#38 命名! 新チーム!
「えー、自己紹介も終わったところで、そろそろ本題に入ってよろしいでしょうか?」
俺の畏まった物言いに、女性陣も居住まいを正す。
「チームを結成して最初の議題、チーム名を決めたいと思います」
「チーム名ねえ」
水零が頬を指でつきながら、思案顔を浮かべる。
「そうね、私は
「参考か。例えば俺達が今度戦うコスモのチームとかは――」
俺はスマホをテーブルの上に置き、DMのやりとりをみんなに見せる。
そこにはコスモのチーム名とメンバー五人のハンドルネームがリストアップされていた。
「レジェンドハンターズ、ですか」
そこに書かれた相手チーム名を光流が読み上げる。
「伝説のトレジャーハンターってことっすか。強そうっすね。ここは私達も負けてらんないっす。強そうな名前をつけるっすよ」
そう言って琥珀は拳を握りしめ、気合いを入れる。
と、そこで夜宵が会話に入ってこれてないことに気付いて俺は彼女に話を振る。
「そうだな。夜宵は何かアイディアとかあるか? 好きな言葉とか」
「えっ、好きな言葉? うーん、パンツ丸見え、とか?」
「最近キミの精神年齢が男子小学生のまま止まってるんじゃないかと思えてきたよね」
「まるで私が男子小学生だった時期があるみたいな言い方やめてヒナ。泣くよ、泣いちゃうよ」
夜宵が涙目でそう訴える。
俺の大好きな夜宵を泣かせるなんて、一体どこのどいつなんだ。許せないなー。
まあそれはどうでもいいや。
そこに光流が言葉を挟む。
「そう言えば、以前私達もチーム戦のオフ会に出たじゃないですか。あの時の私達のチーム名は我ながらナイスアイディアでしたね」
「ああ、バニートラップだっけ」
俺が相槌を打つと光流は得意気な顔を見せる。
「はい、私の使うウサギ型のマドール、ラビットバレットがバニーの部分担当。卑怯なトラップ戦法を使う汚い忍者の琥珀ちゃんがトラップの部分を表していて、女の子チームらしくハニートラップとかけた、最高にお洒落なネーミングだと思いません?」
「おっ、喧嘩売ってる? 売ってるのか光流? いいぞ、表出ろ!」
さらりと幼馴染みをディスる光流に対し、琥珀は指をポキポキと鳴らす。
「どうぞ、琥珀ちゃんは先にお外に出てください」
「よーし、今日こそお前を泣かすからな」
意気揚々と琥珀が席を立ち、部屋を出ていく。
「ところでお兄様と夜宵さんのチーム名はキャンプファイアでしたね。どんな由来なんですか?」
「あっ、普通に話続けるんだ。琥珀は放置するんだ」
そこで夜宵が口を挟む。
「あの時は、どうやって名付けたんだっけ? 私のジャック・ザ・ヴァンパイアから夜を連想して、ヒナのプロミネンス・ドラコが炎のドラゴンだから。夜に火を燃やすキャンプファイアみたいな感じだっけ?」
「そうそう、それが丁度プロミネンス・ドラコのジョーカースキルの名前でもあるから丁度いいかなって」
「ただいまーっす」
と、そこについさっき部屋を出て行った琥珀が帰ってきた。
右手にプリンを持って。
「そ、それは私が冷蔵庫にとっておいたプリン! 琥珀ちゃん、私のプリンをどうする気ですか!?」
取り乱す光流を見て、琥珀は不敵な笑みを返す。
「ふっ、パーティから追放された私、冷蔵庫からプリンを持ってくる。今更謝ってももう遅い」
なんか始まったぞ。
「そのプリンは最後の一個なんです! お願いです! プリンだけは! プリンの命だけは許してください! プリンに罪はないんです!」
悲痛な様子でそう懇願する光流に構わず琥珀はプリンの封を開ける。
そしてそれにプラスチックスプーンを突き刺し、プリンを食べ始めた。
「あっ、あっ、ああああああああ! 私のプリンがあああああ! うああああああ」
