魔王を倒した男のその後
赤佐田奈破魔矢
第1話 思索
「暇だ」
ソファに寝転がり、窓の外に広がる青空を見上げなら俺は呟いた。
風が吹いていないのか、空にちらほらと浮いている雲も全く動いておらず、まるで時が止まったかのような錯覚に陥る。
「やることがない」
また、呟く。
暇ということはやることがない。
やることがないから暇なのだ。
「別にやることないんだったら、何もやらなくていいんじゃないの?」
机で魔術書を読んでいたレイシャが振り向き言った。
僅かにウェーブのかかったロングの赤髪が、揺れ動く。
「なんせ、あなたは、魔王を倒した英雄なんだから」
まぁ、それはそうなのだが。
俺は体を起こし、小さく嘆息した。ソファの上で胡坐をかく。
かつて、この世界には魔王と呼ばれる存在がいた。
魔王とは、俺達のいる世界『リフォティア』の裏側に存在するとされている魔界の王。
魔王はリフォティアと魔界を繋ぐ次元の切れ目である『ゲート』から配下の魔族を率いてやってきて、リフォティアを支配しようとしていた。
しかし、半年前俺と、レイシャともう2人の仲間によって魔王は倒された。
そして、レイシャの開発した封印術によって、魔王軍の使用していた主要なゲートは全て閉じられ、世界に平和がもたらされた。
まだ、倒されることなく、この世界に潜んでいる魔族もいるが、どれも大した力は持っていない。それらの掃討は、国の騎士団に任せて大丈夫だろう。
俺達は世界を救った英雄として、国から莫大な報酬と爵位を授かった。
国の政治に口を出せるような学も、出す気も無かったので、正直爵位はどうでもよかったのだが、とにかく、この先何代も遊んで暮らせるだけの金と権利を得たというわけだ。
レイシャ以外の2人の仲間は、それぞれの故郷に帰ったが、俺達は、国の西部の小さな農村に家を借りて、一緒に暮らしている。
何故、一緒に暮らしているかというと......あれ? どうしてだったか?
確か......余生を過ごすなら西部がいいというような話を聞き、実際行ってみると、ほどよく田舎で、しかし、街からもそこまで遠いというわけでもなく、生活に不便は無さそうだったことから、とりあえず、お試しで、2人で代金を折半し、家を借りることにしたのが始まりだった気がする。
まあ、金は売るほどあるため、個別に家を買ってしまっても問題は無かったのだが、そこは金持ちになる前の金銭感覚がそうさせた。
もうこの村に住み始めて半年が経っており、生活に特に不満も無いため、いい加減、別に家を買って住んでもいいはずなのだが、未だ俺とレイシャは一緒に暮らしている。何故だろうか?
別に俺達は、恋仲というわけではない。ただ2年ほど魔王を倒すために、一緒に旅をしただけの仲間だ。
まあ、でも、繰り返しになるが2人での暮らしにこれといった不満がないのも事実である。
だから、別々に暮らすということも今まで考えなかったのかもしれない。
こういうのを腐れ縁とでもいうのだろうか。
......話が脱線してしまった。
この村に来てしばらくは、怠惰な生活を謳歌していたが、半年もだらけていれば流石に飽きる。
俺は、まだ二十代だ。これから死ぬまで暇して過ごすなんてそれこそ暇で死んでしまう。
「だったら、ユーリのやりたいことをやればいいんじゃない?」
机に肘を置いて寄りかかり、レイシャが言う。
「いや、それが思いつかないからこうやって悩んでいるんだよ。後、俺はユーリじゃなくて、悠里だって」
「今はユーリなんだから別にいいじゃない。というかほとんど変わんないし」
そのままの姿勢で、レイシャはあっさりと言葉を返す。
ユーリとはこちらの世界での俺の名前だ。
何故こちらの世界というような言い方なのかというと、俺には前世の記憶があるのだ。
前世での俺は、こことは別の世界の地球という惑星の日本という国に住む人間だった。
名前は望月悠里。
とはいえ、レイシャのいう通り、今はユーリなのだが、やはり、その呼び方は未だに違和感がある。
