込んだ。そして勢いそのままに、ダーゲンに剣を振りかざす。

 キィーン。

 金属ぶつかる音が、周囲に響き渡った。ダーゲンはいとも簡単に僕の攻撃を、自らの剣を盾にして防ぐ。


「ヒカル、落ち着いて。怒りに任せて戦っても、ダーゲンに勝てません」

 イリスの声が聞こえた。けど、僕の中にある怒りのボルテージは一向に収まらない。

 ダーゲンは確かに言ったのだ。リーマスとクリスを殺したと。大切な人を殺されて、冷静でいられるわけがない。


「クソっ!」


 僕はダーゲンから距離を取ると、素早く動いてダーゲンの隙を伺う。しかし、どこにも隙がない。それにダーゲンは一切攻撃を仕掛けてこなかった。

 ふざけるな。どうして僕と戦わない。

 イリスのマナは元に戻っている。だから持久戦なんて、意味がないはずなのに。

 冷静でいられない僕を嘲笑うように、ダーゲンは笑みを見せた。


「どうして攻撃しない。とでも思っている顔だな……教えてやる。それは貴様に攻撃すれば、マナを奪われるからだ。それがわかっていて攻撃する馬鹿がどこにいる!」


 当たり前のことを敵に言われ、ようやく僕は自分の愚かさに気づく。

 黒い球を斬った時、マナを吸収するところをダーゲンに見られていた。なのにそれにすら気づかずに、僕はただ怒りに身を任せていた。

 もっと冷静でいられたら。自分の不甲斐なさに、悔しくて奥歯を噛みしめる。


「大丈夫ですよ、ヒカル」


 そんな僕を優しく包む声が聞こえた。視線を向けた先には、何度も頷いて僕を肯定してくれるイリスの姿が見える。

 そう、それでいい。

 そう語りかけてくるようなイリスの表情を目にして、僕は見失っていた冷静さを取り戻した。

 本当はイリスが一番辛い思いをしているはずなんだ。だってイリスは、目の前で二人の命が奪われるところを見てしまったのだから。それにも関わらず、こうしてイリスは僕に力を与え続けてくれる。僕に期待してくれているんだ。

 まずは一撃をダーゲンに叩き込む。

 地面を蹴った僕は、再度ダーゲンの懐へと飛び込む。そして剣をダーゲンに振り下ろす。


「同じ攻撃が俺に通じるわけ……」


 今だ。

 僕はそのまま剣を振り下ろすふりをして、咄嗟に左腕を身体に巻き付けた。さらに腰を捻ってタメを作る。そして虚を付かれたダーゲンの隙をついて、左腕を反時計回りに素早く振り払った。


「クッ……」


 ダーゲンの眉間に皺が寄る。僕の剣はダーゲンの右腕を吹き飛ばした。血飛沫が上がり、その一部が僕の頬や服を赤く染め上げる。斬られたダーゲンは咄嗟に後方へ飛んで、僕と距離をとった。


「……やるな。まさか貴様がフェイントをかけるとは。だがな……いくら攻撃しようと俺にはきかない」


 その言葉通り、斬られたはずのダーゲン右腕が一瞬で生え変わった。その驚くべき再生に、僕は開いた口が塞がらない。


「ば、バケモノかよ……」


 これがリーマスの不死の力。リーマスがずっと死ななかったのも理解できる。


「貴様の攻撃はもう俺にはきかない。諦めてその剣を渡せ」


 地面に落ちた剣を拾ったダーゲンは、僕の方へ近づいてきた。

 いったいどうすれば良いのか。やみくもな攻撃は、ダーゲンに効き目がないことはわかった。それなら最初にするべきことは、リーマスの不死の力をどうにかすること。でも、その方法が僕には思いつかない。すると脳内に直接イリスが話しかけてきた。


 ――ヒカル。おそらくリーマスさんの不死の力は、魔法で作られた力です。

 ――魔法……そうか。ならこの剣で力の源を斬れば。

 ――ええ。しかし、それがどこにあるのか。私にもわかりません。もう少し近づければ……。

 ――私がやるわ、姫様。


 僕の肩で震えていたロゼッタが、苦しそうにしながら立ち上がる。そうだ、ロゼッタの尻尾にはマナを感知する特性がある。でも、さっきまでロゼッタは一歩も動けなかったはず。


 ――ロゼッタ、本当に大丈夫?

 ――ええ……姫様とヒカルがこんなに頑張ってるんだもの。私だって力になりたいわ。


 ロゼッタの強い意志に、イリスは頷いた。


 ――わかりました。ロゼッタ、あなたの勇気を信じます。ダーゲンの懐に潜り、不死の力の源を見つけてきなさい。いいですね。

 ――わかったわ、姫様。私ももう逃げない。魔法は使えないけど一緒に戦う。ヒカル、頼んだわ。

 ――ああ。


 僕は近づいてくるダーゲンと距離を取るため、後方に跳んだ。しかし、ダーゲンが僕の予想よりも早く近づいてくる。


「遅い!」

「しまった……」

 ダーゲンは僕を捕らえると、そのまま勢いをつけて地面に叩きつけた。

「ガハッ」


 背中を地面に強く打ちつけた僕は、そのとてつもない威力に咄嗟に起き上がれなかった。


「クソッ、まだ馴染まない。物理攻撃はマナの込め具合が難しい。何度か試さないとな……もう少し付き合ってもらうぞ、ヒカル」


 ――ヒカル、大丈夫ですか。


 イリスの声が響く。身体を起こして背中を見ると、クッションみたいなものが敷かれていた。


 ――うん、大丈夫。ありがとう。


 予想外な攻撃を受けてしまった。だけどこれでどうにかできたはずだ。後はひたすら身を守り、ダーゲンをやり過ごすだけ。

 ダーゲンは魔法攻撃をしてこないんだ。だから接近戦を挑んでくるはず。

 魔法攻撃。魔法。その時、僕の中に生まれた疑問が大きく膨れ上がる。

 どうしてダーゲンは魔法が使えるのだろうか。

 イリスは言っていた。魔法が使えるのはアリアス人だけだと。しかも今は女性しか魔法が使えない世の中になっていると。

 僕の目の前にいるダーゲンは、ブリノスの王子。紛れもない男性だ。

 魔法を使えるはずがないのに。どうしてダーゲンは魔法を使えるのか。

 ダーゲンがまた近づいてくる。僕は剣を手に取り、ひたすらダーゲンの攻撃をかわす。


「クソッ、ちょこまかと」


 ダーゲンの攻撃は素早いが、決して目で追えない攻撃ではなかった。もしかしたら魔法攻撃以外では、大して力の差は出ないのかもしれない。

 攻撃を交わしつつ、僕はダーゲンに疑問をぶつけた。


「ダーゲン……どうしてお前は魔法を使えるんだ」


 突然の質問に、ダーゲンは僕に対する攻撃をピタリとやめた。僕は続ける。


「魔法はアリアス人しか使えない。それに今は女性しか使えないはずだ。それなのにお前は魔法を使える。いったいどういうことなんだよ」


 ダーゲンは暫く黙っていた。答えにくいことなのだろうか。やがてダーゲンはその重い口を開いた。


「……俺様はアリアスで生まれ育った。俺様にはアリアスの血が流れている」

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