#45 一角獣の騎士
『さて、ここでルールのおさらいだ』
リスナーに説明するようにコスモは語り出す。
『トレジャーハントバトルではフィールドで戦えるマドールは両チーム最大三体まで。残りはベンチに控えるわけだが、控えのマドールがバトルに参戦する方法は主に二つある』
彼がそう告げると、配信画面にバトルフィールドの全体図が表示される。
そこに示されたフィールド内の数十箇所が赤く点滅していた。
『バトルフィールドのあちこちにこれだけの数の
そう。そしてもう一つの交代方法。それこそがたった今、グランドランス・ユニコーンがジャック・ザ・ヴァンパイアの近くに一瞬で現れたカラクリの正体。
『もう一つは
それにより今、ウチのランスはヴァンピィの進む道に先回りしたってことさ』
説明が終わると配信画面は改めてコスモ・クロリス・ランスのマドールを三画面で表示する。
その中の一つでランスのマドールと夜宵のマドールが対峙していた。
俺は画面から目を離し、夜宵の顔を見る。
真剣な眼差しでコントローラーを操作し、敵のグランドランス・ユニコーンと睨みあっていた。
『行くぞヴァンピィ殿! 我が愛馬の力をその身で味わうがよい!』
ランスがそう叫んだ瞬間、ユニコーンの角がドリルのように回転し、地面に穴を掘り始める。
そして瞬く間にユニコーンとそれに跨った騎士は地中深くへと姿を消していった。
「これって、また」
夜宵の顔が強張る。
敵はまたさっきのように地面の下から奇襲を仕掛けてくる気か。
夜宵は直感的にジャックを操作し、吸血鬼は地を蹴って移動する。
そのすぐ後に、さっきまでジャックの立っていた地面に亀裂が入り、一角獣の角が地表を貫く。
『グランドライブ!』
ランスが技名を叫ぶとともに、噴水のように土を撒き散らしながらユニコーンに乗った騎士が飛び出してきた。
くっ、厄介な。
敵が地中に居る状況ではこちらからの攻撃は届かず、常にギリギリの判断で相手の攻撃を躱さないといけない。
こいつとやりあうのは危険だな。
コスモ達との通話が切れていることを確認すると、俺は声を張り上げる。
「ヴァンピィ、足止めに構うな! お前は敵のゴールデンマドールを目指せ!」
俺の言葉に、夜宵はこちらを見て、こくりと頷いた。
「わかった。ヒナ、通話をお願い」
彼女の要望に応え、俺はコスモ達との通話をオンにする。
だがその間にも敵のグランドランス・ユニコーンは三度地面に穴を掘り、地中へ潜り込んでいた。
『我が愛馬の一刺しを果たしていつまで避け続けられるかな、根競べと行こうかヴァンピィ殿!』
「ざ、残念だけど。夜のフィールドはヴァンパイアの支配下だよ」
緊張でちょっと声が上ずりながら、夜宵はランスへ言葉を返す。
そう、彼女の言う通り、今二人が交戦しているのはバトルフィールドの東側、夜の時間帯だ。
そしてジャック・ザ・ヴァンパイアは夜のフィールドでの戦闘を得意とする。
夜宵は地面を睨む。
今も土の中に潜り、虎視眈々とジャックを狙っているであろうグランドランス・ユニコーン。
その姿は見えないが、対抗手段はある。
夜宵がコントローラーを操作すると、ジャックが纏った漆黒のマントが無数のコウモリへ分離する。
そしてコウモリ達はジャックの背中に再度集まり、禍々しい一対の翼を形作った。
『何っ、マントが変形しただと!』
「ジャックのオプションパーツ・
ランスの驚愕の声に夜宵は言葉を重ねる。
「飛んで! ジャック!」
ジャック・ザ・ヴァンパイアが背に生えた翼で羽ばたくと、その体は遥か上空へと飛び上がる。
地面を砕きながらユニコーンの騎士が飛び出してくるも、その角は空を舞う吸血鬼には届かない。
『おのれ、飛行能力か!』
「そうだよ! 空を自由に翔けるジャックに、地上からの攻撃は全て無力と化す!」
夜宵がアナログスティックを前に倒すと、ジャックはグランドランス・ユニコーンを置き去りにして、フィールドの北方を目指してぐんぐんと空を突き進む。
よし、いいぞ夜宵。
今度こそ何の邪魔も入らず、敵のゴールデンマドールに辿り着ける。
その時、配信画面のコスモがポツリと呟いた。
『流石だなライオンハート。ヴァンピィ。だがウチのチームには無敵の守護神がいる。果たしてお前らに彼女が攻略できるかな?』
やがてジャックがフィールドの北端に到達する。
吸血鬼が羽を畳んで地面に降り立つと、その先には豪奢な衣装と宝石を身につけた王様、ゴールデンキングマドールが立っていた。
それともう一体、キングを守る様にその前に陣取っていたのは、黒いドレスに身を包み、流れるような黄金の髪を腰まで伸ばした少女型のマドール。
ドレスと同じ色のリボンカチューシャを頭に載せ、エメラルドグリーンの瞳を持つ彼女は、ハープを弾きながら優雅に佇んでいた。
ジャックの到着を見て、配信画面の中でクロリスが上品に微笑む。
『どうやらお客様がいらっしゃったようですね。
ではレジェンドハンターズのゴールデンキーパーであるこの私、クロリスがおもてなしをさせていただきます』
彼女が奴らのゴールデンマドールを守る最後の砦というわけか。
夜宵が表情を引き締める。
一方のクロリスはどこまでも余裕を感じさせる笑みとともに言葉を吐き出した。
『我が半身、ブラックアリスの演奏を是非とも楽しんでいってください』
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