#39 ポジション適性

 トレジャーハントバトルは五人で行うチーム戦だが、バトルフィールドで同時に戦えるのは各チーム三人までだ。

 残りの二人は控えベンチに待機し、フィールド内に複数箇所ある交代地点リリーフスポットから交代が可能となる。

 かつてトレジャーハントバトルを極めた幻想の竜達ファントム・ドラゴニクスはバトルフィールドで戦う三体の役割に三つのポジションを定義した。

 敵陣へ切り込み、相手のゴールデンマドールを倒す役割を担うFW(ファーストウォリアー)。

 フィールドの中央付近で攻守に目を光らせ、必要なところにアシストに入るMF(マルチファイター)。

 そして常に自陣のゴールデンマドールの傍で待機し、ゴールデンマドールを守護するGK(ゴールデンキーパー)。

 トレバトに関しては初心者であるメンバー四人に俺はそんな説明をするのだった


「まずファーストウォリアーは近接戦闘が得意なマドールが向いてる。夜宵のジャック・ザ・ヴァンパイアや琥珀の大河忍者が適任だろう。

 そしてマルチファイターは遠距離攻撃を駆使して攻守の薄いところのサポートに回る役割。俺のプロミネンス・ドラコや光流のラビット・バレットが力を発揮する役職だ。

 そして最後にゴールデンキーパー、これは水晶の魔法使いクリスタル・メイジを操る水零に任せようと思う」

「えっ、ちょっ、ちょっと待って太陽くん! 初心者の私がそんな重要ポジションやるの!?」


 水零が泡を喰った様子で待ったをかけるも、俺は自信を持ってそれに答える。


「あくまで各人の適性を考えた上での暫定的なポジションだ。もし無理ならポジションの入れ替えだって検討するから、まずは気楽にやろうぜ」

「うーん、自信ないなあ」


 不安げな顔を浮かべる水零の肩をポンポンと叩いて勇気づけてやる。


「じゃあ、これからチーム練習をしよう。先発メンバーや交代のタイミングなど、色々試していこうか」

「おお、楽しみです」

「腕が鳴るっすね」


 俺の言葉にやる気を見せる光流と琥珀。

 対照的に水零は微妙な顔をして呟いた。


「相手って凄く強いチームなんでしょ。大丈夫かしら? ボロ負けして恥を晒すだけにならないかな?」

「それが嫌なら練習あるのみだ。練習をすりゃ自信もつく。強くなっていい勝負しようぜ」

「ねえヒナ」


 俺が水零を励ましていると夜宵が口を挟む。


「いい勝負をするってのも間違ってないけどさ。目標としてはちょっと違うよね」


 ほう、違うとは?

 夜宵は闘志を漲らせながら、続く言葉を吐き出す。


「勝とうよ! 大物V軍団を私達で倒そう!」


 力強く言う夜宵を見て、俺も嬉しくなる。


「よく言った。そうだな、俺達でコスモ達をぶっ倒してやろうぜ!」


 そうしてフリーバトルに潜り、チーム練習を開始した。

 その日からコラボ配信まで、俺達は準備に明け暮れた。


「じゃあ試合当日も俺の家にみんなで集まるってことにするか」


 最初はネット越しに通話しながら対戦するスタイルを考えていたが、チーム戦をする上での意志疎通のしやすさを考えて直接顔を会わせた方がいいという結論になった。

 なにより最初のミーティング以来、チーム練習の度にみんなでウチに集まっているので、もはやその方が自然になってしまった。

 この日も全員で日向家に集合し、リビングにパソコンを持ってきて大型モニターに繋いでいた。

 モニターにはコスモのテスト配信画面が映っている。パソコンにインストールしたチャットツールの画面共有機能によるものだ。

 ボイスチャットツールなので通話もできる。

 画面越しにコスモが言葉をかけてきた。


『ひとまず配信当日もこのスタイルでいいか』

「ああ、チーム内だけでやりとりをするときとかは通話は切らせてもらう。相手チームとの会話が必要になったら、こっちで通話をオンにするさ」


 画面の端には俺達のチーム五人のツイッターアイコンが表示されている。

 俺達の声から喋ってる人を判別して、対応するアイコンが点滅するという代物だ。

 しかしこうして見ると。


「うちのチームのアイコン、統一感ないな」


 最近アカウントを作った水零は初期アイコンのまま。

 俺はラーメンの画像。夜宵は人気アニメの吸血鬼ヒロイン、光流は美味しそうな卵焼きの自作イラスト、琥珀は自宅で飼ってる愛犬の画像をアイコンにしている。


「イラストだったり実写だったり、見事にバラバラだね」

「食べ物だったり人だったり犬だったりするっすね」


 夜宵と琥珀もそう言って同意する。

 そこに光流が意気揚々に提案してきた。


「なら私が全員のアイコンを描きます! 折角の晴れ舞台ですからね。アイコンは私達の顔です。皆さんの魅力が伝わるイラストを描きますよ」

「えっ、いいの光流ちゃん! 楽しみ!」


 光流のファンである夜宵はその言葉に目を輝かせた。

 と、そこに画面の中からコスモが忠告してくる。


『そうだ、一応言っておくけど通話するときにうっかり本名ポロリとかされると、こっちじゃどうしようもないからな』


 まあ確かに。多くの視聴者の集まる生放送だし、本名暴露はよくないな。

 オフ会の時と同様、ハンドルネーム呼びを徹底するべきだろう。


「えー、じゃあヒナくんとか呼ぶの? なんか恥ずかしい」


 水零がそう言って苦笑する。

 一方で琥珀が神妙な顔で呟く。


「前々から言いたかったんだけどさ、光流のハンネのたまごやきって人名感ないよね。リアルで口に出すのは違和感が凄い」

「えっ!?」


 予想外の言葉に光流が驚くが、それには俺にも同意見だった。


「わかる。ネットで文字だけのやり取りするにはいいんだけど、チーム戦の最中にたまごやきって呼ぶのは呼び辛いっていうか、シリアスな空気を壊しかねないというか」

「そ、そんなお兄様まで」


 人のハンドルネームにケチをつけるのはよくないが、ちょっと別の呼び方が欲しいと思う。


「そうまで言うならわかりました! 改名します。これから私の名前はひよこにします!」


 言って光流はスマホを操作する。

 ツイッターを確認すると、彼女のアカウント名が、ひよこ@旧たまごやき、となっていた。


「あっ、いいんじゃない。ひよこちゃんって名前可愛いよね」


 夜宵のフォローのおかげで、場の空気が軽くなる。

 圧力をかけるみたいになって申し訳ないが、確かにひよこなら大分呼びやすくなった。

 そこで琥珀が真剣な顔をして考え込んだ。


「たまごやきが調理前に戻って、ひよことして卵から孵った。これは別の世界線へ移動したってことなのか?」

「いえ、ただの改名にそんなガチ考察されても困ります」


 そんな風に練習と準備を繰り返しながら俺達の夏休みは進んでいった。

 そしていよいよエキシビションマッチ当日を迎える。

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