#51 逆転のカード
バトルフィールド上の銀河竜皇は全身に電流が走り身動きが封じられている。
しかしこの状況においても、コスモは愉しげな笑みを崩さなかった。
『クックックック、嬉しいぜライオンハート。
鏡の破片に光線を反射させてターゲットを狙い撃つなんて高等テクニックは簡単にできるもんじゃない。
反射した光線がどこに飛んでいくか、コントロールをつけるだけでも一苦労だろうさ。
それだけでお前達がこの試合の為に相当な練習を積んできたのがわかる。
しかもラビット・バレットと
そして目をキラキラに輝かせながらテンション高く言葉を吐き出す。
『俺は嬉しいぜ!
ライオンハートは決して即席チームなんかじゃない! チーム練習を積んで、連携技まで使いこなすような熟練のチームだ!
こんな強い相手と戦えるのが嬉しくてしょうがねえ!』
「あら、なんだかベタ褒めね」
チーム内で一番経験の浅い水零が、照れた様子でそう吐き出す。
競技人口の少ないトレジャーハントバトルでは、本当に強いチームと出会えることは稀だ。
だからこそコスモも、俺達との試合をこんなに喜んでくれているのだろう。
その一方、盛り上がるコスモとは対照的にクロリスが冷たい視線を彼に向ける。
『それで、どうするんですか? この状況』
『ん?』
バトルフィールドでは無抵抗となったコズミック・ドラグオンがバレット・ラビットのレーザービームを浴びていた。
『このままだとコズミック・ドラグオンはサンドバッグですよ。何か対抗策はあるんですか?』
『ふっ、なんだそんなことか』
キザな笑みを浮かべながら彼は告げる。
『宇宙より広い俺の
自信満々に言うことじゃないぞコスモ。
しかし、と彼は言葉を続ける。
『
その時、ラビット・バレットの足元の地面が揺れた。
ウサギガンマンがその場所を飛び退くと土が盛り上がり、大地を突き破って大槍が飛び出してくる。
ちっ、やっぱり大人しくしてはくれないか。
地中から現れた槍騎兵はそのまま近くに着地し、ラビット・バレットと向き合う。
『油断したなコスモ。とはいえ
五秒間隔で相手を撃ち抜く正確無比な光流の射撃テクニック。
敵が一体の時は恐るべきハメ性能を誇るが、二体を相手にしながらその精密な狙い撃ちを維持するのは彼女と言えど難しい。
光流は表情を引き締め、威勢よく言葉を吐き出す。
「お馬さんにドラゴンさんですか、いいでしょう! もう一度私の銃で痺れさせてあげます!」
そしてガンショット・コントローラーの引き金を引く。
ラビット・バレットの銃口から光線が放たれ、真っ直ぐにユニコーンに迫る。
しかし直後にユニコーンの正面に闇色の球体が出現、即座に闇は体積を増し、光線を呑み込んでしまう。
『ブラックホールシールド。宇宙の闇はあらゆる光を喰い尽くす』
コスモの言葉と共に、青き竜王がユニコーンの隣に並び立った。
ちっ、もう
ラビット・バレットのレーザー光線を消滅させるブラックホールシールドの復活。
形勢はどんどんこちらの不利に傾いていく。
「お兄様」
小さく呟きながら彼女がチラリと俺を見た。
俺はそれに頷き返しながら、通話を切って指示を出す。
「よくやったひよこ。時間は十分稼げたし、こちらのゴールデンマドールは無敵の聖域に守られてる。お前も撤退しろ」
「はいっ!」
元気よく光流が頷く。
そしてその手に持つピストル型コントローラーのグリップについたボタンの一つを押す。
「ガンショット・コントローラー、マクロBアクティブ! 必殺コマンド、ラビットファイア!」
マクロコントローラーは人間の操作を記憶し、ボタン一つでそれを再現できる。
彼女の持つガンショット・コントローラーも、五秒間隔で銃を撃つマクロ以外にも複数のマクロを登録していた。
複雑なコマンド入力を必要とするマドールの必殺コマンドも、マクロボタン一つで呼び出すことができるのだ。
バトルフィールドに立つウサギガンマンが両手の銃を空へ向け、引き金を引いた。
銃口から連続して光線が放たれ、青空へと舞い上がった無数の光線が流れ星の如く青き竜王と鎧騎士へと降り注ぐ。
『ちっ! ブラックホールシールド
コスモの言葉と共に暗黒の球体は巨大化し、コズミック・ドラグオンの倍ほどの大きさに成長する。
ラビット・バレットが雨のように絶え間なく放つ光線の全てが闇へと吸い寄せられ吸収されていった。
『無駄だ。たとえ何千発撃とうがコズミック・ドラグオンに光属性攻撃は通用しない!』
コスモのその言葉に、俺は再度通話を繋げる。
すると光流はクスリと笑って口を開いた。
「それはどうでしょう? 私の本当の狙いはこちらですよ」
配信画面の上部に表示されたラビット・バレットのパワーゲージが急激に上昇する。
それを見てコスモも、視線を鋭くした。
『これは!』
「ラビット・バレットの
光線の連射をコスモが凌いでいる間に、ラビット・バレットのパワーゲージは物凄い勢いで増えていく。
『そうか、キミの狙いは
コスモはウサギガンマンを睨む。
そこで彼がコントローラーを操作すると、コズミック・ドラグオンが背負ったキャノン砲が肩へと移動し、その砲門がラビット・バレットに向けられた。
だがすぐに空から光り輝く流星群が降り注ぎ、コスモは目元を歪める。
『ちっ、ブラックホールシールド!』
