戦闘狂と愛国狂 -錯綜する思惑-

 少年の一刀は、どこから出したのかリリーが手にしている大剣に阻まれる。

だが、何よりも少年の変容が凄まじい。

邪魔をされた事によって顔が歪み、殺気やら怒気やらが無差別にまき散らされる。

「何だ?こいつの仲間だったのか?」

そんな事を口走る少年に、リリーは全く動じず、冷静に口を開く。

「そんなわけあるか。おいおっさん。あの日迷わせの森でクレイス様を襲った山賊だな?」

頭巾から光る赤い目が山賊に向けられる。

「あ、ああ。」

少年と女性の威圧感に萎縮した声で返事をする。

「だったら色々裏を取りたい。こいつは私が預かる。構わないか?」

(なるほど。その為に一旦命を救ったのか。)

クレイスは納得する。しかし、

「駄目だな、俺になんの利もない。そいつは俺の獲物だ。邪魔をするな。」

即座に結論を出す少年。一刻も早くその山賊を斬りたいような印象だ。

理由はわからないが、クレイスの敵でもあるのでそれはそれで良い事だとは思う。

「ならばいくらか用意しよう。路銀は必要だろう?」

リリーもすぐに交渉案を提示してくる。その話を聞いて少し冷静になったのか

「・・・路銀はいらないな。どうしてもそいつがほしいのか?」

話し合いに応じる姿勢を見せた少年に彼女が頷く。


「・・・・・なるほど。じゃあこうしよう。俺と立ち会ってくれ。」


条件として、少年はリリーに立ち合いを申し込んで来た。

「それは・・・私とか?」

「もちろんだ。他に誰がいるんだ?」

そう聞いてくる声が耳に届いたクレイスは無意識でヴァッツに目を向ける。

ずっと静かだった彼は、わくわくした表情で、目を輝かせて一連の様子に釘付けになっていた。


「わかった。命の保証は出来ないが構わないか?」

諦めたようにため息まじりで承諾するリリーに

「それはこっちも同じだ。ただ、あんたには本気で来てほしいから、その暑苦しい外套は脱いでもらうぞ?」

そう言われると、彼女は無言で馬車の後ろに向かい、

何やら中をごそごそと漁りだす。目的の物を見つけたようで、

「覗くなよ?」

と、一言だけ釘を刺した後、外套を脱ぎ、更に衣服も脱ぎ始める・・・ような音がする。

目視出来ない分、聴覚が敏感に音を拾う。

しゅるしゅるという布の音にがちゃがちゃという金属音が混ざり、

「待たせたな。」

姿を現したリリーは桃色の鎧を身にまとい、自身の身長と変わらぬ大剣をその手に握っている。

以前見た時は真夜中だったのでよくわからなかったが相当派手な造りだ。

しかし元の容姿が目立つためか違和感は全くない。


流れるように用意した縄で山賊を素早く縛りつけ動きを封じると、

「逃げたら少年のかわりに私が斬る。」

「は、はひ・・・」

無意識なのか意識してなのか、どうも彼女の言動は相手を威圧してしまうらしい。

年齢が倍以上離れているであろう山賊がたじたじである。


勝者への賞品が準備し終わると2人が街道の真ん中で距離を取り、

半ば命の懸かった立ち合いが始まった。お互いが距離を取ったところで少年が棒切れを拾い、

「これが落ちたら合図だ。っと、俺はカズキ。あんたは?」

「私はリリーだ。いつでも来い。」

短いやりとりの後、その棒切れを軽く上に放り投げる。

回転しながら上昇し、弧を描いて丁度2人の中間あたりに落ちた。


だんっ!!


同時にカズキは地を這うような体制で距離を一気に詰める。

恐ろしく速い踏み込みは傍観者のクレイスからはまるで消えたように映った。

それでもりりーはその動きに対応してくる。

間合いの広さで勝る彼女は出会い頭を狙い大剣を大きく振り下ろしていく。

慌てた少年が体を制御しつつ辛うじて捌くが、そこからリリーの連撃が止まらない。

暗闇夜天族を相手にした時と同じで、

反撃する隙を全く与えない攻撃は、少年をどんどん後ろへ退かせる。

地面や脇の木々に強烈な斬撃痕が走る中、

大きく後ろに飛んで距離を取ろうとするカズキ。

それを許さないリリーも一気に踏み込んで距離を潰す。


がきんっっ!!!!