前世の俺はそれはそれは、ちっぽけな存在だった。
若くして、一流企業の管理職についている父と大病院を経営する医者の家系に生まれた令嬢の母。
その間に生まれたのが俺だった。
当然俺も、英才教育を受けてエリートコース────と行きたかったが、残念ながらそこまでの才覚は俺には無かった。
受験に失敗して、二流高校に入り、そのショックを引きずって、そこでも落ちぶれた。
進学できたところでせいぜい三流大学。
当然進路なんて全く見えちゃいない。
何より、俺より2年後に生まれた弟。コイツがとてつもなく優秀だった。
都内でもトップクラスの学力の私立高校に入試の成績トップで入学し、おまけにスポーツに万能。人付き合いも上手く、なんでも人並み以上にこなした。
これといった取り柄一つない俺とは正反対のような存在だった。
『弟を見習え』
『兄なんだからもっとシャンとしろ』
毎日のように両親から言われ続けた。
俺はいつも弟と比較されていた。
息苦しくて仕方がなかった。
次第に両親も弟にばかり期待を寄せるようになり、俺はほとんどいない者として扱われるようになっていった。
あの家に俺の居場所は無かった。
今でも時々考える。
俺が死んで、あの家に何か影響があったのだろうかと。
俺が死んだのは、18の夏だった。
弟が全国模試で三十位だが、二十位だったかに入ったお祝いで、最近話題のフレンチの店に家族で来ていた。
俺は行きたくなかったが、片方の息子を置いて3人だけで食事に行ったことが周りに知れたら世間体が悪いからか、無理やり連れてこられた。
レストランの外観は、思ったよりこじんまりしていた。
駐車場も精々8台くらいしか車を止めることができない小さなものだ。
こういうお祝いの時はいつも高級ホテルのレストランとかだったので、珍しいなと思ったことを覚えている。
車から降りて、レストランに入ろうとする。
先頭に父と母。その後ろに弟。さらにその後ろに俺がついていくというような並びであった。
歩きながら俺はふと、振り向き、道路の方を見やった。
何か予感のめいたものがあったわけではない。本当にたまたまであった。
それと同時にドンッという音が聞こえる。
居眠り運転でもしていたのか、それともタイヤがスリップしていたのか、定かではない。
ただ確かなのは、車が歩道を突っ切って、アクセル全開のままこちらに突っ込んできていたということだった。
先程聞こえた音は、車が歩道の縁石を乗り越えた音だろう。
車の進行方向には俺と弟がいた。
別に弟だけでも助けようと考えたわけじゃない。
ただ、反射的に俺は弟を突き飛ばしていた。
その直後、体に大きな衝撃が走った。
弟が振り向き、目を見開いてこちらを見ていた。
それが俺の前世での最後の光景だった。
そうして、俺はユーリ=アイマンとしてこの世界で、再び生を受けた。
とはいえ、始めから前世の記憶があったわけではない。
何の前触れもきっかけもなく、15歳の誕生日に突然前世の記憶が蘇ったのだ。
当然始めは戸惑ったが、変化はそれだけではなかった。
それを意識したのは、幼年学校での剣術の授業であった。
リフォティアでは、学校で剣術を教えることは、さほど珍しいことでは無い。
街の外には、人を襲うモンスターも多くいるし、魔王軍の存在もあることから最低限の自衛手段として、教える必要があったのだろう。
その授業では、一対一の模擬戦があった。
木で作られた模造刀を使い、互いの体の定められた部位に当てれば一本。二本先取した方の勝利というルールである。
俺が通っていた幼年学校には、1人だけこの模擬戦がめっぽう強い奴がいた。
それもその筈、そいつは街一番の金持ちで、元本職の剣士に毎日剣術の稽古をつけてもらっているような奴だった。
実際、それまで俺は一度も奴に勝ったことが無かった。
だが、前世の記憶が目覚めた翌日の授業で、俺は奴に一本も取らせず勝利した。
いつも勝っている相手だけに、奴は「信じられない。まぐれだ」と言って再戦を求めてきた。
それから十試合はしただろうか。