巨大化した闇の球体が光の雨を吸収し、呑み込む。
ラビット・バレットの必殺コマンド、ラビットファイア。
その効果による絶え間ない光線の連撃の前には、ブラックホールシールドで防御に専念せざる負えないだろう。
反撃の隙を与えないまま、やがてラビット・バレットのパワーゲージは上昇を続け、百パーセントに到達した。
「よし、これで準備は整いました!」
光流がガンショット・コントローラーのボタンを押すと、ラビット・バレットが首から下げた懐中時計の蓋が開き、針が高速で回り始める。
「ラビット・バレットの
そしてウサギガンマンの輪郭が徐々に薄れていき、その体が透明になっていく。
「
無敵状態。
つまり透明になったラビット・バレットに攻撃を当てたとしても、ダメージは発生しないということだ。
その説明を聞き、コスモは頷いた。
『なるほどな。そちらのビーム攻撃はブラックホールシールドに防がれ通らないが、こっちの攻撃も無敵状態のウサギちゃんには届かない。
お互いに最強の盾を構えて手出しできない状態ってわけだ』
「はい、ご理解が早くて助かります」
ニッコリと微笑みながら光流は告げる。
「それでは、私は退散させていただきますね」
完全に透明になったラビット・バレットは、足音を響かせながらドラグオンから離れ、その場から逃げ去っていく。
姿の見えない相手を追いかけることもできず、コスモは脱力したように息を吐き出した。
『十五分間の絶対防御結界に、十分間の無敵状態か。ライオンハートは逃げるのが得意だな』
奴の言う通り、ここまでの試合展開はライオンハートの防戦一方だ。
「先輩! あんなこと言われて悔しくないんすか? そろそろ反撃するべきっすよ!」
そこで琥珀が痺れを切らして立ち上がったので、俺は通話を切って彼女の方を向く。
「だいたいさっきから水姫さんやひよこばっか戦って! 先輩は何してるんすか!」
「いや、俺はちょっと野暮用がな」
琥珀の疑問は尤もだ。
俺のプロミネンス・ドラコは、バトルフィールドの半分を超えて敵陣へ侵攻している。
とは言えこのまま相手のゴールデンマドールを倒そうにも、石化の呪いで鉄壁の防御力を得ている奴らのキングは倒せない。
「おっ、アイテム見っけ」
プロミネンス・ドラコが飛行しながら森林フィールドを移動していると、近くの木の枝に
とにかくこの状況を打開するアイテムが来て欲しいところだ。
「ヒナくんは何のアイテムを狙ってるの?」
水零がそう訪ねてきたので、俺はコントローラーを操作しながら答える。
「いくつか候補はあるが、一番欲しいのはリペアメモリーだな」
リペアメモリー。
破壊されたパーツを復活させることのできるアイテムだ。
「リペアメモリーの効果でプロミネンス・ドラコの壊れた
とはいえ
運を天に委ねるしか無い。
赤き竜は木の上にある
さあ、何が出るかな?
「お願いします。リペアメモリーきてください」
光流の祈りの言葉とともに、テーブルに投影された立体映像にアイテム情報が表示された。
引いたアイテムは――レッドカード。
レッドカード。このアイテムの効果は確か――
俺は少しの間、黙考する。
石化した敵のキングマドール。その攻略法。
今手に入れたレッドカードの効果。
待てよ。あれを使えば――
「あっ、いけるぞ! これなら相手のゴールデンマドールを倒せる!」
「マジっすか!」
琥珀の驚き声につられて、俺は彼女に視線を向ける。
「ああ、クロリスの操る石化の呪い。その攻略の鍵はお前だ、虎衛門」
「わ、私っすか!」
琥珀が自分の顔を指差しながら驚いているところで、俺はプロミネンス・ドラコを近くの
森の中のある一点。地面に淡く光る円が描かれている場所がある。
赤き竜は羽を畳んで、そこに着地した。
「よし、選手交代だ。頼むぜ」
「おおっ、ついに私の出番が来たっすね。暴れてくるっすよ」
そう言って琥珀は意気軒昂と手裏剣型コントローラーを握りしめた。
そしてプロミネンス・ドラコと入れ替わりに、黒い忍び装束に身を包み、頭に虎の被り物をした忍者戦士が森林フィールドの土を踏む。
「アイテムパスだ。レッドカードをお前に託す」
「サンキューっす先輩。なるほど、これは大河忍者の出番ですね」
作戦の説明などは一切しなかったが、流石はトラップ使いの琥珀。
レッドカードを受け取った時点で、その使い方を理解したようだった。
そして大河忍者はアイテムを手に、地面を疾走する。
「大河忍者の
そして
大河忍者の
しかし琥珀はボタン連打などは行っていない。
なぜなら彼女の持つ
これで琥珀は通常の操作に集中しながら、
大河忍者は風のような速さで地面を駆け、森を抜ける。
そして草原を走り続けると、その先に敵のゴールデンキングマドールが見えてきた。
その正面に立つのは、宝の守り人。
ハープを抱えた黒いドレスの少女型マドールが、金色の長髪を靡かせていた。
クロリスの操るブラック・アリスだ。
『おや、新しいお客様ですか。それではごゆっくりお寛ぎください』
穏やかな顔でそう歓迎するクロリス。
それに対して琥珀は不敵に笑う。
俺が再度通話を繋ぐと、琥珀は楽しげに言葉を吐き出した。
「生憎ですけど、ゆっくりなんてしないっすよ。風よりも
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