大峰くんなんて、最低!

小林勤務

第1話 幕開け

「大峰くんなんて、最低!」


 

 その言葉とほぼ同時に、俺の右頬が力強く波打った。


 バチンと響きの良い音が、放課後の教室に鳴り響く。


 叩かれた右頬の痛みを感じるよりも、頭が軽く混乱した。


 平手打ちをされて、軽く脳震盪を起こしたからではない。


 俺の目の前には、クラスメートである目を潤ませた八賀 武美やつが たけみがいた。


 彼女の大きな涙袋は今にもはち切れんばかりに、膨らんでいる。


 ……何か、おれやった?


 全く身に覚えがないのだ。


 放課後、一部教室に残っていたクラスメートが、「なんだなんだ」と野次馬的にわらわらと集まってくる。


 今にも泣きそうな1人の女子と、その子から平手打ちにされて呆然と佇む1人の男子。どう考えても、俺が悪いことになってしまう。擁護する稀有な奴は0だろう。


 まずい。

 なんとか、今この場で俺の無実を証明して、現状を打開せねば。


 俺こと、大峰 参おおみね さんはこの市立八合目膝折高校しりつはちごうめひざおれこうこうに転校してきて間もない。ようやく、クラスの皆と打ち解けてきて、少しずつ皆から親しげに挨拶されるようになり、今では休日にカラオケに誘われるようにもなった。

 

 それには人知れず努力してきた汗と涙の物語がある。

 クラスメートの名前をフルネームで暗記するのはもちろん、誕生日、趣味、今クラスで流行ってる話題に常にアンテナを張り、それらの情報をエクセルに入力し、重回帰分析やCVP分析など夜通しデータと睨めっこして食らいついた。


 その努力の賜物を、今ここで台無しにするわけにはいかない……!

 

 俺は意を決して、問いかけた。


「ごめん、八賀さん、何か俺やった?」


「……気付いてないのね」


 気付いてない……。

 そんなこと言われると、何か思い当たる節がありそうだ。

 俺は目を閉じて、記憶を辿る。

 結論。

 やはり、ない。


「ごめん、思いつかない。でも、もしかしたら知らず知らずのうちに八賀さんを傷づけてしまったかもしれない。もし、よかったら八賀さんが怒ってる理由を教えてくれない?」


 俺の真摯な気持ちが伝わったのか、彼女はゆっくり息を吸い込み、こう告げた。


「大峰くんは、世界を滅ぼそうとしているの」


 

 えっ……!


 

 ……なに、それ?

 

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