光流はソファからヨロヨロと立ち上がったと思うと、すぐに膝をついて崩れ落ちた。
俺はそんな彼女の頭を優しく撫でる。
「はいはい、喧嘩しないの。光流、プリンなら後でお兄ちゃんが買ってあげるから」
そこで琥珀はプリンを食べ終えると、勝ち誇った顔を浮かべた。
「ふっ、これでわかったろ光流。この世界は弱肉強食。勝者はプリンを手に入れ、敗者は地べたに這いつくばる」
勝者が手に入れるのプリン限定かよ。
「強さこそが絶対。強さこそがチームの名前にも求められる。そして野生動物の中で最も強いのが虎だ! 虎こそが私達のチーム名に相応しい」
虎か。
こいつのハンドルネームが虎衛門だし、ゲーム内のプレイヤー名がタイガーマスクだったし、虎に思い入れがあるのかもしれない。
そこに光流が涙を浮かべながら反論した。
「でも琥珀ちゃん、虎より猫の方が可愛いですよ」
「くっ、一理ある。にゃんこ可愛い」
「おい、強そうはどこ行った」
早くも強そうな名前という方向性からブレ始めたぞ。
「うーんでも、百獣の王って言えば虎よりもライオンよね」
「そうだな。ならライオンの方向性で考えてみるか」
水零の言葉に俺も同意を示す。
このまま方向性すら決まらないよりかは、野生動物の名を冠するというコンセプトに沿った方がいいだろう。
そこで涙を拭いて席に戻った光流が発言する。
「ではライオンズにしましょう」
「もうちょっと捻ろうよキミ。ストレートすぎて彩の国の野球チームになっちゃうよ」
「じゃあ、リーダーであるお兄様の名前からとって太陽ライオンズにします」
「どうしてそうやってキミはお兄ちゃんの本名をインターネットに流したがるの?」
そこで水零が口を挟む。
「でも太陽くん。私達ってライオンじゃなくて人間よね? あくまでライオンのような勇敢な魂を胸に戦うとか、そんな意味合いの名前がいいんじゃないかしら」
「ライオンの魂か、そうだな」
魂から連想される言葉って何だろう。
「魂、誇り、勇気、心」と俺。
「英語にするとソウルとかプライドとかっすかね」と琥珀。
「心、心臓、ハートとかでしょうか?」と光流。
「あら、いいじゃないそれ」と、水零が微笑んで見せた。
「ライオンハート、いい名前だと思うわ」
その言葉にチーム全員の顔に光が差す。
「ライオンハートか、確かいいかもな」
「はい、いい名前だと思います」
「私も賛成っす。文句なしに強そうっすよ」
「夜宵はどう思う?」
俺は彼女に意見を求める。
「あっ、うん。いいと思うよ。私も賛成」
これで、全員の賛成は得られた。
ただ夜宵が言い淀んだのが少し気になった。
「よし、決定ね。私達のチーム名はライオンハートに決まり!」
「わーわー」
「パチパチ」
水零が宣言し、光流と琥珀が拍手する中、俺は席を立ち夜宵へと近寄る。
「どうした夜宵、意見があるならちゃんと言った方がいいぞ」
「ん、いやそういうのじゃなくてさ」
少し困った顔を浮かべる夜宵。
そして軽く落ち込んだ顔で言葉を吐き出した。
「みんなが色々話し合ってるのに、私全然喋れなかったなーって」
あー、うん。そうだね。
夜宵は自分のコミュ障な部分に劣等感を持っている、と同時に克服したいとも思っていることを俺は知ってる。
「駄目だよねこんなんじゃ。折角友達が増えても根本的にコミュ障なところは全然変わってない」
「ああ、まあそんな重く考えるなよ。そのうち慣れていくさ」
励ますように言いながら俺は夜宵の髪を撫でてやる。
夜宵も照れくさそうにしながら力なく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます