アルチェ・サンクタム メランコリー・ディテクティブ

浦河蟋蟀

Prologue

 見慣れたはずの会議室が、いつもより煤けて見えた。

 安物の椅子に腰掛けて、彼女は目の前の女を見つめている。ホロ・モニタが映し出す女を。

(誰だ)

 そう思った。

 正面にこちらを向いたその顔を、たしかに彼女は知っている。

 五年間、いつも隣にいた女の顔。一週間前、永遠に見ることができなくなった女の顔。

 だがその顔と、いま目の前に浮かんでいる映像が、彼女にはどうしても同じものに見えなかった。

『…ごめんね』

 映像が動き、スピーカーから女の声がした。

『あなたには、話しておくべきだった…ジェニー』

 低い、後悔のにじむような声。

 彼女はおもむろに立ち上がる。

 そのまま、同僚やSOC社のエージェントが止める間もなく、彼女は椅子を掴んでホロ・モニタに叩きつけた。

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