#8 夜宵の色仕掛け
朝食を済ませた夜宵は自室へ戻り、クローゼットを開いて服を見繕う。
今日の目標はヒナに女の子として意識してもらうこと。ドキドキしてもらうことだ。
自分の中で色仕掛け作戦と銘打ったはいいものの、実際にはどうすればいいのか。
悩んでいるとクローゼットの中の一つの服に目が留まる。
以前ヒナと買い物に行ったときに記念として彼に買ってもらった黒のフリルキャミソールだ。
それを手にとって夜宵は考える。
そういえばTシャツの上からキャミソールを重ね着たことはあったが、このキャミソールだけで着たことはなかった。
早速夜宵は今まで着ていたラフな部屋着を脱ぎ、着替えてみる。
上はさっきの黒いフリルキャミソール、下は白のミニスカート姿となって部屋にある姿見の前に立つ。
確かこの服を買ったときは試着の時、ブラの肩紐を腕から抜いて服の中に隠してヒナに見せたんだっけ。
今回も同じ方法でブラの肩紐を隠してみる。鏡で見た感じ違和感はなさそうだ。
スカートも普段はあまり穿かないような丈の短いものだ。
昨日パンチラの話題で盛り上がったときに、スカートの短い夜宵が見たいなんて冗談混じりに言われたことを思い出す。
――これくらいスカートを短くすればヒナもドキドキしてくれるかな。
ほんのひと月前、ヒナに出会う前の夜宵は引きこもりだった。
アニメや漫画に出てくる華やかな女の子のファッションを見て楽しむことはあっても、自分がオシャレをすることなんて考えもしなかった。
しかしヒナと会うようになって身だしなみに気を配るようになり、自分を着飾ることが楽しくなってきた。
アニメに出てくるスカートの短い女の子はパンツが見えそうでドキドキするなあ、なんて感想を抱いていたのが、自分がそんな短いスカートを穿く日が来るなんて考えもしなかった。
こうして姿見に映る自分の姿を見ると、自分も結構イケてるんじゃないかという気持ちが芽生える。
うんうん、この短いスカート可愛いよ。
それにキャミソールも。肩を出して肌面積多めでセクシーな感じかもしれない。
姿見の前で色々ポーズを変えてみると夜宵は気付いた。
この服、前屈みになるとちょっと胸元が見えちゃうかも。
ヒナは背が高いから場合によっては自分のことを上から見下ろすことが多いだろうし、何かの拍子に胸の谷間くらいはチラッと見えちゃうかもしれない。
うーん、と夜宵は悩む。
いや、むしろそれがいいのでは?
ちょっと恥ずかしいけど、そういうハプニングの一つもあればヒナも自分のことを女の子として意識してくれるかもしれない。
ドキドキしてくれるかもしれない。
うん、やってみよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この日は朝から昨夜のピンクの悪魔の続きをやることにした。
ヒナと夜宵はリビングのソファに座り、コントローラーを手にテレビに映るキャラクターを操作しながら協力プレイで冒険を進める。
今日は昨夜と役割を変え、ヒナがピンクの悪魔担当、夜宵が下僕担当だ。
ゲームを進行させると大量の敵モンスターが通路に現れ、道を阻んでくる。
「夜宵、敵を引き付けておいてくれ」
「う、うん」
ヒナの操るピンクの悪魔が敵から距離をとる。
彼に言われるがままに夜宵は下僕を操作し、モンスターの集団に突っ込んで攻撃を行う。
夜宵がモンスターの相手をしている間に、ヒナはコントローラーをガチャガチャと操作し、複雑なコマンド入力を完了する。
そこで彼が声を張り上げた。
「喰らえ、プラズマカノン!」
雷の力を宿したピンクの悪魔の体に電流がほとばしり、その両手に極大の電気が集まる。
そして黄金に輝く電流を球体の形にし、モンスターの軍団にめがけて解き放った。
強大な雷撃の光に呑み込まれ、モンスター達は一瞬で消滅する。
それを見て夜宵は目を輝かせた。
「えっ、なにそれなにそれ! 今の技、初めて見た! どうやったのヒナ!」
テンション高く夜宵はヒナのそばに近づき、彼の太腿に手を置いて上目遣いで見つめる。
「ねえねえ、教えてよ! 今のどうやるの?」
「お、おう、わかったよ。教えるから」
突然の接近にヒナは照れたような困った顔を見せる。
普段見せないその反応に、夜宵は自分の目論見が上手く行ったことを悟る。
――ヒナ、照れてる。これだけ顔を近づけたら私も恥ずかしいけど、やっぱりヒナもドキドキするんだ。
彼女の作戦通り、突然接近し彼の太腿にボディタッチしつつ顔を近づけるという連続攻撃の威力は絶大だった。
――夜宵、近いって。それにその服でそんなに近づいたら見えちゃうから。
夜宵が接近したとき、背の低い彼女を見下ろす形になったヒナは、偶然にもキャミソールの胸元の隙間から彼女の胸の谷間が見えてすぐに目を逸らした。
――セ、セーフ。セーフだよな? 一瞬で目を逸らしたから夜宵の胸を見てたのは気付かれてないよな? エロい男だと思われて軽蔑されたくなんてないぞ。
――うわー、ヒナ一瞬私の胸をすごく見てたよね。は、恥ずかしい、恥ずかしいけど、ちゃんと女の子として意識してもらえてるんだー。
――っていうかこういうこと、わざとやってる様なはしたない女の子だと思われてないよね? あ、あくまで私は何も気づいてないよー、って風に振舞えてるよね?
夜宵もヒナも、表面上では平静を装いつつも頭の中では高速で色々な思考が渦巻いていた。
――良かった。ヒナは女の子慣れしてるけど、私で全くドキドキしないわけじゃないんだ。
――きっとゲームに例えたら体力百万のラスボスに一ポイントのダメージを与えたくらい小さな一歩だけど、私でもヒナをドキドキさせられたんだ。
――ヤバいってこれ、好きな子にこんなに接近されて、こんな露出の高い服で際どい姿を見せられたらダメージがでかすぎるって。
――ゲームで例えたらもうあと一ポイントでもダメージを受けたら完全に終わる状況だぞ。今夜あたり理性崩壊して襲っちまうぞ夜宵。
しかしそんなヒナの男心など、夜宵は知る由もない。
――まあ、まだまだヒナにとっては私は単なる友達だろうし、ちょっとやそっとの色仕掛けくらいで狼さんに豹変したりとかはないと思うけど。
――落ち着け俺、大丈夫だ。今のは事故、今のは事故。
――世の中には男を惑わすためにわざとこういったアタックを仕掛けてくる女の子もいるのかもしれないが、おこちゃまな夜宵はそんなことできないだろう。
――今の胸チラ事件はただのアクシデントであって、こういうことは滅多に起こらないはずだ。
――だから大丈夫。これ以上刺激的なことは起こらないから、俺の理性も生き延びられる筈。
――よし、この調子で今日はもっとヒナをドキドキさせていこう。私ばっかりドキドキさせられた仕返しだからね、ヒナ。
お泊り二日目、長い一日の始まりだった。
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