っという音が鳴り響き、リリーの大剣が少年の刀を弾き飛ばした。

大剣の質量と、リリーの膂力が乗った攻撃を捌き続けるには限界があったようだ。

そこで勝負が決したと思い、彼女は距離を取って構えを解こうとした。


だが彼は何事もなかったかのように、腰の後ろに手を伸ばし短刀を抜く。

「まだやるのか?」

「おう。これからが本番だ。」

傍から見れば武器の格が落ちた少年に勝ち目はないと判断するだろう。

それは当事者であるリリーもそうだ。

仕方がなくもう一度大剣を構え直す。

恐らく悔し紛れの攻撃がくるのだろうと楽観視していた。


その油断をカズキは見逃さない。


初撃のやりとりよりも速く、低く地を這って距離を一気に詰めてくる。

虚を突かれたリリーだが、冷静に対応しようと動く。

一歩下がり、迎撃する準備に入る。

水平に構えられた大剣は間合いに入ってきた少年の胴に目掛けて薙がれる。

当たれば体は上下に割れるであろう絶命必死の横薙ぎの、

更に下をくぐった少年は、ほぼ間合いの無くなった状態から体を急浮上させ、

短刀を彼女の胸に目掛けて短刀を突き上げた。


その一撃はリリーの鎧を削り、彼女の体を吹っ飛ばす。


中空で後方に一回転しながら、片手で受け身をとり、

素早く態勢を立て直した後、改めて大剣を構えようとした時、

上げた顔の喉元に、少年の短刀が付きつけられていた。

「まだやるか?」

先程の台詞を返され、

「いや、お前の勝ちだ。」

あっさりと負けを認めたリリーは目を伏せ、大剣を地面に突き刺すと両手を挙げた。


先程のやり取りを見ていたので、少年がそのままリリーに止めを刺すのかと

冷や冷やしていたが、

立ち合いの内容にとても満足したらしく、

小刀を腰の鞘に納めると充実した笑みを浮かべていた。




 「さて、山賊は始末させてもらうぜ。」

飛ばされた刀を拾ってきたカズキは嬉々としている。

「仕方ない。約束は約束だ。だが脇でやれよ。往来の邪魔になる。」

リリーはきっぱりと諦め、衣服を着直していた。

2人のやりとりをよそに、山賊は随分おとなしい。


どうやら自身の命運が尽きた事を悟っているようだ。呆けた面をしている。


(本当はもうちょっと活きが良いのを叩き斬りたかったんだけどな。)

思わぬ誤算が生じてしまったが、結果として良い立ち合いを経験できたのだ。

この収穫は大きいだろう。

縛られている山賊をそのまま引っ張って脇に歩かせる。

と、馬車から何やら視線を感じる。


(そういえば2人だっけ?なんか乗ってるんだったな。)


ちらっと聞こえた話では王子だか何だか言ってた気がする。

だがカズキという少年。人を斬る為に労力は惜しまないが、自ら厄介ごとに首を突っ込む輩ではない。

その視線を無視し、縛られた縄を解く。念のために

「ほれ。お前の剣だ。抵抗してもいいぜ?」

息を吹き返さないか試してみる。それでも反応はない。

仕方がない。諦めて刀を走らせ、山賊の首を刎ねようとした。


・・・だが、その刃は首筋で止まっていた。


一瞬何が起こったかわからなかった。

カズキは確かに山賊の首を刎ねるだけの十分な剣戟を放った。そのための一閃だった。

だがそれは届かない。今も。

首筋で止まった刃と、それ以上動かない体。


(・・・・・なんだこれ?)