俺は結局一度も奴に剣をかすらせることすらしなかった。
さらに次の日、奴から話を聞いたのだろう、その元剣士の講師が来て、腕を見せて欲しいと模擬戦を申し込んできた。
その男から悪意は感じなかった。
後から聞いたところによると、「教え子に仕返ししてこいと言われていたが、そんなことはどうでも良く、単にそこそこ才もあった自身の教え子がこれといった訓練も受けていない同年代の子供に負けたと聞いてぜひ実力を見てみたくなった」とのことらしかった。
俺は、模擬戦を承諾し、そして完勝した。
流石に、これはただ事ではないと思った。
相手は、同い年の子供ではなく、実際に戦場で剣を振るってきたプロである。
まぐれでどうこうできるものではない。
男は俺の腕にいたく感激し、「冒険者にしろ、騎士にしろ、とにかく絶対に、剣術の才を生かした職業に就くべきだ」と言った。
それから、俺はたびたび父親が護身のために持っていた剣をこっそりと持ち出し、街を出て、裏山にでかけるようになった。
裏山には多くのモンスターがいる。子供1人で行くのは自殺行為だ。
当然、山に入ると多くのモンスターが襲い掛かってきたが、それすらも俺は容易く倒すことができた。
戦いを繰り返す内に気付いたが、俺が手に入れていたのは2つの力だった。
1つ目は危機察知能力。
迫る危険や殺気など、とにかく自分の身の危険に関わる事を敏感に察知することができるようになっていた。戦いにおいては、次の相手の動きが手に取る様に分かった。
2つ目は剣術。
これも危機察知能力と似ているが、目の前の敵を倒すために、どう動けばいいのか、どのように剣を振ればいいのか、考えるより先に頭が、体が理解していた。
幼年学校を卒業した俺は、故郷を出て、冒険者ギルドに所属し、冒険者となった。
冒険者とは冒険者ギルドから斡旋された仕事こなすフリーランスの傭兵に近い職業だ。
その仕事はモンスターの討伐や、ダンジョンの探索、旅の護衛など多岐にわたる。
俺は、数々の依頼をこなした。
冒険者の世界でも、剣術において、俺と張り合える者はおらず、たちまち俺の名は、国中に知られるようになった。
しばらくして、小耳に挟んだのだが、俺の様に前世の記憶を持つ人間というのは、この世界にはごく稀にいるらしく、そういった者は転生者と呼ばれ、皆特殊な力を持っているらしかった。
まるで、前世の世界で流行っていたファンタジーもののライトノベルのような話だ。
そうして、冒険者の中でも5本の指に数えられるくらいになった頃、俺は王宮に呼び出された。そこで、俺の腕を見込んだ国王に、魔王を倒して欲しいと頼まれた。
それから俺は、当時よく一緒に依頼をこなすようになっていた、レイシャと他2人の仲間と共に魔王を倒す旅に出た。
その後は、先程説明した通りである。
「じゃあ、剣術道場でも開いたら? 世界を救った英雄が教えるんだから、大繁盛するわよ」
たった今思いついたといった感じで、レイシャが声を上げる。
「う~ん。俺の戦い方は、俺の危機察知能力ありきだし、ほとんど直観でやってるから、誰かに上手く教えられるとは思えないんだよな。それにその、剣術とかそういう戦いに関することとは別のことがしたいんだよ」
「どうして?」
「......正直、俺も剣の腕には自信があるよ。でも、それは俺が転生者として覚醒したことで得た力であって、俺自身が何か特別な努力をして手に入れたわけじゃない。なんというか、上手く言葉にできないんだけど、やりがいっていうか努力っていうか......俺は苦労がしたいんだよ」
「それはまた贅沢な悩みね。だいたい、努力したわけじゃないって言うけど、結局のところ、転生者として覚醒したことで剣の才能を手に入れたって事でしょう? 何の問題もないじゃない。それが嫌だって言うのなら自分に向いてないことしかできなくなるわよ」
「それはそうなんだけどさ......」
レイシャの言葉に、俺は言い淀む。
レイシャは頬杖を突き、虚空を見上げて言った。
