軽井沢オフ会事変
煌 しずく
第1話 全員集合
登場人物(50音順)14名 (どこかでご存じの名前があっても気のせいですw)
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【プロローグ】はじまりのメール
三月一日。
あるネットサークルメンバー十四名に、差出人不明のメールが届いた。
『三月の祝日連休を利用して、
さらに、旅費には多すぎるほどのアマズン商品券がついていた。
確認のため宿泊予定である長野県軽井沢町の貸別荘の管理会社に電話する。
返ってきた返答は、既に予約が入っており支払いも済んでいるとのこと。
幸いなことに全員休みがとれる。
みな心躍らせながら、お祝いがてらオフ会をしようということになった。
【第1話】全員集合
当日は穏やかな日差しだった。
貸別荘管理棟の横にレンタカーが一台止まる。
「ふぅ。やっと着いた」
運転席から降りてきたのは細身で中背の男性。
助手席にはセミロングのピンクベージュ色した髪の女性。
距離的に一番遠いので当然かもしれない。
後部座席には
通称ネコちゃん がのんびりとリラックスしていた。
西日本方面から参加組の三名は相談して同じ新幹線だったのだ。
降りた駅でレンタカーを探して、ここまでやってきたのである。
「カギを貰ってきますね」
「宜しく~」
「お願いします」
管理棟へ向かおうとした雄太朗の方へ制服姿の男性が近寄ってきた。
「オフ会の方ですよね?」
「そうです」
「はい。これが玄関のカギ。こっちがスペア二本。そして別荘内の地図三枚です」
受け取った雄太朗は不思議な顔をした。
「どうして分かったのですか?」
「この連休中の利用者はみなさんだけなんです」
「えっ? 僕たちだけ?」
「はい。今年は暖冬で雪が降らなくて。スキー客の予約がサッパリなんです。困ったものですよ」
「それはお気の毒ですね」
「ご利用される別荘は、ここから一番奥です。道はずっと一本ですから分かりやすいですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「カギをくださるということは、私たちが一番最初ですか?」
車から降りてきたしずくが尋ねる。
「はい。そうです」
「ラッキー。一番乗り!」
「しずくさん。やりましたね」
一番乗りをなぜか喜ぶしずくとねこちゃんであった。
別荘に到着し、玄関扉を開けたふたりは更にテンションをあげる。
「うわー! 豪華!」
「きゃー! ステキ! ステキ!」
入ってすぐは広さ五十畳ほどのリビング。
豪華な十人掛けのソファーに広長のダイニングテーブル。
カウンターバーまでついていた。
その奥がキッチンになっており、広いカウンタータイプのキッチンテーブルがみえる。
室内の見取り図には、地下にビリヤード台まで設置されていた。
二階が寝室で、四人部屋が三つと二人部屋が二つある。
「これは凄いな……」
雄太朗も感動していた。
「ん?」
ソファーテーブルの中央にA四サイズの紙が一枚置かれている。
「なんだろう?」
雄太朗は手に持った。
そこには二階寝室の部屋割りが書いてあった。
階段上がってすぐ左の四人部屋には、
左の突き当りの四人部屋には、
女性たちの向かい側の四人部屋には、
その隣の二人部屋に
「シリウスさんがひとり? なんでこんな部屋割りに?」
そこへ車の音がする。
入ってきたのは荷物を肩に担いだ革ジャンにベレー帽の男ひとりであった。
「よお! だれかな?」
はなはだ不思議な挨拶である。
だが、この状況から考えると妥当ともいえた。
「もう少しまともな挨拶があるんじゃないですか? ひまぽさん」
「あれ? なんで分かった?」
「車を運転してひとりで来るなんて、ひまぽさんしかいませんよ」
「君だってひとりじゃないか」
「いえ。僕はひとりじゃありませんよ」
