#33 メンバー集め開始1

「やっよいー! あっそびましょー!」


 夏休みのある日、水零は気まぐれに夜宵の家を訪れた。

 夜宵は彼女を家の中へ招き入れながらも一応念を押しておく。


「いいけど、午後からヒナが来るからね」

「ああ、太陽くんとのいつもの勉強会? 別に私も一緒に居ていいでしょ」


 そこで水零はいやらしく口の端を吊り上げて夜宵をからかい始める。


「なになにー? 夜宵ってば太陽くんと二人っきりの方がよかったの? やーらしー」

「あー、ウッザ。それで今日は何の用?」


 夜宵が本題を促すと、水零も話を軌道修正する。


「そーそー。私さ、魔法人形マドール対戦を始めてみたいなって思って。夜宵に色々教えて欲しいのよ」


 なんだかんだ水零は人懐っこい。

 昔から夜宵と仲良くなりたくて、積極的に絡んできた。

 なるほど、オタクと仲良くなるには相手の得意分野に踏み込んで教えを乞う。正解と言っていい行動だと夜宵は思う。

 水零は魔法人形マドールのライト勢、一度ストーリーモードをクリアをすればもうゲームを起動することは殆どなくなる。そういったタイプだ。

 夜宵の様にネット対戦を毎月何百戦とこなすガチ勢とは人種が違う。

 そんな彼女がこちら側に足を踏み入れてくれるのは、夜宵としても嬉しい。


「それで水零はどんなマドールを使うの?」


 魔法人形マドールというゲームは、作中に登場する魔法で動く人形・マドールを操り、戦わせる対戦ゲームだ。

 遠距離攻撃を得意とする機体や近接戦闘を得意とするものなど、マドール毎にそれぞれの特徴がある。

 対戦の駒として自分はどのマドールを使うのか、それを選ぶことがまず第一段階と言えるだろう。


「あっ、それね。この子とか可愛いなー、って思ってるの」


 答えながら水零はバッグから携帯型ゲーム機、Standスタンドを取り出し、画面を表示した。

 そこに映っているの真っ白なローブに身を包み、水晶のついた杖を構えた魔法使い型のマドール。


水晶の魔法使いクリスタル・メイジ


 その名前を夜宵は呟く。


「うんそうそう。可愛いっしょ」


 嬉しそうに水零が首肯する。

 フードの下から覗く青い瞳とピンクのおさげ髪、愛らしい少女の姿をしたそのマドールのデザインは非常に評価が高く、魔法人形マドールプレイヤーの中にも熱烈なファンがいる。

 夜宵もこういう二次元の可愛い女の子は好きだ。

 ビジュアルだけ見れば水晶の魔法使いクリスタル・メイジは好きなマドールに分類される。

 先ほどの水零の言葉通り、彼女はデザインが可愛いという理由だけでこのマドールを選んだのだろう。

 対戦面での性能などは一切度外視して。

 そう。ライト勢の水零が、対人戦における水晶の魔法使いクリスタル・メイジの評価がどんなものか知らないのも無理はない。

 夜宵は少し考える。

 マドールにはそれぞれの性能があり、強いマドールや弱いマドールなど、プレイヤー間で様々な評価を受ける。

 夜宵が愛用してるジャック・ザ・ヴァンパイアも世間的には決して強いマドールに分類されるわけではない。

 しかし彼女は長年ジャックを使い込んだ経験則を武器にして、世界ランキングの上位帯で戦ってきた。

 それはジャックが環境トップレベルの強さとは呼べないまでも、中堅クラスのスペックを持っていたからだ。

 マドールの種類は千体を越えており、その全てが対戦環境で活躍できるわけではない。強い駒・弱い駒といった性能格差は確実に存在する。

 対戦ではどう足掻いても活躍できない、どうしようもなく救えないマドールだっているのだ。

 どんなマドールでも愛して使い続ければ勝てる、なんて綺麗事は夜宵も言えない。

 どう答えようか悩んだ挙句、夜宵はストレートに伝えることにした。

 対戦で水晶の魔法使いクリスタル・メイジを使いたいという水零に対する真摯な回答。

 それを二文字に集約して、言葉にする。


「無理」

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