初めての体験に頭も心も真っ白だ。

今まで自分が刀を握ったら、必ず相手を斬り伏せてきた。

命を懸けてきたのだ。どちらかが死ぬ。それは必然だった。


なのに今は刀が、体が動かない。


やがて頭が真っ白な状態から平常に戻る。そして焦りが生まれる。

ここでカズキが相手の命を奪っておかないと、

今度は自分の命が四六時中狙われる可能性が出てくるのだ。

必死で首に刃を当てようとする。最悪首を落とさなくてもいい。

首筋には大きな頚動脈がある。これを斬るだけで致命傷になる。

だがそれすら適わない。まるで全身が押さえつけられているようだった。


非常に長い数秒の後、カズキは一度刀を戻す。


(戻すのは可能なのか・・・)

あまり喜ばしくない発見に苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

山賊はまだ放心状態だ。

今度は袈裟懸けに斬り込んでみる。相手の左肩に刃を落としてみるが、これも何故か止まる。


(・・・・・訳が・・・わからんぞ!?)




 2人の立ち合い・・・いや。

少年が一方的に山賊に斬りかかっているのだが、

それが何故か全て寸止めで終わる。

・・・いたぶっているのか?


そんな様子を見ている2人。が、いきなり荷車から飛び降り、

「なぁお前。さっきからなんで刃物振り回してるんだ?危ないだろ?」

いつもの調子で声を掛けるヴァッツ。

「いや。危ないも何も俺はこいつを斬り伏せたいんだよ。お前何だ?」

「オレ?オレはヴァッツっていうんだ。」

「ふーん・・・・・って、今はお前の名前とかどうでもいいから。」

再度山賊に向き合った少年は一度刀を納めると、先ほど使った腰の短刀を抜き、

山賊の太もも目掛けて体ごと刺しにいく。

かなりの身体能力があることが予想される少年が、体重を乗せての全力の突き。

しかし刃は届かない。その前で止まってしまう。

「ちっ!」

舌打ちをしてまた少年は短刀を退く。さらに一歩下がる。

そこにヴァッツが手を伸ばし、

「だからだめだって!」

掴まれた腕を、凄い形相で見ている少年。

恐らくヴァッツの怪力で掴まれた事に驚いているのだろう。

個人的に、その山賊は自分の命を脅かした存在だ。


(あの少年が目の前でさくっと斬り殺してくれれば少しは胸のうちが晴れるんだろうか?)


ぼーっと2人のやりとりを見ながらそんな事を考えていると、

「なぁ、たしかお前は、迷わせの森で会った奴・・・だよな?」

いつのまにか意識と顔色が戻っていた山賊が、ヴァッツに声を掛けていた。




 完全に生きることを諦め、呆然と立ち尽くしていた。

だが一向に剣撃が届いてこない。

気がつけば何やら別の少年が出てきて話をしている。


(・・・いい加減殺すなら殺せってんだ。何やってんだこいつ。)


時間は十分に稼いだ。部下もこれ以上追われる事も無いだろう。

現ボラムス市長に一矢報いる事が出来ないのだけが心残りだが後は残った奴らに任せるとしよう。

そう思って立ち尽くしていると、どうも聞いたことのある声だ。

ガゼルの横には以前、忌まわしい森で出会ったあの少年がいた。

何やらカズキと話している?それがひと段落するとまた剣閃が飛んできた。


・・・・・だが、やはりそれはガゼルに傷ひとつつけない。


あの少年、そしてこの届かない剣・・・・・

その2つがガゼルの脳に雷を走らせる。


(もしかして・・・あの森の出来事・・・もしかすると、こいつか?こいつが何かやってるのか?)


その後も幾度となく襲い掛かる剣閃は相変わらず寸止めで終わる。

その姿は紛れもなく以前の自分だ。カズキの表情も疑問でゆがんでいる。


(これは・・・これを利用すれば・・・助かるかもしれない?!)


