#50 竜皇の死角
それはエキシビションマッチの数日前のことだった。
ある日の夕方、俺がリビングへ行くとソファには難しい顔でゲーム機とにらめっこしている亜麻色髪の少女がいた。
「どうした光流? なにか悩みごとか?」
彼女が持っているゲーム機の画面をチラ見したところ、そこには何体かのマドールが表示されていた。
マドールのセッティングについて悩んでいるのだろうか?
だとすれば数日後に迫ったコスモとのエキシビションマッチが関係してるのかもしれない。
チームリーダーとして放ってはおけなかった。
「あっ、お兄様」
彼女は俺の顔を見上げると、躊躇いがちに言葉を吐き出す。
「実はコスモさんとの試合のことを考えてまして。私はラビット・バレットを使うのをやめて、他のマドールを使った方がいいんじゃないかなと思ったんです」
彼女がそんなことを言い出した理由については心当たりがある。
「そうか、前に土倉と戦った時のことを気にしてるのか」
数日前に土倉がウチに遊びに来たとき、光流は彼のコズミック・ドラグオンになす術なく敗北した。
ラビット・バレットの光線銃を無力化するコズミック・ドラグオンのブラックホールシールドはまさに彼女の天敵と言える。
戦う相手が事前にわかっている今度の試合では別のマドールを使った方が勝算があるのでは?
そう考えるのは自然なことだと思う。
だが――
「俺はそうは思わないな。ラビット・バレットのレーザーガンで相手の動きを止めるのはお前の得意戦法だろ。
たとえコズミック・ドラグオンには通用しなくても、相手チームの他の四機には十分有効な筈だ」
ラビット・バレットは彼女が長年愛用してきたマドール。光流の経験と実力が一番発揮できる機体だ。
自分の一番の武器を捨てて付け焼き刃で別のマドールを使っても、きっといい結果には繋がらないだろう。
ベテランのゲーマー同士の戦いは、長年の経験で培った互いの得意戦術のぶつけ合いになる。
その上で自分の戦術が相手の戦術に相性不利となることもあるだろう。
だがどんな時でも自分のスタイルを曲げるべきではない。それが俺の持論だ。
俺は光流の肩を叩きながら告げる。
「いいか光流、今お前がやるべきことはひとつ。ラビット・バレットでコズミック・ドラグオンを倒す方法を見つけることだ」
「えっ」
光流の表情が固まる。
以前、コズミック・ドラグオンに完封された彼女にしてみれば無謀な提案にも聞こえるかもしれない。
俺は人差し指をピンと立てて、とっておきの秘密を話す。
「実はな、コズミック・ドラグオンも無敵じゃない。ブラックホールシールドには大きな弱点があるんだよ」
ラビット・バレットがコズミック・ドラグオンに一方的に不利な件については俺も以前から対抗手段を探していた。
チーム練習が軌道に乗ってる今なら彼女にこれを教えていいタイミングだろう。
そうして俺は光流に、ラビット・バレットでコズミック・ドラグオンを倒す秘策を授けた。
その日から光流の特訓が始まったのだ。
光流がガンショット・コントローラーを構え、テーブルに投影された立体映像に向けて引き金を引く。
同時にラビット・バレットの銃口から光が放たれた。
だが光線はあらぬ方向へ飛んでいき、敵マドールには掠りもしない。
「また失敗か。やっぱりこの作戦は無茶だったかな」
「いえ、お兄様の作戦は間違ってません。もう少し練習すれば形にできそうなんです。水零さん、もう一度お願いします!」
俺の不安を打ち消すように光流はポジティブな言葉を吐き出す。
それに対して一緒に練習していた水零も明るく快諾する。
「うん、いいよ光流ちゃん。何度でも付き合うから」
チーム戦だからこそできる秘策。
これが完成した暁には、きっとコスモのコズミック・ドラグオンを倒す切り札になる。そう信じて俺達は練習を続けた。
そして今、磨き続けた技が日の目を見る!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラビット・バレットは両手に光線銃を構え、コズミック・ドラグオンと対峙する。
配信画面のコスモは楽しそうに笑いながら、コントローラーを握る。
光流もまたガンショット・コントローラーを構えてテーブルに投影された立体映像に狙いを定めた。
「
言葉と共にウサギガンマンが左手に持つレーザーガンから一筋の光線が吐き出された。
それは真っ直ぐにコズミック・ドラグオンへ向かっていく。
この攻撃を許すわけにはいかないだろう。
そこでコスモは嬉々として言葉を吐き出す。
「
宇宙に潜む深遠なる闇よ! 全ての光を喰らい尽くせ!」
青の竜皇が左手を突き出すと、そこに闇色の球体が生み出される。
暗黒球はすぐにドラグオンの体を隠すほどに巨大化し、重力を発生させ周囲の草木を飲み込んでいく。
ラビット・バレットの放った
そのまま光線は闇の中に消える。
しかしここまでは想定通り。光流はニヤリと笑いながら続く言葉を紡ぐ。
「そう、ブラックホールシールドは敵の攻撃に反応して自動でブラックホールを発生させます。
しかしそのブラックホールは同時に一つしか存在できません! 今なら死角への攻撃が通ります!」
「へー、面白い。死角なんてどこにあるんだ?」
期待するようにコスモは口の端を持ち上げる。
ラビット・バレットとコズミック・ドラグオンの間には巨大なブラックホールが陣取っている。
一見すれば、ドラグオンへの攻撃は全て闇色の球体に吸い込まれてしまいそうだ。
高威力の攻撃であればブラックホールを破壊することもできるが、光属性攻撃は威力に関係なく問答無用で無効化されてしまう。
そこで光流が再度ガンショット・コントローラーの引き金を引く。
「
ラビット・バレットの右手の銃が光線を吐き出す。
それはブラックホールよりも大分右側に逸れた方角に放たれた。
これだけブラックホールから離れていれば重力に引きずり込まれることもない。
しかし同時にコズミック・ドラグオンの立ち位置からも見当外れな方向に光線は飛んでいく。
それを見てコスモは愉しげに言葉を吐き出す。
『大外れだね、手元が狂ったのかな?』
「いいえ、私の銃は絶対に狙いを外しません!」
光流はそう言い放つ。
そう、本番はこれからだ。
このまま進めば地面へと追突しそうだ。
しかしその光線の向かう先の土の上で何かが光った。
「あれは?」
怪訝そうに眉を顰めるコスモ。
そして次の瞬間、地面にぶつかった
「光線が反射を!? しまった!
それに気付きコスモが動揺を見せる。
そうだ。
その壁はグランドランス・ユニコーンに全て打ち砕かれたが、鏡の破片はこの周囲の地面に無数に転がっているのだ。
その破片に
この日の為に光流と水零が練習した連携技だ!
「これがラビット・バレットの奥義!
光流が威勢よくそう吐き出す。
コスモは咄嗟にコントローラーを操作し、回避を試みるが、元々パワータイプのドラグオンは回避能力が低く設定されている。
防御手段をブラックホールシールドに頼っていた奴は、背後からの一撃を躱すこともできず――
天罰の光が青き竜皇の背中を貫いた!
「くっ、やるな! ひよこちゃん!」
悔しさと嬉しさの混じった顔で、ニヤリとコスモは笑う。
対して光流も微笑みを返す。
「これでコズミック・ドラグオンは五秒間の
ここからは、ずっと私のターンですよ!」
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