そんなふたりの頭上からこえがする。
「えっ⁉ ひまぽさん?」
「どこどこ?」
「「やっほー!」」
二階廊下の手すりから顔がふたつ覗いていた。
ネコちゃんとしずくである。
「あ。なんか想像通り」
「えー? そうですかぁ? ボクの想像とはちがうー」
「だれ?」
驚くひまぽに雄太朗がクスリと笑う。
「しずくさんとネコちゃんですよ」
「は?」
「そして僕が雄太朗です」
「そうなのか⁉ まあ、よろしく」
「こちらこそ」
「「よろしく~」」
四人がお茶を飲みながらソファーで寛いでいると玄関のベルが鳴った。
「今度は誰だろう?」
そういいながらネコちゃんが玄関へ走る。
扉を開けると長身の男性ふたりと女性がひとり、中背の男性ふたりが立っていた。
全員疲れた顔をしている。
「ネコでーす。宜しくです。長身の若いのはライさんで、老けてる方はもうきんるいさんですね?」
「正解です。よろしくです」
「老けてる方……。もう少しいいようが……」
「そして髪が短いから凛さんだ」
「正解!」
すると
「ネコ~! やっと実物をいじめてやれるぜ」
「げっ! 高木くん!」
逃げようとするネコちゃんを
「ちょ! ロープ! ロープ!」
「いんや。ロープなし!」
速攻でじゃれ合うふたりであった。
「みなさん。はじめまして」
「「「岸さんだ」」」
最後に入ってきた男性にソファーに座っている三人が叫ぶ。
「はい。岸です」
関東在住組が揃ってやってきた。
「車の音がしなかったけど。まさか歩いてきたんですか?」
雄太朗が驚いて尋ねる。
「そうです……。表にあったレンタカーはどなたが?」
もうきんるいが質問した。
「ぼく、雄太朗と」
「ぼく、ネコと」
「は~い。しずくです」
三人が手をあげる。
「じゃあ。あの派手な車は?」
「ほい。ぼく、ひまぽのですよ」
「いい車に乗ってますね」
「褒めてくれてありがとう」
そこへ
「やっぱり駅でレンタカー借りればよかったのよ。まったく!」
「そしたらボクもっと酔ってましたよ」
ライである。
「バスでも酔ったじゃない」
「う~」
「駅で別れればよかった」
「ひどい!」
「まあまあ。吐かれなかっただけ良しとしましょう」
もうきんるいが宥める。
「バス停からの歩きは疲れた……。管理棟から距離ありすぎー」
「雄太朗さんが作った部屋割りがあるから。荷物おいてゆっくりしよう」
「しずくさん。ありがとう」
「えっ? ぼくが作ったんじゃないですよ」
「えっ? 違うの?」
「このテーブルに置いてあったのですよ」
「私たちが最初なのに? その前に置いてあった?」
「ありましたけど……」
「まあ。いいじゃん。早く荷物を置いておいでよ。みんな」
しずくの疑問はネコちゃんの元気な声にかき消された。
賑やかになったリビングに再びベルが鳴った。
「はい。は~い」
今度もネコちゃんが玄関へ向かう。
興味津々なのである。
入ってきたのは中背で黒い長髪をひとつに束ねている女性だった。
大きな荷物を担いでいる。
「はい。みなさん、はじめまして。涼です」
サークルで使っているネット掲示板そのままのしゃべり方なので全員笑いながら挨拶する。
「「「「「「「「はじめまして!」」」」」」」」
「涼さんお久しぶりです」
「あら。しずく様。おひさしぶりです」
このふたりは面識があるので、手を取り合ってキャアキャア喜んでいる。
「涼さんも歩きですか?」
「そうですよ。えーと」
「凛です。バスですか? お会いしなかったですけど」
「あー。バスはここまでちょうどいい時間のがなかったから、途中から歩いてきた」
「はっ? 途中からって、どこからですか?」
「忘れちゃった」
「…………」
相変わらずの徒歩派であった。
そこへネコちゃんのスマホに電話が鳴る。
スピーカーにして全員が聞けるようにした。
「もしもし?」