「戦いに関係ないっていうと......。そうだ、頭脳スポーツなんてどう? マジックチェスなら剣の腕は関係無いでしょ」
「マジックチェスか......」
俺は、部屋の中央のテーブルの上に置いてある、チェック柄のゲーム盤に目を向ける。
確かに、マジックチェスなら使うのは頭であるため、誰とでも対等に戦えるだろう。
マジックチェスは、レイシャのお気に入りのボードゲームである。
一応、このリフォティアで一番人気のボードゲームであり、きちんとしたプロ組織も存在している。
ルールは地球のチェスと同じく、相手の王を取った方の勝ちで、駒は、キング、クイーン、ルーク、ビジョップ、ナイト、ポーンに加えて、さらにウィザードとネクロマンサーが存在する。
ウィザードは自身の前後左右、四方向の内、一方向の5×5マスに対して、魔法を放ち、その範囲にいる駒をまとめて葬ることができ、ネクロマンサーは、キングが相手に取られた時にキングを復活させ、何度でも自陣に呼び戻すことができる。
その他にも回数制限はあるが、神の奇跡として、プレイヤーは任意コマをワープさせたり、ゲームから除外する────キング等、一部の駒は除く────ことも可能である。
首を振りながら俺は呟いた。
「いや......でもマジックチェスってぶっちゃけかなりのクソゲーだしなぁ」
「え? 何、唐突な異文化ディス」
レイシャは眉をひそめるが、すぐに首を傾け、言葉を継ぐ。
「えー、それ以外なら、芸術とか?」
「芸術かぁ。あまり気が進まないな。なんていうか芸術ってさ。良し悪しの基準が曖昧っていうか。とりあえず偉い人のやった技法や作品に対して、後付けで深いとか理由をこじつけて評価している気がしないか? 俺、一応世界救った英雄だし、周りも俺に忖度して変に高い評価付けたりするかもしれないだろう?」
「そんなことないし、ただの自意識過剰だと思うけど」
レイシャが冷ややかな視線を俺に向けてくる。
そんな時、頭に新たな案が浮かんだ。
「ああ、そうだ。料理なんてのもいいかもしれないな」
「料理だって、さっきの理屈で言ったら、世界の英雄の作ったものならみんな、気を使って美味しいとか言うんじゃないの?」
「いや、料理の美味い不味いは、割と分かりやすいものだし、芸術と比べるとみんな正直に感想を言ってくれる気がするんだよね。ただの偏見かもしれないけどさ」
「どう考えてもただの偏見でしょ」
レイシャの視線が一層冷たさを増す。
しかし、自分で言っておいてなんだが、しばらく経つと、料理もなんだかしっくりこないような気がした。
他にも商会を作って商売の道に進むということも考えたが、そもそも金に困っていないのに金儲けを目的にするのも馬鹿らしかったので却下した。
「やっぱり、そう簡単には思い付かないかぁ......」
片手で頭を抱えて呟く。
その時、ふとレイシャの机の上に、広がっている魔術書が目に入った。
「なあ、魔術の研究って面白いのか?」
思い付きで尋ねる。
半年もの間だらだらしていた俺とは違い、レイシャはこの家に越してからずっと魔術の研究をしていた。
転生者として、剣術の力は持っていたものの、そのせいか俺にはほとんど魔力が無く、それまでレイシャが四六時中やっていた研究にも、興味を持ったことは無かった。
レイシャも俺と同じく、一生働かなくてもよい身分だ。
にも関わらず、何故そんなに打ち込むのかと、ふと疑問に思った。
「まあ、面白いわね」
予想していなかった質問に、リーシャは一瞬目を大きく開いたが、すぐに答えた。
「なんていうか、こう嫌になったりとかしないのか?」
「どういう意味?」
質問の意図が理解できず、リーシャは眉を寄せる。
「俺も魔術の研究がどういうものかは知らないけどさ。なんていうか、どうしても自分の思うようにいかない時とかってあるんじゃないのか? そういう時、苦痛に感じたりしないのか?」
レイシャの魔術の才能は世界でも三本の指には入るだろう。
だが、だからといって、研究を進める上で、何の苦労も無いというほど、簡単な話ではないはずだ。
