バベルな一日

@twotwo22

第1話 読みたい物は

 アルドとその仲間たちは今日も次元を越えて旅をしていた。

 次元戦艦に乗り込み、合成鬼竜の所へやってきた。次元を、時代を超える能力を持つ彼に時を超えて目的の場所へ連れて行ってもらうためだ。他にも方法はあるが、彼が行けるところなら彼に頼んだ方が早いのだ。

「ああ、アルドではないか。今日はどこへ行く」

「今日はニルヴァに行ってほしい。リィカがマクミナル博物館の図書エリアでちょっと調べたいことがあるらしくて」

 ニルヴァとは、アルドが育った時代—AD300年—から見て未来—AD1100年—で、汚染された大地から去るために浮かんだ大陸の周りに点在する島の一つである。マクミナル博物館では古今東西様々な美術品や歴史を語る品々が収められている。

「データベースノ強化ノためデスノデ!」

 リィカも付け加える。未来で生まれた人間と同等の人工知能を持つアンドロイドであるリィカが、仲間の中でデータ分析を担うこともままあることだ。

「分かった。しっかりつかまっていろよ」

 合成鬼竜はスピードを上げ、次元を超え始めた。

アルドもこの感覚にすっかり慣れて心地よさも感じるほどであった。風を切る感覚、時を超えていく感覚。今日のような天気のいい日だとなおさらである。

「それにしてもリィカ、今日はニルヴァで何を調べるんだ?」

アルドはリィカに尋ねた。

「フフフ、よくゾ聞いテくれマシタ」

「何だ?」

「物語デス!」

 リィカは誇らしそうにピンクのツインテールの髪をぐるぐると縦に回転させた。その機能は必要なのかいつ見ても不思議である。

「物語?」

 アルドは首をかしげた。

「ソフィアサン、シンシアサンやクロードサンノことヲ見ていて思っタノデスガ」

「ふんふん」

「本当ニ伝えたいモノデモ時ガ経ったら消えテしまう、歪められテしまうモノもアル。時ガ経たなくテモ権力ヲもった人ニ壊されテしまうノデス」

アルドは、ある物語に書かれた人や何百年もの間本に閉じ込められていた少女、あるいは消された歴史を人知れず復活させた青年に聞かされた話とそしてそれに付随して起こったあれやこれやを思い返した。

「確かに悲しいよな」

「ダカラ巧妙に隠す必要がアルのでハと!」

「うん」

「デハ、アルドサンならどうやっテ隠シマスカ?」

 リィカがずずいっと近寄ってきた。

「え!ええ?どうやって?えーと、?」

「まア、それがワからないノデ調べるノデス」

 リィカはすっと離れた。

「え、ああ、そうなんだ……」

「マクミナル博物館の図書エリアにある全てノ物語を調べテ暗号を見つけマス!そしタラきっと、えーと、エデンサンのところへ行くきっかけガ見つかるト思いマスノデ!」

 アルドたちは、世界の崩壊を止めてくれた彼、エデンを助けたくて、どこかに手掛かりがないかと探しながら旅を続けている。

「それってかなり時間かかるんじゃないか?」

「なにヲ言っテいるンデスカ、アルドサン。ワタシはスーパーアンドロイドデスノデ、情報ノ処理などあっというまデスノデ!」

「本当か?」

これまでのリィカのポンコツぶりを思い出していまいち信用できないアルドである。

エイミ―拳の強い武闘家で未来の時代の武器屋の娘である―がふとなつかしそうにこぼした。

「物語かあ、私、昔お姫様のお話読んでたなあ。お母さんに読んでもらってた」

「へえ?エイミが?意外だな」

「意外って何よ」

「いや、冒険物を読んでいるイメージがあって」

明らかに武闘家のイメージからである。

「まあ、それも好きだけど、お母さんとの思い出が、ね」

「そうか……」

 幼い頃に母親を亡くしているエイミに、アルドは何を言えばわからなかったが、合成人間のヘレナが優しい声で言った。

「あら、素敵な思い出ね」

「ヘレナ、ありがとう」

 エイミは微笑んだ。

「物語ねえ」

「ヘレナも読むのか?」

「私はあんまり読まないけれど、ロマンがあるのは知ってるわ。量子力学の本でもないかしらと思ってたけど、物語を探すのもいいかもしれないわね」

 未来で合成人間たちのトップであるガリアードの補佐をしていたヘレナは難しい本を読もうとしていたようだ。さすがである。

合成人間とは機械と人間が組み合わされた存在であるが、権利を得るべくレジスタンス活動を行っていた。アルドたちにより人間との和解に至っている。

「よくわからないけど、いいのがあるといいな」

「ええ」

 ここで元気な声が上がる。

「お兄ちゃん!私は魔獣のこと書いてる本を探すね!」

「おお、いいじゃないか!」

 アルドの妹のフィーネは、自分が周りのために何が出来るかいつも考えている。魔獣に人質とされた際にもそうで、その一生懸命さが魔獣たちにも伝わり、和解につながった。人間と魔獣の架け橋の一人である。張本人である魔獣の王であった男、ギルドナも言葉にすることはほとんどないが感謝しているだろう。

