第50話 まさに、幽霊がやってきた
将棋ウォーズで遊んでいたら、いきなり11手詰めが出現して、心が震えた。というか、対局後にまず心がざわざわして、それから歩くのがぎこちなくなり、手元が覚束なくなった。何かが降りてきたのが、後になって分かったような感覚だった。幽霊が乗り移ったような感覚。
その最後の局面で、実際には何も読めてなくて、最初の二手は苦し紛れだったし、四手目くらいになって、やっと終わりが見えて、しかし必死だった。
この詰み筋が、持ち駒をきっちり使い、盤上の駒が全部機能して、それでぴったり詰んだので、本当にびっくりした。こちらは最善手を手探りで探す一方、相手は玉の逃げ場がひとつしかない展開で、本当に僕が間違えなかったのが奇跡に思える。
だいぶ攻められて、受けが成立しなくなる際どいところで逆襲できて、そこも出来過ぎ。
よく、麻雀で九蓮宝燈を上がると死ぬ、とか言うけど、それくらい僕の実力を遥かに超えた、信じられない指し回しで、本当に怖い。死ぬんじゃないかと思うほど、自分が自分じゃない感じ。
羽生善治さんの手が震えるのはよく聞く話ですが、それが少しわかった気がします。僕は対局が終わって勝ってから、詰み筋を正確に読めたことに震えるけど、プロ棋士になるともう間違いない筋を辿るだけで、僕が感じたような、読み切った、勝った、という感覚、確信が、相手が投了するより先に心に差すんだと思う。
しかしあの筋が最初から見えるような棋力が身につくとは、とても思えない。10秒将棋でよく読めたと思う一方、ほとんど勢いだった。この勢いは10分切れ負けとかだと、発揮されないと思う。まぁ、相手もあんな局面を作らない、という側面もある。
結局は全ての事故の最後の最後にまっすぐな道に辿り着いて、突っ走れたようなもので、僕には序盤戦術はないし、中盤もまだまだ弱い。終盤にヘタを打つ場合もある。とにかくまだまだ続けよう。もう引退したけど、相撲取りの安美錦が、勝負だから辛いことばかりだけど、いいこともある、という趣旨のことを言っていたなぁ。将棋も勝ち負けの世界で、辛いことが多いけど、11手詰めみたいな良いこともある。
あー、もう、疲れたけど、感動した。
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