「なぁ、たしかお前は、迷わせの森で会った奴・・・だよな?」

話しかけられてヴァッツが振り向く。

「・・・あ!あのときのおっちゃんか!」

「そ、そうだ!あのときのおっちゃ・・・うん、まぁおっちゃんだな」

あまり年を考えたことがなかったが、もう38歳だ。

自分ではまだ若い方だと思っているがここでその弁解をしている余裕はない。

「なんだ?お前ら知り合いか?」

ヴァッツに掴まれていた腕を振り払い、握っていた短刀を納めてカズキが問いかける。

「う、うむ。俺らは知り合いだ。だよな?」

「え?うーん・・・でもオレ、おっちゃんの名前も知らないよ?」

「あ、あああ!おれはガゼルっていうんだ!よろしくな!えー・・・っと・・・」

まずい。命綱の少年の名前が出てこない。そもそも覚える気もなかったし、

印象に残ってるのは丸太を抱えてた姿だけだ。

「君・・・名前、なんていうんだっけ?」

すっとぼけ気味に聞いてみる。

「オレか?おれはヴァッツ!よろしくな。ガゼルのおっちゃん!」

「お、おう!よろしくヴァッツ!」

周りからどう見えているのかはわからないが、とりあえずお互いの名前を確認した。

そしてガゼルは右手を出し、握手の形を求める。

それに喜んで答えるヴァッツ。握られた右手がぶんぶん振られる。


「ちょっと待て・・・なんだその茶番は?」


カズキが今まで以上に殺気を向けて2人を睨みつける。

「俺はもう山賊じゃない。ヴァッツの友人だ。だからお前に斬られる理由もない。な?」

開き直りつつ、そう弁明してみる。自分でも相当ふざけた真似をしているという自覚はある。

「てめぇ・・・山賊以前に人としての誇りもないのか!?」

怒気で吼え気味の声が周囲に響くと、

「ひぃぃ!?」

後ろめたさも相まって思わずヴァッツの後ろに隠れる。もはや外聞もクソもなくなっていた。

この作戦を実行するに当たって、それらは全て捨てたのだ。

「な、なぁヴァッツ。そのカズキっていう狂人をどうにかしてくれよ?な?」

「どうにかって?どうすればいいの?」

「とりあえず・・・そうだな。怒りを静めてもらえない?」

「・・・・・」

傍からみれば煽っているようにしかみえない一連の行動だが、

「だって。カズキっていうの?落ち着こう?ね?」

ヴァッツがいうとカズキは殺気を抑え、ふくれっ面で2人を凝視する姿勢に変わった。




 (ええええええええ!?)


一連のやりとりを見てて、クレイスは驚愕する。


(何で、何が、どうなったの?何でヴァッツがあの山賊と仲良くなってるの?

あのカズキっていう子は何であんな素直に剣を退いたの?あんなに怒ってたのに!?)


山賊は自身の身柄を狙っていた男だ。ここで斬り捨てられるのは間違いないと思っていた。

それが何故か和解に向かっている・・・もう訳がわからない!