なのに、そこまでして、魔術の研究を行う理由があるのだろうか。
レイシャはしばらく押し黙っていた。
しかし、しばらくして、口を開く。
「そりゃあ、そういう時もあるけど......そうね。例えば、新たな術式を作る時、思い通りにいかなくて苦しくなることもある。でも、自分でも納得いく出来のものができた時には、凄くいい気分になるの。その時に感じる喜びは、私にとって他のどんなものとも代え難いもので、研究以外のことをしても手に入らないものなの。やればやるほど、苦しむことになるのは分かってる。でも自分の求める喜び────幸せは、研究を進めた先にしかない。それも分かっているから、苦しいことがあっても続けているんじゃないかしら」
その時、俺の頭の中にひらめくものがあった。
ただ、それが何なのか上手く形にならない。
いや、本当は分かっていたのもしれないが、それを認めることは今までの自分を否定することになるため、あえて気付こうとしなかったのかもしれない。
「まあ、他にやりたいことがないっていうのもあるけどね」
そう言って、レイシャは照れ臭そうに笑った。
「......そうか」
俺は、それだけ返すと、立ち上がった。
1人になりたい気分だった。
突然話を中断した俺に、レイシャはぽかんとして、視線を向ける。
その視線を背中に感じながら俺は部屋を後にした。
それから半日後、自分の部屋に戻った俺はベッドに仰向けになり、考えていた。
既に日は完全に落ちている。
窓から月明かりが入ってきて、部屋の中を薄らと照らしていた。
レイシャの言葉を思い出す。自分の求める喜び────幸せは、研究を進めた先にしかない。
苦しんだ先にしかない喜び。いや、苦労することが目的ではない。苦しんでもなお、求めずにはいられない喜び。
自分に欠けていたのは、それではないだろうか。
前世で、弟と比較され続ける日々に俺は不満を持っていた。
もし、弟程の才能があれば、他の家の子供として生まれていればとよく考えていた。
だが、魔王を倒し、誰もが羨む栄光を手にした今でも、自分の人生にどこか不満を感じてしまっている。
環境や才能の有無が当人の人生における幸福度と無関係だとは言わない。
むしろ、それらはかなり密接に関わっているだろう。
誰だって好き好んで苦労などしたくないのだから。
だが、俺が満たされていないと感じていたのは、前世も今も同じ理由からではないだろうか。
例え苦しむことになっても、どれだけ困難な道のりであろうとも、望み────欲っさずにはいられないような喜び。夢や生きがいとも言うべき強い思いが、俺の中に無かったからではないか。
では、俺は何を望んでいるのだろう。
前世ではなんとなくラノベ作家になりたいと考えていた様な気がする。
だが、それは、本気でなりたいと望んでいたことだっただろうか。
作家を目指す上で避けられない苦しみやリスク。それらを全て受け入れてなお、自分にとって本気で目指す価値のあるものだと考えていただろうか。ただ、漠然とサラリーマンになりたくないから、凡庸な人生を歩みたくないから、現実から逃れるための夢を作り出していただけではないのか。
別に大きな夢でなくてもいい。
愛する人との家庭を大切にする。そういった幸せの形もあるだろう。
もしも、そんな本気で自分の人生を賭けうる程の望みを見つけることができていれば、例え弟と比べられようとも、例え両親から期待されていなかったとしても、あの世界でも、もっと満足のいく人生を送れた可能性はあったんじゃないのか。
とはいえ、俺はもう死んでしまった。前世のことを考えてももう遅い。
俺の望み。今からでも探し続ければいつか、見つけることができるのだろうか。
俺は、自問自答し続けた。自分が何をしたいのか、何を望んでいるのか。
だが、やはりいくら考えても答えは出なかった。
そうして、気付けば意識を失っていた。
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