◆戦禍の大地に咲く百華◆  第一幕 傷に芽吹く火種(全115話)

第一幕 01話 終わりの幕開け_1



 桃色の唇が重なる。

 熱くて柔らかくて、私を溶かしてしまいそうな熱い口づけ。



「ん、はぅ」


 離れていくそれを感じて、両手で白い肩を掴まえて、引き寄せた。


「……?」


 不思議そうに、彼女の瞳が私を覗き込む。


 深い赤色の瞳。

 濃い血色の宝石のような瞳が、暗がりの中でも私を映す。



「ルゥナ?」

「……」


 彼女の声に答えず、もう一度唇を押し当てた。


「んっ……」



 無理やりな形で押し込まれた私の想いを、彼女は受け入れてくれた。

 そのまま、もう一度お互いの存在を確かめるように熱を与え合う。



「……ん、ふぁ……どうしたの、ルゥナ?」


 私の行動を訝しむ彼女を、今度は胸の中に抱きしめた。


 いつものことだ。

 彼女は大体いつも私の胸に抱かれて眠る。

 普段は冷たい雰囲気を作っていても、眠るときは私の胸の中で。


「……いいえ、アヴィ」


 甘えん坊なので。彼女は。

 今でも、母に抱かれて眠ることを望んでいる。


 それが適わないから、代わりに私の温もりで代用しているだけ。



「……今日のこと、怒っているの?」


 胸の中で、珍しく彼女が私の心情を慮るような質問をしてきた。

 記憶にある限り初めてのことのように思う。まだ長くない付き合いだけれど。


 そんな質問が出るということは、彼女自身も少しは気が咎めるところがあったのだろう。



「怒っているわけではありません。アヴィ」

「……そう」

「少し嫉妬しただけです」



 ぎゅうっと、少し強く彼女を抱きしめた。

 痛いくらいに。


 私が大丈夫かと思うほど強く抱きしめても、彼女には――アヴィには特に問題ないだろう。


 彼女は強い。他の者がとても及ばないくらいに強い。


 こうして全力で抱きしめていても、アヴィがその気になれば簡単に抜け出してしまえるはず。



「……大丈夫よ、ルゥナ」

「……」


 初めて会った時から、彼女は私に姉のような言い方をしていた。

 ぼろぼろで、泣き叫んで、ひどく打ちのめされた瞳のままで、私を導くようなことを。



「貴女だけ、だから……母さんの子は」


 アヴィが私の手を強引に潜り抜けて、私の目の前に瞳を合わせる。

 額と額が、鼻と鼻が、触れ合う。


「貴女だけが、特別」

「……嘘です」


 本当よ、と言いながら、今度は優しく唇が触れていった。



  ※   ※   ※ 

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