「で、ヴァッツ達はどこに向かっているんだ?」

そんなクレイスの混乱状態をよそに、彼らの会話は進む。

「シャリーゼってとこに向かってるんだ。」

「シャリーゼか。また遠いとこだな。」

「そうなの?」

小首をかしげて尋ねるヴァッツに、

「ああ。ここから馬車でも10日はかかるだろう・・・よし。俺も一緒についていっていいか?」

「うん。いいよ。よろしくな!ガゼルのおっちゃん!」

「おっちゃん・・・まぁいいか。よろしくな!!」

あっという間に話がまとまってしまった。

斬りかかっていたカズキも一切口を挟む事無く腕を組んでそれを見守っている。

いつものクレイスなら、まぁヴァッツがああいう性格だから・・・と、軽く笑って流すところだが、


「反対っ!!!!」


誰も声を上げないのなら自身で上げるしかない。

そう思うよりも前に感情をむき出しにして荷車から上半身を乗り出し、大声で割って入る。

「うお!?・・・クレイス王子・・・そういやいたな。」

ガゼルが驚きの声をあげ、ヴァッツもカズキもこちらを見る。

「どしたのクレイス?何で反対なの?」

「何でって、そいつ!僕を殺そうとしてたんだよ!?」

あの時確かにクレイスは命の危険と人生を諦めるまで覚悟していたのだが、

ヴァッツにはそこまで伝わっていなかったようだ。

「あ、あーそんなこともあったねー・・・いや、拉致るのが目的だし、命は・・・

って今はそんなこと微塵も考えてないから!!」

慌てて弁解し始める山賊。その怪しい挙動が余計に嫌悪感を抱かせる。

命乞いをしているのはわかるが、胡散臭ささが限度を超えている。

その場しのぎが丸わかりの言い訳に、国や父を奪われた憎悪も加わりどんどん怒りがこみ上げてきて、

「ヴァッツ!!そいつは信用出来ない!!一緒に旅なんて絶対無理!!!」

大声で提案を否定するクレイス。

「そうなのガゼル?」

いつも通り軽い調子でガゼルに尋ねるヴァッツに、

「やだなぁヴァッツ!俺はウソなんかつかないって!もうクレイス王子に何かしたりしない!!約束する!!」

こちらは更に軽い芝居掛かった様子で調子よく答える山賊。

「んじゃ一緒に行こう!」

「ええええええええ!!!!」

クレイスは自分の言葉ではなく、

一度は自分を襲った山賊の言葉を信じてしまうヴァッツの決定に落胆の声を上げた。

彼自身、凄く純粋なのでわからなくもないのだが、やはりここは感情が表に出てしまう。

非常にガッカリした表情をしたのがヴァッツにも伝わったのか、

「・・・そんなに嫌?ならやめとく?」

聞き返してくれる優しさに思わず笑顔を取り戻すクレイス。

(もう少し強く願えば反対意見が通るはず・・・!)

そう思った矢先、

「いいじゃねーか。一緒に連れて行ってやれよ。」

思わぬところからヴァッツと山賊への肯定意見が割って入ってきた。

「ちょっ!?カズキ・・・君!?」

「おおー!さすがカズキ!話がわかるねー!」

予想外の援護に今度はガゼルが満面の笑みを浮かべる。

(この子、誰の味方なの?!)

最初は明らかに山賊を斬ろうとしていたはずのカズキ。この手の平を返す発言は一体どういう事だろう?

開いた口が塞がらないクレイスをよそに、

「だよなー!人が多いほうが旅も楽しそうだし!!」

ヴァッツだけは何もわからず、ただはしゃいでいる。


「ただし。俺も一緒にいく。」




 さらりと言い切ったカズキの発言に

「・・・・・ハ?」

ガゼルはさっき斬り捨てられそうになった時より驚いた顔をしていた。

「だーかーら。俺も一緒に行くって言ってるんだ。いいだろ?ヴァッツ」

「おう!いいぞ!!」

(さっきの山賊との話を見た感じ、こいつは何も考えていない部類の人間だ、しかし・・・)

カズキは一連の出来事を思い返す。


(こいつが出てきてからだ。俺が斬れなくなったのは。)


更に腕を掴まれた時、同じ現象が起きた。

そう、体が動かなくなったのだ。

恐らくガゼルも何かに気が付いている、だから今の行動に移したのだろう。

でなければ、いきなり現れた少年と仲良くなりましたー。

なんて茶番を演じるはずがない。

ならばこちらもそれに乗る。つまり共に行動するのを選ぶ。

そして観察し、考察する。

現時点ではどういうカラクリかさっぱりわからないが、

一緒にいれば何かつかめるかもしれない。それに、


「い、いや・・・カズキ君は武者修行中・・・だっけ?色々忙しいでしょ?」

「ああ、色々やることはある。だが特に宛てがあって旅してるわけじゃないしな。」

明らかに顔色が悪くなっていく山賊をみて口元に笑みを浮かべる。

このどうしようもない山賊崩れを絶対斬り捨ててやる。そう心に誓い、

「それに、クレイス?だっけ?」

「は、はい。」

「お前、こいつに身柄を狙われてたんだろ?

だったらもし、旅の途中で下心を見せたら、その時は俺が叩き斬ってやる。どうだ?」

「!! そ、それなら僕も大賛成です!!」

「・・・・・」

顔色と覇気がどんどんなくなるガゼルをよそに

「てなわけだ。よろしくな。ヴァッツとクレイス、それとリリーも。」

「やれやれ。面倒事はなるべく避ける様に言われてるんですが。まぁ・・・後で尋問出来るのは収穫か。」

紅い目を光らせて山賊の顔を睨み付けると、身震いし観念した様子のガゼル。


こうしてクレイス達一向は、

自身の命と仲間を守る為に、それ以外の物全てを代償にした山賊の頭目と

その命を狙う武者修行中の少年を新たに加えたのだった。

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