従業員、ゴリラに腕を噛まれ骨折

@akai4547

第1話 ユキヒョウ


 目の前に冷たい世界が広がる。


 高低差8mの大パノラマの高山地帯には、しんしんと白雪が降り積もり、何層にも積み重なったガレ山の上に白い絨毯を広げた。


 その雪の上に美しい生物がいる。


 全身を覆う毛皮は、雪に溶け込む白。そして、背中や体の側面は青みがかったグレーや黒ブチや縁取りの模様がある。

 人の頭でも簡単に砕いてしまいそうなほど巨大な口に、真っ白な毛が何本の生え、威風堂々の野獣が姿を現した。


 名を、ユキヒョウという。


 曇天の空を映したような灰色の瞳に、ガラスの向こう側の俺達を見ているようだった。


 そうしている間にも、天井の隙間がスッと開いて、バタバタと音を立てる鶏が一羽投げ込まれた。


 地面に降り立った鶏は、急いで体勢を立て直す。しかし、ユキヒョウの主食はこのような小型の鳥。風の様なスピードでたちまち追いかけっこが始まった。


 それを追いかけるように観客はこちら側で走る。

 思いっきり走る。


 すると、おかしいことが起きた。

 やけにリアルな、”まるでガラスさえもないような”姿のユキヒョウが目の前を駆けていた。

 鶏もいまだ健在であり、一心不乱に飛び上がり、転び、こちらに走ってくる。



「キャアアアアアアアア!!!!」


 女性の悲鳴があった。

 何人もの人がスマホを取り出して撮影を始める。


 なぜか、ユキヒョウが、こちら側にいた。

 観客の側。絶対に入ってはいけない方に。


「嘘だろ?」


 全力疾走して、もまるでダメ。いつしか鶏にまで追い抜かれ、自分のすぐ隣を荒い息をした猛獣が駆け抜けるのを、その風で知った。



 

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