「ねこさん~。ほのかです。バスがないのです。どうすればいいですか~?」
「えっ? いまどこ?」
「一番近くの駅です」
「ほのかちゃんです。どうしましょう?」
「じゃあ。車で迎えに行きましょう」
雄太朗がソファーから立ち上がる。
「ほのかちゃん。雄太朗さんが迎えに行くから待ってて。なんか目印ある?」
「あ。全身ピンクですから分かると思います」
「わかった。行ってくる」
「あ! もう少し買い物したいから、私ついていきます。お茶の葉とジュースは少しありますが、他には何もないし」
しずくが立ち上がる。
「夕食どうしましょう?」
「そうですね」
そこへまたもベルが鳴った。
「はーい」
ネコちゃんが扉を開けると、宅配業者が荷物を抱えて立っている。
「ほえ?」
「こんにちは。オリハラケータリングサービスです。お料理と飲み物をお持ちしました。なかにセッティングさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「だれが頼んだのですか?」
「ご依頼主は田中さまとなっております。代金も先に頂いてます」
「田中?」
ポカンとするネコちゃん。
「ネコ~。そこどかないと入れないぞ」
誠也が声をかける。
「あ! ごめんなさい。どうぞ」
「失礼します」
「あそうだ。それから、こちらの方もお連れしました」
「はじめまして。みなさん」
入ってきたのはメガネかけた40代の小太りおっさん。
「「「彦さんだ!」」」
ネコちゃんとライと誠也が叫ぶ。
「書き込み。そのまんまね」
「ほんとだ」
ポソリと呟いた凛のそばで、しずくが笑う。
サービス業者は手際よくダイニングテーブルに料理やジュースに酒類を並べていく。
「以上です。では、ありがとうございました」
そういって帰っていった。
豪華な料理に全員が呆然とする。
「はっ! いけない。ほのかちゃん」
我に返った雄太朗が慌てる。
「急ぎましょう。雄太朗さん」
雄太朗としずくは急いで出て行った。
「美味しそう」
料理をつまもうとしたしたライの手を凛が軽くたたく。
「こら。みんなが揃うまでだめです」
「はーい……」
「でも飲み物ならいいでしょう? こんなにいっぱいあるし」
ネコちゃんが食い下がる。
「まあ、それくらいならいいか」
「わーい。ライさん。飲もう」
「飲みましょう」
「じゃあ。ボクも」
誠也も混ざった。
「あと来てないのは?」
「お兄さまと燦さまですな」
キッチンでデザートにとチーズケーキをオーブンに入れた涼がリビングに戻ってきた。
「遅いね」
「流石にもう少ししたら到着するでしょう」
ひまぽと岸が話す。
その横でもうきんるいが居眠りをしていた。
日が落ち始めたころ。
車二台が戻ってきた。
一台は雄太朗としずくとほのかである。
二台目は
「ただいま~」
「お邪魔します」
荷物を抱えたしずくと雄太朗。
そしてほのかが続いた。
「こんにちは。お久しぶりです」
燦がにこやかに入ってくる。
各地で行われたサイン会以来の再会であった。
「燦さま」
「燦さん。お久しぶりです」
皆が燦を取り囲む。
「はじめまして」
最後に黒い服を着た男性が入ってくる。
「シリウスさんですね。はじめまして」
「ん? どうして、分かったのかな?」
「もう。シリウスさんで最後ですよ」
「みんな集まってます」
「そう、ですか」
「どうして燦さんとシリウスさんが一緒だったのですか?」
「駅前のコンビニで飲み物買っていたら、シリウスさんに声をかけられました」
「あ! そうか。燦さんの顔だけはみんな知ってますからね」
「そうそう。サイン会ではお世話になりました」
「いえいえ。こちらこそ皆さん集まってくれて感謝です」
そんな会話をシリウスが無言で眺めていたのを誰も気付かなかった。
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