アルドは彼に聞いた。

「ギルドナはどうだ?」

 水を向けられたギルドナは静かに答える。

「同じだ」

「うん?」

「……魔獣の本を探す」

「そうか、いいな!」


 一人、皆から離れて話を聞いていない人がいた。サイラスである。アルドから見て古代—BC2万年—出身の彼は、呪いによりカエルの姿になっているが、二本足で立ち、刀を腰に下げているサムライである。

「サイラス?」

「む?」

「サイラスはどうだ?」

「何がでござるか?」

「いや、物語読むのかって……」

「いや、ワシはあまり。鍛練するのが楽しいのでござるよ」

「折角なら読んでみるのはどうだ?」

「う、文字が苦手でござるよ」

「じゃあ絵本とかは?」

「それだとなんとか……?」

 しかし苦虫をすりつぶしたような顔である。

「本当に苦手なんだな……まあ、折角なら本を見てみるだけでもしたらどうだ?」

「そうでござるなあ……は!鍛練の本はあるでござるかな!?」

「あ、あるんじゃないか??まあ、探してみてくれ」

 その時、合成鬼竜が不可解そうな声を上げた。

「む?」

「どうかしたか?」

「いや、なんだかいつもと違うのだが……」

「え?」

 瞬間、次元戦艦の機体が大きく揺さぶられ始めた。

「なんだ!?」

「お、お兄ちゃん!」

 フィーネが叫ぶ。仲間たちもその揺れに耐える。

「きゃーー!もういったい何だってのよ!」

「久しぶりに大変でござるな!」

「デ、データベース損傷カラ守るタメ、プロテクト機能を発動シマス!」

「落ち着きなさい、あなたたち」

「たくこれくらいで騒がしい……」

 動揺する人、落ち着いた人それぞれである。

「みんな、耐えるんだ!」

 しばらく経つと揺れが収まった。

「なんだったんだ今の揺れは」

「怖かったね、お兄ちゃん」

 ギルドナが気づいた。

「アルド、ここはニルヴァじゃないぞ」

 見渡せば周りは何もない真っ白な空間だ。

「本当だ……」

 エイミやリィカたちも立ち上がった。

「エイミ大丈夫か?」

「ﻧﺎﻧﻲﻧﺎﻧﻴﺤﺎﺃﻭﻛﻮﺗﺎﻧﻮ」

 彼女の口から出てくるのは耳慣れない音であった。

「エイミ?」

「ﻧﺎﻧﻲﻧﺎﻧﻴ ﺇﻳﺘﻴﺮﻭﻧﻮ!」

「何を言ってるんだ?」

 リィカがやってくる。

「ピー、ガシャ、ピーピーピー」

 話しているはずなのに壊れた機械のような音がした。

「あれ??リィカ?」

 そんなアルドにヘレナが話しかけた。しかし、

「ﺳﻮﺣﻮﺇﻳﻴﻮﺭﻱﺩﺍﺗﺎﻭﺍﻧﻲ」

 これもまたアルドに理解のできない音であった。

「え?ヘレナまで!?」

 アルドは混乱し始めた。

「じゃ、じゃあ、フィーネは」

「これ、どうなってるの、お兄ちゃん!!」

「おちつけ」

「あれ?フィーネとギルドナは分かるな……」

 サイラスがアルドの隣にやって来た。

「○△○☆☆○☆□○×○」

「だめだ、サイラスの言ってることも分からない……」

 合成鬼竜も何か言っているようだったが、理解できなかった。

「うーん、一体なんなんだ??」

「どうしよう?お兄ちゃん……」

 よく見ると、エイミ、リィカ、ヘレナ、合成鬼竜は話が通じているようである。サイラスは誰の言葉も分からないないのかぐるぐると周りを回っている。混乱ぶりがよく伝わってくる。

「どうしたらいいんだ?」

考え込んだその瞬間、あたり一面眩しくなった。

「うわ!?」

何も見えない。声もあらゆる感覚も分からなくなった。

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