#32 銀河の挑戦状2

「コラボ、配信?」


 土倉の言葉に理解が追い付かず、オウム返しにその言葉を吐き出した。

 しかし彼は力強く首肯する。


「そうだ。相手はなんとあの大物Vのクロリスちゃんだ!」


 クロリス、普段からコスモが推している美少女Vだ。

 彼女も魔法人形マドールを中心にゲーム実況を配信している。


「そうか、チャンネル登録者数がコスモより一桁多いあの子とのコラボなら安泰だな」

「おい、話はまだ終わってないぞ。俺の話は宇宙の歴史より長いからな。続きを聞け」

「まあ話の流れからして、クロリスとコスモお前がトレジャーハントバトルの対戦をして、双方の視聴者リスナー達に布教するってことだろ」


 俺はそんな風に考えていたが、土倉はチッチッチと指を振る。


「惜しいが不正解だ。そのコラボ配信で俺はクロリスちゃんとチームを組む」

「ってことは対戦相手は?」


 ここにきて俺はようやく悟る。

 何故土倉が俺にこんな話を持ってきたのか。


「お前だよ。日向! フリー対戦で骨のない相手と戦ってばかりじゃトレジャーハントバトルの魅力は伝わらない。

 だから俺はお前を対戦相手に指名する。俺達で最高に熱いバトルを繰り広げて、配信を見た全員をこのゲームの虜にしてやろうぜ!」


 ニヤリと眩しい笑みを浮かべて彼は言葉を続ける。


「お前とならそれができると思ってる。幻想の竜達ファントム・ドラゴニクスのメンバーだったヒナが相手ならな」


 幻想の竜達ファントム・ドラゴニクス、それはかつて行われたトレジャーハントバトルの公式オンライン大会、トレジャーカップの優勝チームの名前だ。

 そしてヒナ土倉コスモはそのメンバーだった。

 俺の使う太陽竜プロミネンス・ドラコ。土倉の操る銀河竜皇コズミック・ドラグオン。それらを含むチーム全員がドラゴンタイプのマドールを使うことがチーム名の由来だ。


 そう、俺達はトレジャーハントバトルで一時代を築いた最強チームだった。

 そんな俺達が今度は一国一城の主となり、自分のチームを率いて戦う。それって――


「最高に熱いな」


 自然と湧き上がる高揚感に俺の口元も吊り上がる。


「いいぜ土倉。その勝負、受けて立つ」

「お前ならそう言ってくれると思ってたぜ」


 土倉もニヤリと好戦的な笑みを返した。

 そこで彼のポケットからスマホの振動音が響く。


「おっと、こんな時間か。悪い、打ち合わせがあるからそろそろ帰るわ」


 アラームでもセットしていたのか、スマホを一目見て土倉はそう告げた。


「打ち合わせって、コラボ配信のか?」

「あー、それもあるが別件だな。俺のトレバト布教プロジェクトはいろいろ動いてるんだよ」


 トレバト、トレジャーハントバトルの略称である。

 俺の知らないところで、コラボ配信以外にも準備してるってわけか。

 詳しく聞きたいが、そんな時間はなさそうだ。

 帰ると言う土倉を俺は玄関まで見送る。

 靴を履いたところで彼は俺に向けて、不敵に笑って見せた。


「とにかく、トレバト布教プロジェクトは銀河級にデカイ計画だから楽しみにしておけ。その第一歩がお前とのエキシビションマッチだ!」

「わかったよ。俺達の戦いでコラボ配信を見てるリスナーを盛り上げるんだろ。けど一つ聞いていいか?」


 俺が質問を向けると、土倉は不思議そうな顔を見せる。


「その勝負、俺が勝っちまっても構わないんだよな?」


 ニッと口の端を持ち上げてそう言ってやる。

 土倉も嬉しそうに笑い返した。


「ああ、できるもんならな。言っとくが俺達は強いぜ?」


 そう言い残して、じゃあな、と手を振り土倉は去っていた。

 ふう、相変わらず賑やかな男だった。

 俺もトレジャーハントバトルが不人気ルールになっている現状は悲しいと思う。

 しかし公式がこのルールに力を入れてない以上、どうしようもないと諦観していた。

 それがアイツはどうだ? 公式がやらないなら自分がやるとばかりに色んな人を巻き込んで動き始めた。

 アイツの行動力は本当の尊敬するよ。

 しかし面白くなってきたな。

 エキシビションマッチか。日程どころかチームメンバーすらまだ未定だが、今から楽しみだ。

 トレジャーハントバトルは五人チームで行う。

 俺は残り四人のチームメイトを探さないといけないわけだが、真っ先に脳裏に浮かんだのは夜宵の顔だった。

 夜宵が学校の勉強に追いつくために魔法人形マドールを封印しているのは勿論理解している。

 けど魔法人形マドールでチーム戦をやるなら、ネットの世界で一番仲がいいヴァンピィは真っ先に誘いたい相手だった。

 大好きな夜宵と一緒にチームを組めたら、きっとメチャクチャ楽しい試合になる。


「あれっ、先輩。土倉先輩はどうしたんすか?」


 廊下を歩いていると、リビングから出てきた琥珀と出くわす。


「ああ、今帰ったよ。悪いな、お前らも見送りしたかったか?」

「いえ、それならいいっす」


 そう言い残して彼女は再びリビングへと引っ込んでいく。


「土倉先輩帰ったって。やるぞ光流」

「ええ、ホントにやるんですか? お兄様が狼さんになったらどうするんですか」


 なんかリビングの方で、コソコソ話してるみたいだな。

 そう言えば、光流と琥珀も魔法人形マドールの腕が立つ。

 しかも普段からダブルスでチームを組んでいるという、チーム戦のスペシャリストだ。

 土倉との戦いに向け、チームメンバーとして申し分ない。

 早速二人にさっきの話をしようと、俺はリビングに足を踏み入れる。


「おーい、お前ら。頼みがあるんだが――」


 と、そこで俺は言葉を失った。


「あ、あの、お兄様。これは、その野球拳で負けたペナルティだって琥珀ちゃんが」


 リビングで俺を出迎えたのは一糸纏わぬ妹の姿だった。

 恥ずかしそうに股間を両手で覆い、亜麻色の長い髪が控えめサイズの胸をギリギリで隠している。

 これは、漫画とかでしか見たことのない伝説の髪ブラというやつか!


「先輩、約束っすから。私達の体の好きな場所に好きなだけ落書きしてくださいっす」


 その言葉を聞き、光流の隣にいた少女に視線を移す。

 こちらも肌色成分の百パーセント! 栗色のポニーテール少女が恥じらいながら小ぶりな胸を両手で隠そうとしている。

 そして足を交差させてなんとか大事なところも見せないという努力が窺える。

 いや、でも落書きだと。

 琥珀の白くて綺麗なお腹や腕、太腿、体中のどこにでも落書きし放題なんて、そんな、なんてけしからん!


「お兄様、私も首輪をつけてお兄様の気の済むまでお散歩してください」


 言われて気付けば、光流の首元にはファッションアイテムらしき首輪が巻かれてそこから紐が伸びている。

 あの紐を引っ張って、全裸の妹を四つん這いにしてまるでペットの様にお散歩するなんて、想像しただけで背徳的で、イケナイ趣味に目覚めそうになる。

 イカン、落ち着け。


「お前ら――」


 俺は自分の内なる邪心を全力で押し込め、大きく息を吸い――


「いいから服を着なさーい!」


 と、妹分二人を一喝するのであった。

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